第24話「バスターソードと銀貨 その1」

 イチコは、ジェフェリーの提案を考える。


(いや、正直、勝手に貰っちゃえばいいだけだから、この人間の言う事を聞く義理はないんだけど……あっ、でも)


 しかし、1つどうしてもこの人間の力を借りないといけないことを思い出し、指を1本立てる。


「OKと即答したいところだけど、バスターソードをもらうことの他にもう1つ条件があるわ」


「俺に出来ることなら、なんでも言ってくれ」


 ジェフェリーは自己犠牲の覚悟を決めた強い瞳でイチコを見返す。


「じゃあ、そこにある銀貨。あれをちゃんと使いなさい。買い物でも寄付でもいいわ。こんな洞窟に放置したら、許さないわよ」


「えっ、そんな、ことで良ければ」


 狼狽の色が伺えるが、それには構わず、


「それじゃ、契約完了ね。ま、もともと善人は殺さないって心のロメロ様に誓ってたんだけどね」


 バスターソードを手に取って拾う。正確にはポルターガイストで拾ったように見せ、実際には自由に宙に浮いている状態であった。


「ふ~ん、なかなか、しっくりくるわね。でも、もう少し何かあるといいんだけど。ま、今はこれでいっか。とりあえず、そこの女の子を離しなさいっ!」


 鋭く振るわれたバスターソードはゾンビナイトの腕目掛け飛んでいく。


「ヴァ~~ッ!」


 ゾンビナイトは咄嗟に飛び退き、その攻撃をかわすが、おかげで、セシリアは自由を取り戻し、足りなくなっていた酸素を取り戻すようにせき込む。


「へぇ、なかなかやるわね」


 イチコの追撃をかわすようにゾンビナイトは他のゾンビたちの中に紛れる。


「ちょっと、このゾンビたち、邪魔ね。あんたら、頭が高いわよ! 跪きなさい!!」


 イチコはそのまま、岩壁の中に入って行くと、無慈悲に無造作に、バスターソードをゾンビの頭部くらいの高さに合わせ、一直線に突進した。


「ちょっと、もう少し避けてくれてもいいのよ?」


 刃が通り過ぎた後。ゾンビたちは、その場から動かないでいると、ズズッ! と何かが擦れるような音が聞こえると、ゾンビたちの首から上がゆっくりとずれ始め、地面へと落ちていく。

 鋭利な切り口から血が滲み出すと、ゾンビたちは体の制御を失い、バタバタとその場へ倒れ伏していった。


「バ、バカなっ! ワシのゾンビたちが、こんなアッサリと。これだけの量の死体操作はあのロメロでも無理なんじゃぞ! 数は力なのだ! それなのに、なんじゃその力はっ!!」


「えっ? 何言っているの、このボケ老人は?」


 本当に不思議そうにイチコは首を傾げる。


「ロメロ様なら、これより多くのゾンビ程度従えられると思うわよ」


「そんな訳なかろう! ヤツは3体までしか使役出来ぬと公言もしておる!!」


 イチコは思い当たる節があり、素直にそれを伝える。


「えっと、すごく気の毒なんだけど、ロメロ様の3体っていうのは、あの超強いスケルトン換算のことだと思うわよ。ここのゾンビなんかとは格がそもそも違い過ぎるわね。リアルに月とスッポンくらい違うわよ」


「……スッポン?」


「あ、亀のことよ」


「月と亀ほど、違うと言うのか。ふ、ふふ、確かに、3つの月に100匹の亀では勝てぬな。じゃが、そもそも月は攻撃できまいっ!! 攻撃できる亀の方が上よっ!!」


「えっと、キレイさでの比較なんだけど、そうよね。こんな爺に、アタシの教養ある詩的感覚が分かるはずないわね。美しさは力になるということを教えてあげるわよっ!」


「ほざけっ!! 行けっ! ゾンビナイトよ!」


 イチコの斬撃を免れていたゾンビナイトは甲冑の音を鳴らしながら、イチコに向かって剣を振り下ろす。

 バスターソードでその一撃を受け止めたイチコはニヤリと笑みを浮かべる。


「あんたら、アタシの美しい呪いで、地獄に落としてやるわ。覚悟しときなさい!」

 

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