第42話「墓地からの脱出」

「それでは行きますよ」


 ロメロが合図しながら、結界へと近づく。

 

「絶対、離れない。絶対、離れない。絶対、離れないっ!!」


 呪詛のように繰り返すイチコのせいで、ロメロは肩が重くなったような錯覚を覚える。

 そうこうしているうちに何事もなく、結界をすり抜ける。


「絶対、離れない。絶対、離れない。絶対、離れないっ!!」


 目を瞑りながら、ひたすらに呟くイチコはすり抜けたことすら認知しておらず、未だに、言葉を呟き続ける。


「えっと、イチコさん。結界は超えましたよ。大丈夫です」


 ゆっくりと目を開けると、後方に広がる墓地。前方には街中へと続く街道。

 そして、傍らには愛しのロメロという状況に、イチコは涙した。


「ようやく、ようやく抜け出せたわ」


 前世の死に方もあり、快適な場所とはいえ、一つの所に閉じ込められるのはイチコにとっては少なからず苦痛であった。

 それが、今、ようやく解放された。しかも、開放してくれたのが想い人なのだから、これ以上の幸せはない……。もうこの世に未練は…………。


「ハッ!! ダメよイチコ!! 気をしっかりもちなさいっ!!」


 危うく成仏しかけたイチコは自分で自分にかつという名のパンチを入れた。


「えっ。ど、どうしました?」


 イチコの奇行に戸惑うロメロだったが、


「いえ、ちょっと成仏しかけたので、この世に留まろうと頑張っただけですよ。ホホホッ」


 墓地を出て数秒。すでにロメロはセシリーを連れてこなかったことを後悔しかけていた。


「ま、まぁ、気を取り直して行きましょうか?」


 改めて、ロメロとイチコ、そして、イチコの奇行にも、ロメロの力にも全く着いていけていないが、ゴールドバーグ家を守りたい一心で食らいつくカルロはゴールドバーグ家へと向かった。



 ゴールドバーグ家は最東端に位置している。敷地の外はすぐ森となっているのだが、あくまでそれは広大過ぎる土地を所有している為であり、邸宅は街の中央から程なく行った場所である。

 邸宅はぐるりと塀で囲まれており、その隙間から見える庭内は、色とりどりの植物で華麗に整備されている。

 大きな門をくぐり、舗装された道をしばらく進むと、ようやく邸宅が見えてくるのだが、外観は豪華の一言に尽きる。

 一点の曇りもない、白を基調とした豪邸は伝統と格式を感じさせ、お城だと言われれても納得しそうな造形であった。


「あの~、ロメロさま。ここって本当に落とせるのかしら?」


「あっ、イチコさんも、そう思います」


 あまりの豪華さに2人は、警備体制も万全であろうと考える。

 ロメロの目的は襲撃者を捕まえ、魔道具の出どころを潰すことなので、警備のレベルは関係ないのだが、それでも、ここまで圧倒的だと、怖気づいて帰ってしまう可能性をついつい考えてしまうのだった。


「まぁ、敵を信じて待ちますか。カルロ君は、今のうちに休んでおいてください。正直いつ来るか分からない相手を待つのは大変ですからね。休めるときに休むのは重要です」


「はい。でも、俺は大丈夫だよ。ここで頑張らなきゃ、あんだけ大きな恩、一生返せないからな!」


 ロメロは困ったような、微笑ましく思うような、なんとも言えない笑みを浮かべると、イチコがカルロの前へと立ちふさがった。


「このクソガキがっ! せっかくロメロさまが休むように言っているんだから、しっかり休みなさい! だいたい、あんただけ普通の人間なのよ。完全に足手まといなのよ。そんな足手まとい君が、いざというときすら動けなくてどうすんのよ! 

そもそも、一生掛けても返せない恩なんてないわよ! 仇は一生以上掛かるかもしれないけどねっ! 今の一瞬にだけ掛ける奴は、アタシの経験上、だいたい弱いわ。弱いから今の一瞬にし掛けられないのよ。

あんたは悔しいけれど、ロメロさまの役にすでに立っているし、どう見ても弱い奴に見えないわよ。そんなあんたが、むざむざ弱者になるところなんて、胸糞悪いから、アタシの前で見せないでくれる!」


「えっ、あ、ああっ。うん」


「アタシはレイスだから休まなくても大丈夫なんだからガキが変な気を使うな。とりあえず、まず休んでおきなさいよ!」


 カルロは言われるがままに、地面へ横たわり、体を休め、イチコとロメロの二人でゴールドバーグ家を見張ることとなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る