第53話「ロメロ&骸骨兵士」

 ロメロの呼びかけと共に魔法陣が一瞬宙へと現れると、何もない空間から骸骨兵士が出現する。

 骸骨兵士とロメロは並ぶと、洞の両目で相手の力量を計る。


「ええ、かなりのやり手ですが、僕たちならば問題ないでしょう」


 その言葉と共に、骸骨兵士は飛び出し、剣を振るう。

 アラギはなんとかその動きを捉え、応戦するが、力が増している今でさえ、その一撃は受けるだけで精いっぱいだった。


 その様子を感じ取ると、骸骨兵士は怒涛の攻勢に移り、あっという間に壁際まで追い詰める。


「強力なスケルトンを従えているようだが、ちょいとオツムが足りないんじゃないかな。主人と離れすぎだぞ」


 アラギの脚はいつの間にか人狼のような脚に擬態しており、獣独特の脚力で持って、一瞬で骸骨兵士の猛攻から抜け出し、一人となったロメロへと迫った。


 そして、剣による一撃が振るわれたと思ったその時、ロメロはニヤリと笑った。

 その表情に悪寒が走り、本能がヤバイと告げていたが、攻撃はすでに止めることは出来ず、そのまま、魔道具の剣がロメロへと振れた。


 ガキッ!!


 固い岩か何かにでも阻まれたような感触を覚える程だった。見ると、剣が触れているのは骨の腕であり、それはロメロの体から生えていた。


「僕はもともと攻撃より守備が得意なんですよ。彼がいれば、それを十分に発揮できます。あとは――」


 剣を引いて逃げようとしたが、すでに骨の手によりがっちりと掴まれていた。

 そこからのアラギの判断は早かった。さっさと剣を離し、骸骨兵士のいる後方へ飛び退く。


「へぇ、残念。こちらに来なかったですか」


 その言葉が聞こえるかどうかという瞬間、いままでアラギがいた場所に骸骨兵士の持つロングソードが投擲されていた。

 もし前へと逃げていれば角度の関係で脚の1本か2本は貫いていたかもしれないが、野生の勘からか、後ろに逃げることをアラギは選んでいた。


「私は元々、素手の方が得意でね。素手同士なら負けないよ」


 両手はいつの間にか、ゴーレムのようにゴツゴツとした岩のように変わり、威力を増大させている。

 その拳が骸骨兵士を襲うのだが、簡単にひらりとかわし、鋭い一撃が腹部を捉えた。


 今度はアラギの方が笑みを浮かべる番であった。

 胴体までも、岩に変化させており、骸骨兵士からの攻撃のダメージを抑えると、その武骨な腕でホールドする。


「このまま全身の骨を折らさせてもらうぞ」


 凄まじい力がかかり、今にも骨が折れそうになっていたが、2人は冷静だった。

 骸骨兵士はそのまま、後ろに下がり思いっきり下がると、アラギを壁へと打ち付ける。

 それと同時に、ロメロも助走をつけた蹴りを放った。


 屋敷の壁は崩れ、そのまま3人は落下する。

 その空中の中、ロメロから生える骨の手は拳を作り、アラギの顔面へと置く。


「体を岩に変えようとも、落下の衝撃まで加わった拳は効くでしょう?」


 ドンと音を響かせ、裏庭へと落ちた3人。

 ロメロと骸骨兵士はアラギをクッションとしたことにより、ほぼ無傷で立ち上がる。

 そして、アラギはといえば、顔まで岩に擬態し、最低限のダメージに抑えたが、それでも鼻を潰され、どくどくと鼻血が溢れ、意識はあるが未だ起き上がれずにいた。


 トドメを刺さんとアラギの事を覗き込むと、「ぐるるるっ!」という獣の唸り声が周囲から聞こえ始めた。


「これは……?」


 周囲からの声にロメロは怪訝な表情を見せるが、アラギは1つ思い当たることがあった。


「なるほど。これがゴールドバーグ家が警備用として飼っているハウンドドッグという魔獣か……、まさか、このタイミングで使うなんてな」


 アラギはスーツの内ポケットからガラス瓶を取り出し岩の手で砕いた。


「うっ、この臭いは……」


 ロメロは顔をしかめ膝をつき、骸骨兵士もその場に座り込む。


「まさか、この魔道具、そちらにも効くのか?」


 アラギはゆっくりと体を起こし立ち上がると、ロメロを見下ろした。

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