第66話「ナルシズム」
「ふぅ~、やれやれ」
シルバーリッターは肩をすくめ、ため息をつく。
「やれ、万死に値するだの、地獄に落とすだのと、出来ないことを口にするのは児戯と同様。そのような戯言にワタシを付き合わせないで頂きたいものですな」
モーニング姿に、キッチリとオールバックにまとめられた髪型。壮年と呼んでも差し支えない年齢なのだろうが、顔にシワはほとんどなく、若々しい。彼は片眼鏡を直しつつ、力強くコツコツと革靴の小気味良い音を石畳に響かせる。
優雅に歩いていると思った瞬間、シルバーリッターはイチコたちの視界から消えると、骸骨巨人の方から轟音が響く。
「なっ!?」
一瞬で骸骨巨人の体はバラバラに分解され、ロメロたちへ降り注ぐ。
「イチコさんっ!!」
ロメロは咄嗟にイチコを庇い、骨を受けきる。
骸骨装備のおかげで、大きな傷はないが、頭部から一筋の血が流れ落ちる。
「ケガは……って、イチコさんはレイスだから効かないんでしたね。うっかりしていました」
ロメロは照れたように笑みを浮かべる。
その血に濡れた笑顔を見たイチコはカッっと頭に血が登り、バスターソードを取り出すと、シルバーリッターへ投げつけた。
「こっのぉ! よくもロメロ様をっ!!」
しかし、バスターソードは簡単に悠々と避けられる。
「これだから低能は手が早くて困る。少し、ワタシの話を聞いた方がいい」
「あんただって、すぐ手出して、骸骨巨人を破壊したじゃないっ!! この低能っ!!」
イチコの的を得た口撃に、血管がピクッと動く。
「ワタシが低能だと、たかがレイスごときがっ!!」
シルバーリッターは怒りにわなわなと体を震わせるが、すぐに思い直したのか、怒りを収める。
「ふぅ、危ない。怒りに任せて行動するところだった。紳士はそのような感情に流されないものだからね。全て、計画通りに冷静に完遂することこそがエレガント」
シルバーリッターは怒りを抑えた自分に酔いしれ、うっとりとした表情を浮かべる。
「普通なら激怒するところをぐっと堪えるワタシは美しい、流石ワタシだ」
その様子に眉をひそめながら、イチコはこっそりロメロに耳打ちする。
「すごく気持ち悪いんですけど……。ナルシストってやつよね?」
「たぶん、そうですね。ですが、骸骨巨人を一瞬で倒した力は本物です。イチコさんは極力怒らせないようにしてください」
「善処はするわ」
イチコがこくりと頷くと、ロメロは一歩前へ出る。
「さて、だいぶ遠回りしましたが、シルバーリッター、あなたに聞きたいことがあります」
「ふむ、ようやく、まともに話が出来る相手がきたようですな。さてさて、エレガントなワタシはあなたの質問に先回りして答えてあげましょう。ずばり、上質な睡眠とバランスの取れた食事、それに適度な運動です」
「……何を言っているんですか?」
珍しく困惑した表情を浮かべるロメロに、逆に何を言っているんだといった様子でシルバーリッター答え返す。
「この素晴らしい肉体美の秘密ですが? あなたの目のクマや頬のコケは明らかに栄養不足。エルフという素晴らしい種族なのですから、しっかりとケアをしなくては。死霊術師だからというのはいい訳にはならないのだよ」
いつの間にか、ロメロの背後に回り、頬と腹筋を撫でまわす。
「ふむ、筋力はなかなか、ならば、バランスの取れた食事を心がけるだけでかなり改善するだろう。どうだい。魔王を捨ててワタシの元へ来ないか?」
「お断りします。あなたの元は魔王様ほど魅力を感じないですし、僕の知り合いのセシリーを誘拐するような者は、殺す対象にはなっても、仕える対象にはなり得ない」
ロメロは腕を掴むと、そのまま投げ飛ばす。
シルバーリッターは人間とは思えない身軽さでひらりと地面へと降り立つ。
「残念です。あなたならいい駒になると思ったのですがね」
それほど、残念でもなさそうに項垂れていると、ロメロは話を戻したいとばかりに口を開く。
「僕が聞きたいのはセシリーさんのことです。彼女はいま、どこに?」
「ああ、なんだ。そんなことか。セシリーというレイス・ロードならここだよ」
シルバーリッターは指にハマる指輪のひとつを結婚会見のように見せつけた。
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