第31話「エセ狩人と銀貨 その1」

 腕に自信のないエセ狩人は、慎重にフェリダーを見据える。


(こっちには子供がいるからな。巻き添えにするような攻撃はしてこないだろう。良し、まずは牽制をっ)


 致命打を当てるつもりは毛頭なく、軽く傷をつけられれば良いというくらいでロングソードを振るう。


 しかし、その一撃をフェリダーは必要以上に大きく飛び退いて避ける。


(ん? なんだ。そんな危険な攻撃でも、見切れない速度でもないのに。もしかして、それがこのアイテムが効かない何かにつながるかもしれん)


 エセ狩人がそう考えている隙をつき、フェリダーは飛び掛かる。


「おわっ!」


 鋭い爪で腕を切り裂かれ、後ろへ転がる。その拍子に腰にあるアイテム袋が零れ落ちる。


「ああっ!! くそっ! アイテムがっ! や、やばい、あれがないと……。うおおっ!! こっちに来るんじゃあねぇ!!」


 やたらめったらに剣を振るうと、それがフェリダーの鼻先を通り過ぎる。

 当った手ごたえもなかったが、その瞬間、大猫の体がぐらりと揺れる。

 あわや倒れるかと、いうところでなんとか踏みとどまる。


 その姿を見たエセ狩人は、少し離れていても瓶の中身の効果はあるのだと判り、安堵すると共に、急に強気になると、


「おい! お前、それ以上動くんじゃねぇ! こいつがどうなってもいいのか?」


 ロングソードの剣先を子フェリダーへと向ける。

 小さな体を一瞬で引き裂いてしまいそうな刃に、フェリダーは怯む。


「言葉は通じなくても言いたいことは分かるよなぁ!」


「ウゥー!!」


 フェリダーは苦し紛れに唸り声を上げるくらいしかできない。


「ふんっ! 襲って来ないと分かっているいる魔獣なんぞ、動物園の獅子と同じ! 見た目だけの虚仮脅しなんだよぉ!」


 エセ狩人は無抵抗なフェリダーを蹴り飛ばす。男程度の冒険者の蹴りではダメージ自体はほとんどないものの、フェリダーは苦しそうに倒れる。


「ハァー、ハァー、ハァー」


 子を守りたいという気力だけで、意識だけは手放さないで、耐えていると、フェリダーの上に影が落ちる。


「今の感触。そうか、そうか、どうしてお前にだけ魔道具が効かないか分かったぞ。体を風で包んで、臭いを散らしていたのか。だが、すでにたっぷり吸ったようだな」


 ダメ押しとばかりに再び蹴りが鼻先へと見舞われる。


「ニャッガッ!」


「チッ! 風の魔法の所為か、俺のクツがボロボロになっちまったな。だが、まぁ、気にしなくていいさ。なんたってお前ら親子のおかげで俺は一生金に困らなくて済むんだからなぁ!!」


 エセ狩人の声と共にロングソードがフェリダーの体深く突き立てられた。


「グルルルルゥ!! ガウッ!!」


 痛みで意識が完全に戻ったフェリダーは最期の力を振り絞り、エセ狩人に飛び掛かると、腕の中の我が子を口で加え奪取する。


「このやろぉ! 返せ!!」


 フェリダーは、その場から動く気力も体力もなくなったのか、子を守るように覆いかぶさると、怨みのこもった瞳でエセ狩人を睨みつける。


「ハッ! そんな目で見てきてもテメーなんか怖くねぇんだよ! この死にかけがっ!!」


 エセ狩人は逃げられないよう目を離さずに周囲を歩く。

 ゆっくりと、獲物を追い詰めるサメのようにぐるりと一周。


「おっ、あった、あった」

 

 つま先に当たる皮の質感で、アイテム袋が足元にあることを知覚する。

 安全に、そして完全にフェリダーを昏倒させる為、アイテム袋を拾うと、その瞬間、おぞましい怖気が襲った。


「わ、わぁああああっ!!」


 何がなんだか分からないが、嫌な感じが体の中からとめどなく感じ、持っているものを全て投げ出す。


 アイテム袋を捨てると、ようやく、怖気はなくなり安心していると、今まで聞いたことのない女性の声が耳元に語り掛ける。


「生活の為なら仕方ないし、正々堂々なら悪人かは悩むところだったけど、あんた、ちょ~っとやり過ぎよ」


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