第64話「骸骨兵士(スケルトン)」
ロメロの操る骸骨たちは、当然生前があったのだが、
彼との出会いは、約50年前にまで遡る。
当時、ロメロはまだ四天王ではなく、ただの死霊術師だった。
それも得意分野も分からず、日夜死体と向き合う日々を送っていた。
そんなある日、ロメロは死体を求め彷徨っていると、林道で盗賊たちに出会う。
「くそっ! なんなんだあのバケモノはっ! 人間じゃねぇ!!」
その手には血の滴るロングソードを携え、明らかに襲った側であるのだが、この怯えようは返り討ちにあったのだろうとロメロは推測した。
返り討ちにしたのならば問題はないだろうが、一応けが人でもいれば治療しようかと盗賊が逃げて来た方へと赴く。
襲われ、横転している金色の獅子の紋章が入った馬車を発見すると、ロメロは急いで近づく。
すると、ヒュンッと剣閃が目の前を走り、咄嗟に身を翻す。
「ま、守る。守って、オレは、帰る、んだ」
そこには夥しいまでの血を流し、炎の魔法でも浴びたのか全身焦げてしまっている護衛の兵士がぶつぶつと呟きながらも、馬車を守り続けていた。
「なぜ、その状態で生きていられるっ!」
幾多もの死体を見て来たロメロでさえ、男が生きて動いていることが信じられなかった。だが、その驚きとは関係なく、そんな姿になっても守ろうとする男の姿に尊敬の念を抱く。
「大丈夫です。僕は敵ではありません。盗賊たちはすでに死んでいるか、先ほど逃げ去っていったかのどちらかです」
馬車の周囲には盗賊とみられる身なりの悪い男たちの亡骸が数体転がっている。
「そ、そうか、よかった」
男は剣を離し、その場へと倒れ込む。
「か、帰るんだ。オレは、必ず…………」
そこで男は事切れってしまった。
ロメロは、まず男の守ったモノを確認するべく、横転した馬車を確認すると、中には身なりのよい女性と年端もいかぬ少女が震えていた。
扉を開けたロメロを見ると、小さく悲鳴をあげ、少女を庇うように腕の中に抱える。
「大丈夫です。安心してください。僕は旅の魔術師のロメロといいます。盗賊は外の彼が命がけで追い払いました」
人間からは特に忌み嫌われる死霊術師というのを隠し、極力柔和な笑みを心がけて、顔を作るが、まだ信用はしてもらえないようで、猜疑の表情が女性に浮かぶ。
「ああ、横転したときの怪我ですか?」
少女の額に擦りむけがあり、ロメロは手を伸ばし、治癒する。
傷はあっという間に治ると、女性の表情に安堵が浮かぶ。
「すみません。いままで警戒していました。ですが、治癒魔法が使える方ならお金に困ることはないでしょうし、ましてや盗賊などいたしませんわね」
「いえ、見知らぬ男を警戒するのは当然ですよ」
ロメロは一度馬車の外へ立つと、辺りを見回し、枯れた古木を見つけると魔法を行使した。
「植物だろうと死体は死体。あまり植物の死体操作は得意ではないですが、植物系の魔法と偽れるのはこれくらいしかないですからね」
枯れ木の枝が伸びると、馬車を抱え、ゆっくりと起こし始める。
流石に枯れ木となれない死霊術のせいで馬力はいまいちなのだが、そこはロメロも起こすのに力を加えカバーした。
「ハァハァハァハァ。た、体力の無さを痛感しますね。少し、体術か剣術でも習って体力つけましょう」
すでに汗だくになりながら、固く誓うと、次に、馬の傷を見る。
脚の骨が折れて動けなくなっている。普通ならばもう2度と走れるようになることはないが、ロメロは馬の脚を死霊術の応用で治癒し、なんとか走れるようにした。
「さて、これでもう大丈夫ですよ。ただ1つ。外の彼なのですが、とてもお二人にお見せできるような状態ではありませんので、僕が代わりに弔いましょう」
「そう、彼のおかげで、ワタシたちは生きているのに、何もしてあげられないなんて」
女性は申し訳なさそうに目を伏せる。
「その気持ちだけでも充分だと思いますよ。彼に家族は?」
「わからないわ。あまり自分のことを語る人じゃなかったから」
「そうですか。では、一応家族がいたらこれを」
ロメロは男の持っていた剣を渡すと、女性はしっかりとそれを受け止めた。
「最後に、彼の名前はなんというのですか?」
「サイカです。どうか、彼をよろしくお願いします」
女性は頭を下げると、ロメロは頷き、馬車を送り出した。
「さて、早いですね。まさか、もうレイスになるだなんて」
サイカの死体の周りにはすでにレイスと化した彼が浮かぶ。
「そこまで家に帰りたいのですね。ですが、今の貴方では、家族の前に姿を見せても無駄に家族に未練を与えるだけですよ」
「家族はいない。だが、彼女、彼女を一目でいいから見たい。もちろん遠くから見るだけでいいんだ」
「分かりました」
ロメロはサイカの死体を動かそうと術を行使したが上手く動かせない。
「肉体の損傷が酷いですね……」
それでもなんとか動かそうとすると、焼けただれ炭化した肉体は剥がれ落ち、その下の骨だけが形を持って動き始める。
「これは、今までの死霊術じゃない。骨だけの方が、完成されているのが分かる。これが僕の適正だったのか。でも、これじゃあ、
せめて人間の姿でと思っていたロメロは申し訳なさそうにするが、
「構わない。どうせ、姿は見られないのだから」
再び、サイカの魂は自分の体に宿り、こうしてロメロの最強の兵、
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