第40話「イチコと協力」

「こうして、僕と共にここに来た訳なんです。それで、こうして僕の元に来た訳なんです。そして、最初の話に戻りますが、イチコさんは、もしかして魔獣の森で、魔道具を使う冒険者を倒したのではないですか?」


「はい! 正確にはリコリスがだけど。もしかして、呪い殺したの不味かったですか?」


イチコはおどおどとした様子で問うと、


「いえ、魔獣を狩るような輩は、みんな狩り尽くされればいいと思ってますし、何より今回の件では、出来れば僕を手伝って欲しいんですよね。カルロ君が見たというガラス瓶の魔道具はイチコさんとリコリスが出会った物と同じだと思います。あの魔道具はどうやらエルフである僕にも効くようなんですよね。まったくそんな物を作るなんて許せないですよ」


 ロメロは今まで見せたことのない、どんよりとした暗くおどろおどろしい目を見せる。


「リコリスは、自分を殺した真犯人を殺したくないですか? イチコさんは、理不尽に命を奪う輩を呪いたくないですか?」


 まるで、死神の言葉のように冷たく鋭い言葉が投げかけられた。


 リコリスは言葉の意味を計りかねるように、首を傾げ、「く~ん?」と鳴き声を漏らしご主人であるイチコを見る、そしてイチコは――。


「ハイハイハイッ! それがロメロさまの為になるなら、呪うわ! どこのどいつだろうと!!」


 手をこれでもかと高く挙げて、即答する。


 明るい呪う宣言に、ロメロは目をパチパチと瞬かせ、「ぷっ」と笑いだした。


「そこまで明るく呪う人は、初めて見ました」


 ロメロはいつもの柔和な笑みを見せると続きを話し出した。


「商業都市トルネの三大豪商の1つ、シルバーリッター家がどうやらこの魔道具製造に関わっているそうなんです。僕は、魔王様の命もあるのですが、カルロ君が助けたいというゴールドバーグ家の為にも動くつもりです。改めてよろしくお願いします」


 まるで枯れ木のように細い腕がイチコの前に差し出される。

 ダンスの申し出を受けたかのようなシチュエーションに、イチコの頭は色々な思いがぐるぐると渦巻ながらも、その手を取った。



 魔王様の命を果たしたロメロとイチコ、その日は、魔王城で祝賀会が開かれていた。


 他のモンスターたちは手を取り、場内に流れる曲に身を任せて踊っていた。

 そんな楽しい雰囲気の中、イチコは一人テラスでぼんやりと外を眺めていた。


「イチコさん、こんなところでどうしたんですか?」


 イチコを心配し、テラスまで追いかけてきたロメロ。


「ふふっ、こんな良い雰囲気の中、アタシみたいな見すぼらしい恰好のレイスがいたんじゃ、しらけちゃうわ」


「そんなことないですよ」


「ウソよっ! レイスは死んでから服装は替えられないのよ。アタシはなんとか着物だから入れたけれど、セシリーなんて、町娘スタイルのエプロン姿だったから、ドレスコードに引っかかって入れてもらえてないじゃないっ!! アタシだって最低限中の最低限よ。こんなにボロボロだし……。こんな姿じゃ、誰もアタシと踊ってくれないわ」


 イチコの瞳から一粒の涙が落ちる。


「イチコさん。そんなことないですよ。だって、ほら、ここに一人、あなたと踊りたいと思っている者がいるんですから」


 ロメロはすっと手を差し伸べる。


「僕と踊ってくれませんか?」


「ロ、ロメロさま……」



「いや、ロメロさま、優しすぎです! はぁ~ヤバイ。アタシどうしたらいいのっ!?」


 妄想に浸りながらも、ロメロの手を握って離さないイチコに、セシリーが耳打ちする。


「イチコさん、本当にロメロさまの手を握れてますよ。むしろ、今、妄想の世界にいたら、全イチコの損失になりますよっ!」


 その言葉に、クワッと目を見開き、イチコは現実へと帰って来た。


「あ、えっと、あの~、ぜ、是非、てつだすあせて……、いえ、手伝わさせてください。エヘヘっ!」


 なんとか可愛らしい笑みで取り繕うが、果たして、取り繕うことが出来ていたのかは永遠の謎となった。

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