第18話「冒険者と銀貨 その1」

 商業都市トルネの一角に鎮座する木造作りの巨大な建物。冒険者ギルド『エフォート』には本日もクエストやモンスターの素材を求め、多くの人物が訪れていた。


 そんな中、クエスト依頼の紙が乱雑に張られた掲示板の前に一組の冒険者が集まっていた。

 その中の一人、モンスターを斬るではなく粉砕する為に作られた半刃の大剣、バスターソードを持つ少年は勢いよく声を上げた。


「良しっ! 今日は、このクエストを受けようぜ!」


 その少年、駆け出し冒険者、戦士のジェフェリーは、2人のパーティメンバーに向かって、今までよりも少し上のランクの依頼を掲示板から剥ぎ取り提示した。


「えっと、でも、これ、あたしたちのランクじゃ難しいんじゃない?」


 パーティメンバー紅一点の少女、魔法使いのセシリアは心配そうな声をあげる。


「とは言ってもゾンビ退治ですよ。1つ上くらいのランクならギルドも受けて良いって言ってますし、このメンバーなら大丈夫でしょう」


 同じパーティの武闘派僧侶モンクのロックはポジティブに答える。


「そうだけど……、ゾンビって稀にすごく強いのがいるって聞いたことあるよ」


「ああ、それな。まぁ、でも稀だし、このランクにそんなゾンビはいないだろ。大丈夫、大丈夫! 俺のバスターソードの餌食にしてやるよ! それに前回の野良ゴブリン退治は5日間、野原をあれだけ駆けまわって銀貨1枚だぞ。今回みたいに洞窟にまとまったゾンビを討つ方が絶対楽だし割が良いって!」


 ジェフェリーはそう言いながら、冒険者ギルドの受付へと持って行く。


「すみません。このクエストお願いします」


 ジェフェリーは明るい笑顔を見せながら、依頼の紙を差し出した。

 受付嬢はその依頼書を確認すると、


「はい。かしこまりました。ジェフェリーさんたちはEランクですが、こちらの依頼はDランクですね。大変危険が伴いますが、本当によろしいですか?」


「ああ、もちろん!」


 意気揚々と応えるジェフェリーに、受付嬢は、「でしたら」と前置きして、分厚い本を手渡す。


「こちら、Dランクで少しでも生存率を上げる為の教本となっております。こちらを読了の上、再度いらしてくだされば受注を許可いたします」


「……えっ、マジ?」


「はい。マジです。ついでにしっかり読んだかどうかは栞の魔法で把握できますので、ズルはできない仕様になっています。どなたか一人が読んでも構いませんし、パーティメンバーで手分けしても構わないですよ」


 受付嬢の有無を言わせぬ笑顔にジェフェリーはしぶしぶ教本を受け取ると引き下がった。



「あ~、という訳で、マジでありえないと思うが、これ読まないといけないんだわ」


 魔法使いのセシリアはその対応に胸を撫でおろし、武闘派僧侶のロックは、まぁそういう措置はあるよなと納得していた。


「まぁ、そういうことなら、ジェフェリーは大人しくしていてください。私とセシリアで読みますから。いいですか、ジェフェリーはバカだから読まなくていいので、邪魔だけはしないでくださいねっ!!」


「まるで俺がいつも邪魔ばっかしているようじゃねぇかよ!」


「戦闘ではスゴイのですが、勉強になると、邪魔しかしないでしょう、アナタは! 一回でもちゃんと勉強できたことありますか?」


「うっ……」


 そう言われると言葉に詰まるジェフェリーは、


「ああ、わかった。今回は大人しくしてるよ。そんなら邪魔しちゃ悪いから、ちょっと外でも散歩してくるわ」


「それがいいですね。行ってらっしゃい」


 半ば追い出されるような感じで、ジェフェリーは冒険者ギルドを後にした。

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