第16話「イチコの経験値」

「よぉしっ!! キレイに地獄に落ちたわねっ!!」


 墓地で急にガッツポーズをかますイチコに、驚きつつセシリーは質問した。


「えっと、どうしたんですか? あと他の皆さんも驚くので、あまり急な大声は止めてほしいんですけど」


「ふっ、そこまで知りたいなら教えてあげましょう」


 イチコは声を抑えて説明を始める。


「アタシが呪いを掛けた銀貨に見事悪人が引っ掛かったのよ! いや~、本当にクソみたいな奴だったわ。アタシの思念体の姿を見て、貧乳ブサイクって言いやがったのよ。本当はこの手で呪い殺したかったけど、レイスになられても困るから、事故を故意に起こして殺ってやったわ」


「事故を故意にですか?」


 その質問にイチコは胸を張って答えた。


「ええ、まず男の足元にポルタ―ガイストで障害物を置き転ばす。あっ、このとき、ちょうどよく進むように少し体をこれまたポルタ―ガイストで支えてあげるのがミソね。それから、今回はたまたま馬車が通りかかったから、馬に呪いでストレスを与えて位置をコントロール、キレイに頭にヒットしたわ。あっ、もし馬がなければ鋭角な石材とかでもいいから、応用は効くわよ」


「え~~、なんか、イチコさん手馴れてません? どんな生前送っていたんですか?」


 イチコは生前の記憶を思い出すが、特にこれといったモノもなく、素直に何もなく普通の人生だったと告げた。


「本当ですか~?」


「もちろん、ここまで善良に生きた人間はいないってくらい善良よ。まぁ、死後はだいぶ、やんちゃしたけどね」


「イチコさんって死んですぐにここに来た訳じゃなかったんですね? まぁ、それなら納得なのかな」


 いまいち腑に落ちない感じのセシリーに対し、イチコは思い切って、別の世界から来たことを告げてみる決心をした。


「セシリーなら、巨乳の割にはなかなか信用できそうだし、今から言う本当のことを嗤ったりしたら、どんな手を使ってでも呪い殺すから言うけど、アタシ実は、こことは別の世界で幽霊やっていたって言ったら信じる?」


「信じる一択しかない枕言葉が怖いんですけど……でも、異世界とかのことですか? 確か、モンスターは異世界からやってきてこちらで繁殖した御伽噺おとぎばなしとかありましたね。ですけど、私、御伽噺とかはきちんと由来があると思っているので、異世界が本当にあっても驚かないタイプのレイスですよ!」


 セシリーはにっこりとほほ笑んで、サムズアップしてみせる。


 イチコは、セシリーはもっとリアリストかと思っていたが、予想外の返答に目を丸くして驚いた。

 しかし、すぐにむしろ好都合だと思い、続きを口にする。


「やっぱり、セシリーはその辺の巨乳とは違うわね! さすがアタシが見込んだだけはあるわっ!! そうなのよ。アタシ、異世界で幽霊やってたんだけど、急にこっちに追放されて。向こうではかれこれ100年くらいは霊やってたわね。悪霊令嬢なんて異名も持ってたわ」


「大先輩じゃないですか!! でも、なるほど、それなら納得です。イチコさんの無知もスキルや殺し方の手馴れた感じも説明がつきますものね。そういうことでしたら、もし分からないことがあれば、この世界でのレイスとしては私の方が先輩なので、このセシリーになんでも聞いてください!」


 胸を弾ませながら意気揚々と応えるセシリーだった。

 確かに、これまで質問したことがらは全て答えており、その知識量にはイチコも関心していた。

 前世だったら、セシリーじゃなく、「ヘイ! シリ!」と呼んでしまいそうなほどだ。

 そして、そつのない態度に見苦しくない容姿。胸のでっぱりは気に入らないが、自身の脇を固めるには最適な人物だと考えるほど、セシリーはあらゆる面で魅力的だった。


「セシリー、あなた、アタシの侍女になりなさい!」


「侍女? 侍女ってあのメイドみたいな侍女のことですか?」


「ええ、そうよ。まぁ、何も今すぐって訳じゃないけど、そうね。アタシがここを出て、屋敷にでも住み着いたら正式に雇おうかしら。それまでの間に考えておいてちょうだい」


 突然の提案に、驚き、口ごもるが、まだまだ時間はありそうなので、とりあえずセシリーは、わかりました。と答えた。


「ありがと。良い返事を期待してるわね! あっ、それから、話は変わるけど、さっき『30』を得ましたって聞えたんだけど、これって何?」


「あ、ああ、それは他種族を倒したときに得られる経験値です。経験値の量は、種族と自分と相手の強さの度合いで変わってきます。そして経験値が1000に達するとモンスターは進化しますし、人間なら新たなスキルを得たり、能力値があがります」


「なるほど。まるでゲームみたいね。とにかくあの程度ならあと30人ちょっと殺さないといけないってことね。これは少し骨が折れそうだわ」


「強い冒険者とかなら、それだけ経験値も上がるはずなんですけど……」


「ま、次の獲物に期待ってところかしらね」


 イチコは肩をすくめ、次に悪人が銀貨を持つのを待った。

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