第20話「冒険者と銀貨 その3」

「さてと、そろそろ読み終わったかな」


 ジェフェリーは独り言を呟きながら冒険者ギルドへと戻る。


「お~い。セシリア、ロック。読み終わったか?」


 陽気に声をかけると、武闘派僧侶のロックは不機嫌そうに眉をひそめながら、ジェフェリーの方を向く。


「普通なら、この文量は小一時間じゃ読み終わらないんですよ! いかにジェフェリーが普段から本を読まないかが分かりますね。まぁ、私たちだからなんとか読み終わったんですけどね」


「うん。洞窟での戦い方や、ゾンビの倒し方もしっかり載ってたよ!」


 セシリアは二人の間を取り持つように声を掛けた。


「良っし! それなら、今からちゃっちゃと言ってゾンビを倒して来ようぜ!」


「えっ、でも、ここには夜は強力な個体が出やすいし、洞窟の地形を見落としやすいから止めておいた方がいいって……」


「いや、夜ってまだ夕方にもなってないぜ。今から行っても夕方には帰って来れるって」


「時間に関しては確かに心配しすぎでしょう。ただ、もし何かで予想外に時間を食った場合は撤退しましょう!」


「OK! OK! それでいいぜ。それなら、なおさら善は急げだ。ちゃっちゃと行くぜ!」


 受付で教本を返し、クエストの受注を正式に済ませると、ジェフェリーは、「ほら、行くぞ! 行くぞ!」とセシリアの手を引いて、冒険者ギルドからゾンビのいる洞窟にまで向かった。



 道中に大きな問題はなく、街の外の洞窟にまで辿り着く。


 空を見上げたロックは、まだ日が高いことから、大丈夫だろうと判断する。


「教本も読みましたしまだ日も高いですから大丈夫とは思いますが、ランクは今までよりも上ですから慎重にいきましょう!」


「おう! わかってるって!」


 あんまり分かっていなそうではあったが、いつも通り先頭にジェフェリーが立ち、次にロック、最後にセシリアの順に洞窟に入っていった。


 洞窟内はゾンビが出るというだけあり、腐臭が立ち込める。通路は大剣を振り回しても問題ない程広いが、ごつごつとした湿った岩肌は妙な閉塞感があった。


 それぞれが警戒し進んで行くと、


「あ~~~~ヴぁ~~~~」


 意味のないうめき声が洞窟内に響く。


「おっ! ようやくゾンビのお出ましだ!」


 3体のゾンビがゆっくりと歩き、パーティへと迫る。


 ジェフェリーはバスターソードを抜くと、斬りかかる。


「ジェフェリー狙うのは頭ですよっ!!」


「へっ?」


 すでに攻撃動作に入っていたジェフェリーは頭に狙いを変えることが出来ず、ゾンビの一体を盛大に胴体から真っ二つにする。

 しかし、ゾンビは死んでおらず、地面へと落ちた上半身がジェフェリーの脚を掴む。


「なっ!? こいつ、まだっ!」


「ゾンビは頭を潰さないと死なないんですよ。ああっ、もう、残り2体は私が引き受けます。それは自分でなんとかしてくださいね!」


 最前へと駆けだしたロックはナックルを付けた拳で、2体のゾンビの頭部を打つ。


「ゾンビは触りたくなかったのですが、そういう訳にもいかないですね」


 さらに打撃を加え、頭を吹き飛ばした。


 ジェフェリーの方もトドメを刺し終えたようで、バスターソードについた血を振り落としていた。


「おう、ロック悪ぃな。助かったよ」


 悪びれずに犬歯を見せて笑顔を作るジェフェリーにロックは肩をすくめる。


「今のは、ゾンビは頭部破壊が常識なんですけどね。まぁ、ジェフェリーに常識が無い事を失念していた私の落ち度もありますから、気にしないでください」


「おう。そうか、ありがとう!」


 結構ストレートに馬鹿だと言われたにも関わらず、それにも気づかず、ジェフェリーは上機嫌に先へと進んで行った。


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