第65話「シルバーリッター家 破壊」

「そうか、それで……」


 ロメロはランタンの光を見て、ここの墓地に再び訪れる前、骸骨兵士のサイカから、名前を呼ばないでくれと言われていた。

 それは、サイカが帰ろうとしていた理由がセシリーにあったからだ。


 ロメロ自身はサイカが家へと戻る際に一瞬しか見ておらず、彼の恋人がどんな人物だったのかほとんど記憶になかったのだが、今の彼の怒りと焦りにより、そのときのことを思い出していた。


 セシリーを見に行ったのはその一度だけで、ロメロが何度進めてもサイカは頑なに断っていた。


「死んだ自分が遠くから見るだけとはいえ、彼女に干渉していいものではない」


 しかし、そんなある日、彼女の訃報が耳へと入った。

 病による死だったと聞いた。

 死の直後に花を手向けに1度セシリーの墓は訪れたが、そのときにはレイスになっているなどつゆ知らず、気づかずに墓前に花束と鏡を備えた。


 もう40年以上も前の話に今の今まで、まったくロメロは気づくことはなかったのだが、サイカの心はあの時から全く変わっていなかったのだろう。

 きっと名前を呼ぶなと言ったのも、最初の訪問でセシリーのレイスに気づいたからだったのだろう。


「なるほど、好きなマドレーヌを知っている訳ですね」


 ロメロはそう呟くと、骸骨兵士とイチコを引きつれ、再び墓地の外へと歩んで行った。


「場所の目ぼしは付いています! 行きましょう、シルバーリッター家へ。二度と彼の大事な者を失わせない為にっ!!」



 シルバーリッター家へとたどり着くと、そこは異様な雰囲気に包まれていた。


「全然、人の気配がないんですけどっ!」


 屋敷の大きさはゴールドバーグ家と大差ないにも関わらず、門番や衛兵どころか、使用人の気配すら感じられなかった。


「本当にここ、三大豪商とかの1つなの?」


 イチコの疑問は当然なのだったが、


「いえ、先日僕が調査に来たときには、門番も使用人も居ました。この状況が異常なんです。警戒して進みましょう」


 ロメロが門をゆっくりと押し開けると、不意に玄関の扉が開け放たれた。


「う、うわああああああっ!! こ、こんなの聞いてないぞっ!!」


 屈強な男が外へ出ようとすると、見えない何かに掴まれ、屋敷の中まで連れ戻されていく。


「やめろぉぉぉぉぉぉっ!! まだ、まだ死にたくないぃぃぃぃ!!」


 一瞬で男は屋敷の中へ消えると、扉は再び固く閉ざされた。


「急にパニックホラーの世界になったわね」


 和風ホラーの代名詞のような姿をしていたイチコだったが、姿がキレイになった瞬間、自分のことを棚上げして、そう評した。


「でも、ここに入らないとセシリーは助けられないし、行きましょう!」


 しかし、イチコの言葉を遮るように骸骨兵士のサイカはロメロへとカタカタと語り掛ける。


「なるほど。その手でいきましょう」


 ロメロは大きな魔法陣を展開させると、骸骨巨人を呼び出した。


「人の気配はないですし、全部、ぶっ壊します! 行けっ! 骸骨巨人ビッグスケルトンっ!!」


 全長10メートルの骸骨の巨人は、怪獣のようにやたらめったらに屋敷を破壊しだした。


「あ~、たぶん、ここのシルバーリッターって人、屋敷の中に色々な罠を仕掛けてたと思うのよね。わざわざ玄関での演出もしちゃってさ。アタシも昔よくやったから分かるんだけど。あれ、結構大変なのよね。ただ殺すだけじゃなくて、驚かせて殺すまででワンセットなのよね。まぁ、破壊対策を練らなかったのは失策なんだけど、ちょっとだけ、本当にちょっとだけ同情するわね。まぁ、アタシとロメロ様と骸骨兵士スケルトンのサイカを怒らせたのだから、当然ではあるのだけどね」


 完全に破壊作業が終わると、今度はセシリーを探す作業に骸骨巨人は移る。

 瓦礫をどかし、ちょっとずつ何があったかを確認していく。


 ある場所を掴んだところ、骸骨巨人の腕が吹っ飛んだ。


「このクソ野郎共がっ! よくもワタシの屋敷を、ワタシのエクセレントな罠の数々を粉々にしてくれたなっ!!」


 怒りの声をあげるシルバーリッターに向かって、骸骨兵士は一歩前へ出ると、カタカタと口を動かした。


「セシリーをかどわかした報い、万死に値するっ! 簡単に死ねると思うなよ」


 ロメロは骸骨兵士の言葉を代弁すると、イチコも決め台詞を盗られてなるものかと、骸骨兵士に対抗して、声を上げた。


「そうよ! アタシの大事な侍女予定のセシリーを誘拐するなんて許せないわ。覚悟はいいわね。あんた、地獄に落とすわよっ!!」


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