第52話「全力」

 心霊写真の幽霊のようにイチコが窓の外から見守る中、ロメロと黒スーツの男は距離を詰める。


 どちらともなく、間合いへと入ると、手が伸びる。

 

 イチコには早すぎてただ腕をパシパシと振っているようにしか見えなかったが、2人の間では、攻撃とそれを受け流し反撃、という動作が繰り返し行われていた。


「やりますね」


 ロメロは素直に相手を賞賛すると、黒スーツも、「そちらこそ」と受け返す。

 そして、黒スーツの方に一瞬力が入ったかと思うと、ロメロの防御を拳がすり抜け胸を打ち抜く。だが、それと同時にロメロもカウンターで蹴りを相手の脇腹に差し込んでいた。


 両者とも、2、3歩後ずさると、服についた汚れを手で払って落とす。


「まさか、私とここまでやりあうとは。名前を聞いても?」


「ええ、僕の名前は、ロメロ。魔王四天王、死霊術師ネクロマンサーのロメロです。そちらは?」


「アラギだ。何でも屋のリーダー、アラギ。私は殺した相手のことは心に刻み込む性質なんでね。質問に快く答えてくれたこと感謝する」


「ふむ。意外にまともで、マジメなんですね。まぁ、だからと言って殺すことに変更はないですが」


「それは同感だ。さて、次は獲物を使わせてもらおう」


 アラギは魔道具の剣を抜くと、型なんかデタラメに構える。


「その魔道具は……、確定はすでにしていましたが、証拠まであるとはありがたい」


 にやりと笑みを作ると共に、ロメロは体の中から尖端が鋭利になった骨を抜き出すと、まるで剣のように構えた。


「行くぞ」


 アラギは只単に力任せに剣を振るうが、それを受け止めたロメロはそのまま弾き飛ばされる。


「なるほど。肉体操作でしたっけ、その魔道具は。力も十全に出せるということですね」


 何事も無かったかのように起き上がると、今度は骨をレイピアのように先端を相手へ向け、半身で相対する。


「力にはスピードで行かせてもらいますね」


 タタンッ。


 地面を蹴った音が聞こえたかと思うと、一気に距離を詰めており、そのままアラギの脚を突き刺す。


 傷は浅くアラギは短いうめき声を上げるだけで、すぐに反撃に移るが、そのときにはすでにロメロは一定の距離を取っていた。


「遅いですよ」


 また一気に近づき、今度は肩、脇腹、再び、脚と致命傷にはならないが確かなダメージを刻んでいく。


「肉体を強く、速く動かせようとも、反射神経や動体視力までは上がらないようですね。それなら、覚悟してください。ここからは、僕の一方的な虐殺になります」


 再び、ロメロが攻撃しようと近づいた時、キラリとアラギの目が光った。

 そして、ロメロが骨を刺すより早く、剣での一撃がロメロを襲ったのだった。


「なんですって! 馬鹿なっ!!」


 焼け焦げほとんど切れ味のない剣ではあったが、鉄の棒としてロメロの体を砕くのに問題はなく、腕から肩にかけての骨が折れるのを感じながら、ロメロは吹き飛ばされた。


「ふぅ~、指輪の魔道具、ミミック擬態の能力は半信半疑だったが、なかなか使い勝手が良さそうだ」


 アラギの目は縦長の黒目になっており肉食獣を彷彿とさせた。


「う、うう。今のは効きました」


 だらりと左手が落ちた状態で立ち上がるロメロの表情は珍しく、苦悶に歪んでいた。

 一度、大きく深呼吸すると、左腕からゴキッバキャという聞こえてはいけない音が鳴り響くと、先ほどまでがウソのように自然と動くようになる。


「ちょっと予備の骨と交換させてもらいました。さて、そちらもようやく全力で戦うようなので、こちらも死霊術師として全力で戦わさせていただきますね」


 ロメロは一呼吸置いてから、声を轟かせた。


「来いっ!! 骸骨兵士スケルトンっ!!」

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