第17話「ロメロと馬車」
太陽が燦々と照り付ける中、フードを目深に被り、都市の中をロメロは歩いていた。
「魔王様も人使いが荒いですよ」
魔王四天王として、現在ロメロに与えられた命は、『モンスターが魔道具により大量に狩られるという事態の収拾』であり、普段から、人間の街に住んでいる変わり者のロメロにそのお鉢が回って来たのだった。
ぶっちゃけ、なんの情報もなく、見つけるのは無理だと思ってはいたが、それでも命令には逆らえないので、しぶしぶ毎日足を棒にして探していた。
しかし、なんの手がかりもなく、ここ数日はただ街中を散策するだけの日々を過ごしていたのだが、先日の墓地での1件により、ランタンを持っていた冒険者を調べることで、僅かだが進展した。
(あの
それから、ロメロはシルバーリッター家が経営する武具屋に入りびたり情報収集をしていたのだが……。
「はぁ、顔見知りになるためとはいえ、いい加減買うものがなくなって来ましたね。というか、そもそも僕は武器を使わないし、
重い足取りながらも、今日も武具屋に向かっていると、見知った女性の姿が視界にチラついた。
(あれ? 今のってイチコさん? いや、でも、レイスが街中に来れるはずはないし……)
そう考えていると、近くを通る馬車が急に方向を少しだけ変えて走り出すと、まるでそこに吸い込まれるかのように男が飛び出した。
ロメロは、「あ~、死んだな」と特になんの感情も抱かず、その男の死を見つめた。
馬車の御者も、浮浪者が飛び出して死んだことには関心を示さず、もっぱら、一番の問題は馬車を汚してしまったことのようで、車体についた血しぶきを忌々しそうに眺めていた。
ロメロは、その御者を眺めると、共に、馬車の紋章に目を向けると、銀色の狼が描かれたその紋章は、シルバーリッター家の家紋であった。
(イチコさんは、何か繋がりが? 魔道具の普及はここ最近ですし。いや、ただの偶然だと思いますが)
イチコの存在を訝しく一瞬だけ感じたが、すぐにロメロは、思考を変え、ここでこの血を落とせば、シルバーリッター家と繋がりが出来るかもしれないと考えた。
そして、行動に移そうと歩き出したそのとき、視界の端にボロボロの少年を捉えると、躊躇することなく、踵を返し、路地の中へと進んで行く。
「キミ、大丈夫ですか?」
優しく、声をかけると、少年はビクッと驚きで体を震わせる。
その目には怯え、そして、何が何でも手の中のものは渡さいという意思が見て取れた。
ロメロは気になって少年の手を凝視すると、そこからイチコの気配を感じる。
「キミ、着物という珍妙な服を着た女性と知り合いですか?」
その言葉を聞くと、少年の瞳から、怯えの色が薄くなる。
「あの、その『きもの』のおねぇちゃんが助けてくれたんだ。兄ちゃん、知り合いなのか、なら、ありがとうって伝えてほしいんだ」
その言葉をロメロは意外な面持ちで聞き、すぐに苦笑いに変わった。
(変な勘ぐりをして申し訳なかったですね)
「わかりました。今度伝えておきます。それより、キミ、酷いケガですね。少し待っててください、今、回復魔法を使いますから」
(まぁ、正確には回復魔法ではなく、死んだ細胞の一時的な再生で、自然に治るまでの間、動かしておく応急処置なんですけどね)
ロメロが手をかざすと、少年の傷はたちまち治っていく。
「ありがと。でも、回復魔法だなんて、俺、金なんかないぞ!!」
再び少年の手にぎゅっと力が込められる。
「いやいや、お金なんて、取らないですよ。でも、そうですね。1つ頼まれごとを受けて欲しいっていうのはありますね。もちろん強制ではないですけど」
ロメロは少年に、魔道具についての噂があれば教えて欲しいと伝え、その場を後にした。
「あ~、やっぱり、もう馬車はどっか行ってしまいましたね。今日は、イチコさんにお詫びの品でも買って帰りますか」
すると、骸骨兵士は指先だけ現れ、1店のお店を指さした。
「あそこのお茶菓子がいいんですか? はぁ、別に構いませんが、あなたが、お菓子を好きだとは思いませんでした」
この日、ロメロはお茶とお菓子を買って借り住まいへと戻った。
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