第2章 呪いの銀貨
第12話「少女と銀貨 その1」
「お父様、わたしも街に行ってみたいの、ねぇ、いいでしょ!! お父様の仕事の邪魔はしないから!」
金色の髪を揺らしながら、少女は父親へとおねだりをする。
必死に腕にしがみつき、目を潤ませながらのお願いには父親も勝てず、ため息を付いてから、
「仕方ないな。でも決してセバスの目の届かない所には行かないこと。いいね?」
「わぁ! ありがとうお父様! 大好きっ!!」
満面の笑みで告げる少女に、思わず父親も破顔させる。
少女の名は、アンナ=ゴールドバーグ。
ここ商業国家トルネにおいて三大豪商と呼ばれるゴールドバーグ家の一人娘であり、蝶よ花よと大事に育てられて来た。
金色の髪はいつもメイドにロールに巻いてもらい、服装もフリルのついたものを好んで着ている。今日も
大事に育てられ過ぎたせいか、頬はぽちゃっとしていて愛くるしく、花より団子が好きな性格になってしまった。
ゴールドバーグ家は商業国家トルネの最東端に位置し、馬車でなくては行けない為、街に流行りの甘味のお店などが多く立ち並ぶようになった昨今、少女は事ある毎に父親へと街へ行きたいとせがむのだった。
「お嬢様、どうぞ」
祖父の代から使えてくれている執事のセバスはすでに老齢だが、白髪と深い皺以外、歳を感じさせるものはなく、今もピンとした姿勢、ハキハキとした言葉でアンナを馬車の中へとエスコートする。
馬車へと乗り込んだアンナは、ウキウキ気分で、外を眺める。
活気溢れる商店街では、今まで見たこともないような物が売られており、目を輝かせる。
「あっ! あれ何かしら、すごく美味しそうっ! あとで見てみたいわっ!!」
父親の仕事先はこの先の高級店が立ち並ぶ広場の一角なのだが、少女はそれより、商店街の方が気になる様子だった。
商店街には途中途中に薄暗い細い脇道があり、そこの路地には見すぼらしい恰好の人がちらほらと座っており、少女は好奇心から、父親へと質問した。
「ねぇ、お父様、あの人は、大丈夫なのかしら? もしかして、お加減でも悪いのでは?」
生気なく座り込む人物を始めてみる少女からすれば当然の疑問であった。
父親は、ハットを目深にかぶり直し、まるで見ていないかのように振る舞いながら答えた。
「そうだな。アンナも知っていてもいい歳の頃だろう。彼らは、貧民街の人間だ。私たち富裕層が豪華な暮らしをする影で搾取される側の人間だ」
「そんなのってヒドイわっ!」
少女は憤るが、父親は寂しそうな、悲しそうな目を向け、再び口を開いた。
「わかっている。ゴールドバーグ家でも炊き出しなど援助は行っているが、それ以上彼らに何かをすることは出来ないし、するべきではないと思っている」
「どうしてなの?」
「彼らが自ら学び、技能を手にし、自らを売り込むために我が門戸を叩くならば、それ相応の扱いはしよう。だが、何もせず、ただ貧しさを嘆くだけの者に、部下たちが必死に挙げた利益を使うのは間違っているし、部下たちへの侮蔑にあたると父さんは考えているからだよ。もちろん、アンナお前までもそうした考えを持てとは言わないが、ただ与えるだけでは真の幸福は掴めないんだよ。それだけは覚えておきなさい」
少女はなんとなくだが、父親の言いたいことも理解できた為、それ以上は何も言わず、静かに頷いた。
「旦那様、そろそろ。目的地に着きます」
執事のセバスの言葉に、父親は顔を上げた。
「セバス、では悪いが、娘をよろしく頼む。ここより商店街の方が気になるようだが、その際にはくれぐれも」
「ええ、心得ております」
父親は一人馬車から降りると、煌びやかな外装の店舗へと入っていく。
「では、1時間後またお迎えに上がります」
セバスは懐中時計を確認しながら告げると、少女アンナの要望に応え、馬車を商店街へと戻らせた。
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