第26話「イチコと茶会」

『ゾンビ99体 495 ゾンビナイト 50 死霊術師 150』


 頭の中に、獲得した経験値が響く。

 これで、前回の30経験値を足すと、725になる。1000まであと275。


「今回で結構経験値が貯まったわね。意外にあの死霊術師の経験値は多かったし。っと忘れてたわ。ねぇセシリー!」


「さっきの話の続きですか?」


 死霊術師ゲニーの爆笑話をしている途中で攻撃に合い、会話が途切れていたのを思い出したイチコは、まず、そこから話始めた。


「えっと、その方は、ロメロ様を知らないんじゃないですか? いくらなんでも実際に見ていたら、その強さもある程度分かると思うんですけどね」


 さすがのセシリーも苦笑いを浮かべる。


「それで、その死霊術師が、ロメロ様に盾突くだけじゃ飽き足らず、アタシのことをブサイクって言ったのよ。だから、つい、殺っちゃった。てへっ!」


「ああ~、なんとなく言いたいことは分かりました。つまりレイスに殺されるとレイスになるので、その男のレイスをどうすればいいかって話ですよね」


「そうそう! さすがセシリー! 話が早いわ」


「まず、死霊術師は死ぬと勝手に霊になる術式を組んでいることが多いので、イチコさんの所為でレイスになる訳じゃないですから、気にしなくていいですよ。まぁ、もしここの墓地に現れたら、皆と共存できるよう、私がなんとかします」


 胸にドンと手を当てて事も無げに言い放つセシリーにどことなく強キャラ感を感じたイチコだったが、続きが気になり、その事には触れずに次を促した。


「でも、ここ以外だと、どのみち私たちにはどうしようもないですから、気にしなくていいのではないですか?」


「ん。そう言われればそうね。一応後学の為に、倒し方があれば聞いておきたいんだけど」


 セシリーは持てる知識を総動員して、レイスがレイスを倒す方法を模索する。


「そうですね。基本的にはレイスは倒すすべを持たないです。一番は人に頼んで祓ってもらうなんですけど、そうですね、他の方法だと、あの世に行きたくなるよう、言葉で説得ですかね」


「言葉で説得って何を言うつもりよ……」


 セシリーはにっこりと笑ってから、「ひみつです」と可愛らしく指を口に当てた。


「なんていうか、あなたを敵に回さない方が良さそうというのは分かったわ。ありがとう」


 そんな会話を繰り広げていると、


「やぁ、こんばんは。今日は良い夜ですね」


 墓地の入り口にローブを着込んだ血色の悪いエルフがフードを取りながら挨拶をする。


「うえあっ!! ろ、ロメロ様? な、なんでここに?」


 驚きのあまり、その場でひっくり返るイチコを見て、「ふふっ」と笑う。

 その笑顔に、イチコのハートは矢で射抜かれる。


「やばい! 尊すぎる! ロメロ様の為なら、いくらでも貢げるわ」


 ボソボソとそんなことを呟いていると、ロメロは一体のレイスを地面へと叩きつけた。


「あっ! そいつ!!」


 見知った顔のレイスに、イチコは思わず声を上げた。


「やはりイチコさんの知り合いですか。街を歩いていたら急に襲って来まして、僕の名前とイチコさんの名前を壊れた蓄音機のように繰り返すものですから」


 ロメロにより、地面に押さえつけられているレイスの顔は半分骸骨と化していた。

 そんな知り合いは、死霊術師のゲニーしかいない。


「その、実は、そいつが、ロメロ様のことを襲おうとしていたので、アタシがその前に殺っちゃいました。そしたら、レイスになっちゃって……」


 バツが悪そうにするイチコに、ロメロはキッと睨みつけ、静かだが威圧感のある声で語り掛けた。


「なるほど。そういう経緯ですか。でも、イチコさん。どうしてそんな危ないことをしたんですか? 僕は魔王四天王を任されるほど強いんですよ。これくらいの敵、訳ないんですから。あなたはレイスといえど、女性なんですよ。もっと自分を大切にしてください」


「は、はい……」


 項垂れ、黒髪により、すっかりイチコの表情は伺えなくなるが、その様子から落ち込んでいるようであった。


「あっ、すみません。そんな落ち込まないでください。イチコさんたちのことが心配になってしまって、つい、キツイ言い方になってしまいました」


 ロメロの言葉を聞くと、イチコは途端に表情をパァっと明るくさせ、頬を赤らめながら、もじもじとした態度で言葉を紡いだ。


「いえ、アタシ、そうやって心配されるの初めてで……、あっ、そうだ。良かったらお茶していきませんか? 確か、マリーおばぁちゃんのところに良い茶葉とお菓子が」


「そうでした。僕も、この前の挨拶のとき、あんなことがあったので、改めてと思ってお菓子を作ってきたんでした。今、出しま――」


 片手がレイスで塞がっていることを思い出したロメロは、「えいっ」と力を込める。

 エネルギーをその手に吸われるかのようにゲニーのレイスは消え去った。


「さてと、確かここに……」


 ローブの中から、キレイな形のマドレーヌを取り出す。


「うちの骸骨兵士スケルトンおススメのマドレーヌらしいんだ」


 そう紹介しながら、骸骨兵士もその姿を現す。


「そうなんですね! 私もここのマドレーヌ大好きなんです!」


 セシリーは嬉しそうに手を合わせてぴょんと跳ねる。

 その様子を見ていたイチコは、白目を剥き慄く、「あれが女子力っ! セシリー、恐ろしい子っ!!」


 「テーブルも必要ですね」


 その途端、骨が組みあがり、テーブルとイスが作られた。

 骸骨兵士は、すぐに椅子の後ろに回ると、椅子を引き、セシリーを促す。

 ロメロも骸骨兵士の所作をみて、慌ててイチコの分の椅子を引きながら、呟いた。


「あいつ、ハンサム過ぎません?」


 そんな呟きもイチコは一字一句聞き逃さず、慌てたり、嫉妬するロメロ様、マジで可愛すぎる。尊死とうと しするかも……と呆けた。


 そんな状態で椅子へ座ったイチコは、「し、あ、わ、せ」と呟き、トリップ状態に陥る。


「えっ! イチコさん、大丈夫ですか? もしもしっ!!」


 明らかにオカシイ反応にロメロは心配するも、なんだかんだイチコの奇行に慣れてきた、セシリーは、「大丈夫ですよ。いつもの発作ですから。こうすれば治ります!」と言って、イチコの体をガクガクと揺らし、最後に、「こっちに戻ってきてください!」と頬を平手で強打した。


「はっ! アタシはいったい……。幸せすぎて昇天するところだったようね。ありがとうセシリー助かったわ」


 こうして夜の茶会を4人は楽しみ始め、夜は更けていった。

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