第58話「ロメロVSキメラ」

「ガアアアアッ!!」


 獣のように咆哮をあげる姿に憐憫れいびんの眼差しを向ける。


骸骨兵士スケルトンっ!!」


 ロメロの呼びかけに応え、スケルトンは胴体にロングソードを突き立てるが固い鱗に阻まれる。

 骸骨兵士は明らかに不愉快そうなカタカタと歯を鳴らし、すぐにターゲットを代え、魔獣の部分である脚を狙う。

 体毛により完全に刃は入らないが微かな傷を与える。


 骸骨兵士では明らかに火力不足なのだが、ロメロは慌てる素振りすら見せず、むしろ予定調和と言わんばかりに落ち着いていた。


 理性も思考もほとんど獣と化したアラギは目の前に跳びまわる骸骨兵士だけを気にかけ、攻撃を仕掛ける。

 時を操作する能力も健在でときどき攻撃を受けるがフェイントも戦術も何もない攻撃を先読みするするのは骸骨兵士には造作もなく、予め防御し致命傷を受けることは万に一つもなかった。


「時間稼ぎ、ご苦労様です」


 ロメロは労いの言葉を骸骨兵士スケルトンに掛けると、背後に巨大な魔法陣が現れる。


「来い。骸骨巨人ビッグスケルトン!!」


 ロメロの背後から全長10メートルはあろうかという巨大な骨のモンスターが上半身だけ現れる。

 イチコが見ていたのならば、上位妖怪の『がしゃどくろ』だと叫んでいたかもしれない風貌であった。

 この骸骨巨人の腕だけならば今までもロメロは使用していたのだが、上半身を晒すのは久々の事であった。


 骸骨巨人の左手には指が無かったのだが、イチコを取り囲む格子を見つけると、それをハメる。

 準備完了と言わんばかりに拳を握ると、ガチガチッと音を立てて、アラギに向かい拳を放った。


 先に戦っていた骸骨兵士もろとも吹き飛ばす。


「ガアアアアッツ!!」


 アラギはすぐに立ち上がるが、それを見越して、すぐに骸骨巨人が手の平で叩き潰す。


「あなたに考える頭が残っていれば、ゴールドバーグ家の皆さんの近くに行くことや屋敷に潜むことで、この骸骨巨人ビッグスケルトンは防げたかもしれないですが、獣となり果てた今では、それすら出来ないようですね。この敗北は状況が悪かった。その一言に尽きます」


「ググググググッ!」


 力任せに骸骨巨人の手を押し上げると、アラギは時間を最大限停止させ、術者のロメロを狙う。


 鋭い爪からの一撃がロメロの首筋を捉えたかに思われた。

 そこで時間が再び進み始めると、ロメロは落胆のため息を吐いた。


「無駄ですよ。言ったはずです。僕は防御の方が得意だと」


 攻撃の失敗という最大限の隙を見せたアラギに骸骨兵士スケルトン骸骨巨人ビッグスケルトンからの攻撃が同時に襲い掛かり、アラギは地面へと倒れ伏した。


「万能の骸骨兵士スケルトン、破壊の骸骨巨人ビッグスケルトン、そして、僕の体内から攻撃を防御する守備の骸骨装備エンドスケルトン、彼ら全員を用いたのは久々です。誇りに思って死んでいってください」


 ロメロはアラギに敬意を払い、胸の前で十字をきった。



「う、あ、ああっ、わ、私は、いったい……」


 擬態が解け、人間としての姿を取り戻したアラギはぼんやりとした意識の中、自分の命がもう永くないことを悟る。


「ふぅ、う、いつかは、こんな結末を迎えると、思っていた。金の為に全てを売って来たんだ。当然の最後だ。だけど、今日は、虫の1匹も殺していない。そんな日に死ねるなんて、ふっ、私にしては上々な死に様だ」


 アラギは柔らかな笑みを讃えたまま絶命した。




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