第25話「バスターソードと銀貨 その2」

 ゾンビナイトの猛攻は凄まじく、剣技による連撃に、イチコは防戦一方になっていた。


「う~ん、いまいちなのよね。やっぱ、こう、美しい感じに殺したいんだけど、このバスターソードじゃ、どうしてもエレガントさに欠けるのよね」


 存外余裕がある感じのイチコではあったが、徐々に後退しており、下手をすれば、冒険者たちを巻き込み兼ねない位置にまで押されていた。


「あんま、余裕はなさそうね。約束は守ってこそだし。でも、ピンチはチャンスって言うし何か良い案が浮かぶかも……ハッ! そうだっ!!」


 ガンッ!!


 力一杯のポルタ―ガイストで振るわれた一撃はゾンビナイトを弾き飛ばす。


「えっと、ちょっとタイム。ストップ!」


 少しの時間の猶予を願うが、死霊術師がそれを許すはずがなく、ゾンビナイトはすぐさま体制を整える。


「この石なら、良さそうね」


 イチコは洞窟に転がる石を1つ取り上げると、バスターソードの側面に傷をつけ始めた。


「アタシの名前と、あと、梵字でも書いておきましょ。あと没年とかだけど、まぁ、その辺は忘れたし省略っと……。良し、これでいいわね」


 バスターソードにイチコの名前が刻まれると、高らかに告げた。


卒塔婆ソトバスターソードよ!! うん。洒落も聞いた良い武器になったわ!」


 完全に日本人しか分からないネタをぶっこみ、周りの人物が全員ポカンとしていると、イチコに神様の声が響く。


『呪い付与から新たに地獄の炎付与が生成されました』


「へっ? なんて?」


 意味が理解できないでいると、急に卒塔婆スターソードが黒く光り、黒炎を纏いだした。


「おおっ!! ビックリした。これって、地獄にあると言われる黒い炎かしら? 中二病だと嬉しいんでしょうけど、アタシ炎ってあまり良い印象ないのよね。火責めは結構喰らったし。別に効かないけど、家を燃やさないようにするの本当に大変なのよね。なんで霊能力者って火と塩に頼るのかしら? まぁ、でもアタシもゾンビには火かなって軽い気持ちで梵字書いたし、あまり責められないか」


「何をごちゃごちゃ言っておるのじゃ! 今だ行け、ゾンビナイトっ!」


 卒塔婆スターソードにまだ慣れていない隙をつき、襲い掛かるが。


「必殺技を得た、アタシに隙はないわよ!」


 イチコは叫んだ。


卒塔婆ソトバスターソード火葬クリメイション!!」


 黒炎の斬撃により、ゾンビナイトは焼き尽くされ火柱が煌々と輝く。


「う、うつくしい……、これが、美の力なのか……」


 炎へと一歩二歩と、まるで火に群がる蛾のように死霊術師ゲニーは近づく。


「いや、アタシの美しさの力よ」


 その言葉にゲニーは一瞬だけイチコの方を向くが、血まみれのボロボロの着物、ぼさぼさの黒髪、カサカサの肌。加えて貧層な体付き。そこに一切の美を見出せなかったゲニーはイチコのことは見なかったことにして、火柱へさらに近づく。


「ちょっとっ!! 失礼にも程があるわよっ!!」


 イチコの恨みの一撃が死霊術師ゲニーの首を刎ねた。


「まったく失礼しちゃうわ! あっ、つい勢いで殺しちゃったけど、レイスになっちゃってるかな……。はぁ、レイスってどうやったら殺せるかセシリーに聞かないと」


 そう言いながら、イチコはバスターソードと共に銀貨に吸い込まれるように消えていった。


「なんだったんだ……」


 あとに残されたジェフェリーは茫然とゾンビの死体の山を見つめながら呟いた。


「う、ううっ……」


 セシリアのうめき声に我を取り戻すと、すぐに駆け寄る。


「良かった。無事だな。ロックは?」


 背中を斬られたロックの元へ駆け寄ると、こちらも意識は失っているが命に別状は無さそうだった。

 慣れない手つきで止血


 あとに残された冒険者ジェフェリーはロックとセシリアの生存を確かめると、銀貨を拾い握りしめると、「ありがとう、ございます」と感謝の言葉を述べた。


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