第14話「少年と銀貨 その1」
少年は意気揚々と歩いていた。
いつもはやたら気になるサイズの合わないぶかぶかの靴も今日は気にならなかった。
「これだけあれば、母ちゃんの薬が買えるぞ!」
ぎゅっと手の中の銀貨を握る。
少年は薬屋へ向かうべく、薄暗い路地から日の当たる商店街を目指す。
いつもは薬代を捻出すべく、衣服は必要最低限だったし、食事は目を皿のようにして安い品やただ同然の野菜クズを探していたが、今日からはその必要もないという事実が、少年にとってよけいに商店街を明るく見せ、光の先に見える行きかう人々や馬車すら今は楽しい物のように思えた。
しかし、それによって生まれた余裕が命取りだった。
不意に足に何かが引っ掛かり、少年はクツを散らばらせながら派手に転んだ。
「痛っつ! なんだいったい?」
少年が体を起こそうとすると、今度は背中に衝撃が走った。
「ガアッアアっ!!」
「お前、いま、買い物に行こうとしてたよな~? フゥ~、なら金を持ってるだろ?」
けだるそうな野太い男の声が少年へと降りかかる。
「なぁ、どうなんだよ。なんとか言えよ」
背中を踏みつけた足をさらにグリグリと力を加える。
「も、持ってない」
少年は絞り出すように言うが、
「いいや、嘘だね。そんな希望に輝いた目をしている奴が無一文な訳ねぇ! 本当にないなら、その手を開いてみろよ」
背中から足が離れたかと思うと、今度は少年が銀貨を握る右手へと振り下ろされた。
しかし、少年は手を開くことなく、固く握りしめた。
「そこまで離さないなんてよぉ。まず間違いなくそこに金があるんだろぉ? ほら、ほら、手を開けガキがぁ!!」
さらに何度も踏みつけられると、手の皮が裂け、血が流れ出る頃になると、もはや手に力を込めることが出来なくなり、とうとう少年の手から銀貨が零れ落ちる。
「おおっ! 大金じゃねぇか! ラッキー!!」
男は踏みつけるのを止めて、銀貨を拾う。
そして、すぐにでも使ってしまいそうな勢いで、商店街の方へ向かおうとすると、ズボンの裾に違和感が訪れた。
「あぁん? テメー、なにしてんだぁ?」
「……その銀貨は、渡さない」
男を逃がさないように必死にズボンを掴む少年に、容赦なく蹴りが浴びせかけられる。
「さっさと、放しやがれ! これは、オレのもんだっ!!」
殺すことも厭わない程の蹴りが何度も何度も少年に襲い掛かる。
すでに、少年の手は男の裾を離れたにも関わらず、その蹴りは続いた。
「さっさと死ねやぁ、クソガキがぁ!!」
男が叫ぶと、
「いや、マジないわ~。子供相手にそこまでするとか超引くんですけど」
不意に誰も居なかったはずの背後から女性の声が響いた。
「誰だっ!!」
男が振り向くと、そこには着物姿の黒髪の女性、イチコが立っていた。
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