第27話「ロメロと武具屋」

 ロメロが茶会に向かう前、調査として、今日も懇意にしている武具屋を訪れていると、一人の冒険者風の少年が現れた。


 少年の防具は血と泥で汚れ、ボロボロなのだが、手に持つソードだけは嫌に綺麗で、少年の持つにしては些か不釣り合いなほど優れていた。


「これを売りたいんだけど」


 店主は鞘から刀身を抜いてまじまじと観察する。


「う~ん。こいつは、焼け焦げてなけりゃ、かなりの品なんだが……、ん? いや、こいつは魔道具か。剣としてなら銀貨1~2枚程度だが、魔道具としてとなると、もう少ししそうだな。すまんな。オレじゃ、どんな魔道具なのか分かんねぇんだ。にいちゃん悪いけど、こいつはアイテム屋に持って行った方が高くなると思うが、どうする?」


「そういうことなら、そっちに行ってみるよ。ありがとう。あっ、そうだ。あと、バスターソードが欲しいんだけど、ある?」


 そんな会話がロメロの耳へと入る。


(魔道具はアイテム屋で扱っている? 以前行ったときは、何もなかったですが……、買い取りだけってことですかね?)


 少年は大剣を見ながら、その中の一振に決めたようで、懐から銀貨を1枚取り出した。


(あの銀貨は……)


 イチコの気配を感じ取ったロメロは、やはりイチコが何か関わっているのかと思案する。


「いや、そんな訳はないな」


 誰にも聞こえないように呟き、真偽を確認するため、冒険者の少年が外へ出るとすぐに後を追いかけた。


「すまない。キミ、さっきのそのロングソードはどこで手に入れたんですか?」


 急に背後から声をかけられたにしては、驚く素振りもなく、少年は気軽に答えた。


「ああ、あんた、さっきから、スゲー見てたよな。話しかけられる気はしてたぜ。そんなにこのロングソードが欲しいのか?」


 答えに詰まったロメロは、「まぁ、そう……かな」と曖昧に返事する。


「でも、俺も価値が分かってねぇから、まだ売れないぜ」


「ああ、それはいいんですけど。どこで手に入れたかだけ知りたいんです。それと、出来れば、さっきの銀貨の出どころもね」


 冒険者の少年、ジェフェリーは、「信じてもらえないかもしれないけど……」と前置きしてから、先ほどのゾンビとの死闘までの経緯と顛末を語った。


「そうですか。ありがとうございます」


 柔和な笑顔を見せつつ、しっかりと頭を下げ、礼を告げる。

 またしてもイチコは関係なかったのだが、何か惹きつける力でもあるのかもしれないと考えつつ、少年と別れる。


(今、一緒にアイテム屋に行くと、この少年に迷惑がかかるかもしれないですからね。明日、調べることにしましょう)


 そう考えていると、


「あ、ああ、ロ~、ロ~メ~ロ~っ! イ~チ~コ~!」


 というおどろおどろしい声が何度も繰り返し少年の背後から響く。

 そこから、顔の半分が骨の老人の霊体が現れると、ロメロへと襲い掛かる。


「はぁ、あなたが死霊術師のゲニーですかね? こんな街中では止めてくれませんか」


 先ほどまでの笑顔はなく、冷淡な無表情で、霊体を掴むと、「やれ」と小声を発する。


 ローブの影から、腕部だけの骨が現れると、目にも止まらぬ速さで霊体を殴りつけた。


「イチコさんのことも狙っていたようですし、先ほどの話が本当かイチコさんからも何があったのか聞きましょうか」


 ロメロは霊体を目立たないよう自身に憑依させると、お茶菓子の包みを持って墓地にまで足を運んだ。


「なんか、最近、イチコさんのことばかり考えている気がするな……」


 ポツリとそんな言葉を漏らした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る