第57話「ロメロVSアラギ」

「僕が不甲斐ないばかりに、イチコさんをここまで傷つけてしまった」


 ロメロは皮膚が裂けるのも構わず拳に力を込める。


「僕は、僕から奪う者を決して許しはしないっ」


 まっすぐにアラギを睨みつける。


 どうやって魔道具から逃れたのか謎だが、状況は圧倒的にアラギの方が有利のはずにも関わらず、ロメロのプレッシャーに圧倒される。


 思わず一歩後ずさると、まるでそれを阻むように不自然に一方行に風が吹き続ける。


「風の魔法か? いったい誰が? いや、そう言えばフェリダーのレイスがいたな」


 先ほど自分を襲ってから、全く姿を見なくなったフェリダーの存在を訝しみ、それが魔法でロメロを魔道具から守っているのだと推察する。


「だが、動けるようになったからといって今の私には勝てんっ!」


 アラギは両腕を再びゴーレムに変えると、時間を止めてロメロに近づいた。

 止まった時間の中、ロメロを殴りつけるが――


「ぐっああっ、があああっ!!」


 痛みに腕を押さえたのはアラギの方であった。


「お前、何をした?」


「知る必要がありますか? これから死ぬのに。ただ、今の一撃はイチコさんを傷つけられた、僕とリコリスの怒りの一撃だと理解しろ」


 ロメロはアラギの手に指輪が増えていることから、クロックラビットの能力が追加されている可能性を考慮していた。

 そして、それの対応策として、リコリスの魔法に1つ追加で注文をつけていた。

 それは骨の粉末も風に混ぜることだった。わずかな光源しかない深夜の今、それは目を凝らさなければ見えない罠となっていた。


 ロメロの死霊術で強化された骨の粉末はゴーレムごときの腕では壊れず、逆に腕にめり込み、アラギに激痛を与えていた。


 アラギは一度距離を取ると、腕の傷の付き方や止まった時間にも対応する防御方法を模索すると、答えに辿り着く。


「ならば、これは防げるか」


 ゴーレムの手から、刀のような形状へと擬態し、さらにスピードもつける為、脚を狼のように変化させる。

 そして、飛び出してから時間を止めようと考え、脚に力を込めた瞬間、ザクッと腹部に奇妙な感覚が訪れる。


「こちらにもスピード自慢はいるんですよ。時間を止めるのには随分力が必要みたいですから、エネルギーを節約する、その間を狙わせていただきました」


 ゆっくりと視線を降ろすと、そこには骸骨兵士スケルトンが急所に剣を突き立てていた。


「ぐっ、ま、まだだっ!」


 アラギは擬態を利用し、体を弄り、致命傷から逃れようとすると――


 パリンッ!


 指輪が2つとも砕けると共に、奇声が漏れる。


「がっ! ががががががががっがががががががががががっ!!」


 急に体中様々なモンスターに変化し、ごちゃまぜに体が再編成されていく。


「ご、ごんなの、ぎいで、ないぞ」


 アラギの体は、人狼の手足に蝙蝠の羽、体はオークのように大きく膨れ上がり、その皮膚には鱗の鎧が現れる。顔はウサギの耳に赤い目、獣と人間の中間のような輪郭は、もはや化物以外の何者でもなかった。


「魔道具をいくつも使ったが為の暴走ですね。もはや、ヒトでもモンスターでもない合成魔獣キメラになり果てたようですね。安心してください。僕が全力を持ってヒトとして殺してあげます」

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