第35話「イチコと新スキル」

 イチコは祈った。

 これほど神に対し祈ったことは生涯、いや、悪霊時代をいれてもないと言うほど祈った。


(神様。アタシを巨乳にするスキルをください。巨乳になるスキル、胸が巨大になるスキル、貧乳じゃなくなるスキルでもいいですし、無理なら胸筋が発達するスキルでもいいです! 

巨乳、巨乳、巨乳、巨乳、巨乳、巨乳、巨乳、巨乳、巨乳、巨乳、巨乳、巨乳!!)


 凄まじい執念と怨念で持ってスキルを願ったが、


『そのようなスキルはありません。別のスキルを願ってください』


 機械のように冷たい神様の声が響いた。


「ちっくしょ~~う!! なんで!? どうして!? なぜ、いつも現実はアタシに非情なのよっ!!」


 血の涙を流し、崩れ落ちる。


「う、うう。あんまりよ……。期待させて、落とすなんて、鬼畜の所業よ……酷い、酷すぎる。もう、全部、なにもかも壊してしまいたいっ!」


 イチコの落胆っぷりが酷いので、セシリーは何を願ったのか尋ねる。


「きょ――」


 とイチコの口から、あのワードが出そうになったとき、神様の声が響いた。


『スキル:破滅の呪い を取得しました』

『イチコはレイスⅡになりました』


「へっ!? なんで勝手にスキルが? ちょっ! ちょっと待って。それキャンセル!! アタシ、巨乳がダメなら、受肉か憑依にしようと思っていたのにっ!! セシリー! この世界にクーリングオフってないのっ!?」


「くーりんぐ、なんですって? たぶん、イチコさんが望むものはないと思いますが……」


「そうよね……。ふっ、所詮、アタシは神様に追放された身だものね。アタシを受け入れてくれる神は死んだっ!!」


 もはやイチコは諦めの境地に達し、仕方なく新たなスキルの内容を確認する。


『スキル:破滅の呪い 1日1回、対象を破壊する』


「えっと、とりあえず、結界は壊せそうだから、良しとするべきなのかしら」


 全くの無駄スキルでもない為、完全に嘆くことも出来ず、なんとなく納得はいかないものの、受け入れるしかなかった。


 しかし、スキル名と性能を聞いていた、セシリーは恐れ慄くように後ずさりする。


「どうしたのセシリー?」


「イ、イチコさん、そのスキル、ヤバいです!!」


「へっ? そうなの。別に普通の破壊系の攻撃なんじゃないの?」


「いえいえいえいえいえいえいいえいえいえっ!!」


 セシリーにしては珍しく、慌てて首を横にブンブンと振る。


「そのスキルって、魔王と同じスキルです! 壊したいものなら、人間だろうと、モンスターだろうと、果ては、街でも城でも山すらも一撃で葬ったと言われるスキルですよ!!」


 イチコは目を少ししばたかせると叫んだ。


「嫁確定来たーーーーーーーーーーーーッ!!!!」



「まさか、キミが魔王様と同じスキルを持つだなんて、きっとこれは運命なんですね」


「えっ、そんなロメロさま、運命だなんて……、でも、アタシ、こんなすごいスキル使いこなせるか自信がないんです……」


 ロメロはイチコの手をそっと持つと、囁くように甘く告げた。


「大丈夫。僕がずっと側にイチコさんを支えるよ」


「えっ、でも、そんなロメロさまに迷惑になるんじゃ。それにロメロさまくらい魅力的な殿方なら、良い人の1人や2人いらっしゃるんじゃないんですか?」


「そんな人、イチコさん以外いないですよ」


 ロメロは顔を赤らめ、はにかみながら、そう口にする。

 そして――


「僕の嫁になってくれませんか? イチコさんとなら、どんな苦難も超えていけるはずです」


 すっと指輪を取り出す。


「ア、アタシで良ければ喜んで」


 イチコが頷くと、左手の薬指に指輪がはめられた。



「――ってなるわね!! 神様、ありがとうーー!! 神は死んでいなかった!」


 イチコは小躍りしながら、妄想を垂れ流す。

 その様子を見ながら、セシリーは呟いた。


「どうやったら、そこまでえげつなく飛躍できるのか分からないんですが、まぁ、その、元気になってくれて良かったです」


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