第11話「狩りのはじまり」
「はっ! いけない、いけない。危うく妄想の世界で一生を終えるところだったわ」
涙と涎を、着物の袖で拭くと何事もなかったかのようにセシリーに向き直った。
「もうすでに一生は終えてますが、こちらに戻って来てくれて良かったです」
セシリーの皮肉の利いた発言を無視し、イチコは話を続ける。
「さてと、それじゃ、アタシの基本方針は決まったわ。進化して、ここを出る! そしてさらに進化して肉体を得る! まずはその為に、適当に他種族を狩るわよ!」
意気込んで拳を高らかに上げるイチコだったが、その眼前にセシリーが迫る。
「イチコさん。でも、ここにお墓参りに来た人を狙うことは、私が許しませんよ」
顔は笑顔でも妙な圧力を持って迫るセシリーに、気圧されたイチコは、口よどみながら、「も、もちろんよ」と答える。
「アタシの狙いは鼻から悪い奴よ。ほら、ロメロ様も悪人以外はあまり手に掛けたくないって言ってたしね」
「私が禁止した手前なんですが、普通ではこの墓地以外で他種族を倒す手段はないと思うのですけど?」
「ふふん。心配ご無用よ。ちゃ~んと手は考えているんだから」
胸を張りながら、襲ってきた男たちの死体へと向かう。
「さてさて、そこで使うのが、これよ!」
男たちの懐をまさぐると皮袋を取り出した。
「お金ですか? ここでお金を貯めて、泥棒さんとかを呼び出すんですか? 墓地が荒らされそうであまり賛成は出来ないのですが」
「違うわよ。そんなのどれだけお金を集めればいいか、わからないじゃない。そうじゃなくて、どの世界でもお金ってヤツは悪人を引き寄せるからね。こっちから行くのよ! で、えっと……セシリー、どれが一番価値がある貨幣?」
今更、イチコの知識の無さには驚かなくなってきたセシリーは、男が持つ貨幣の価値を説明した。
「なるほどね。この銀貨ってのは日本円なら大体1万円くらいで、こいつらが持つ中で一番高い訳ね。その上に
ついでに、銀貨の下には小銀貨、銅貨、小銅貨、鉄貨、小鉄貨とある。
イチコは銀貨を何枚か並べると、両手をかざした。
「これは悪霊の十八番。特定のアイテムに呪いをつける技なんだけど……。んぎぎぎぎぎぃ!!」
とても人には見せられないような決死の表情で怨念を込める。
『スキル:呪殺、呪力強化、呪い付与、思念体が発動しました』
頭に響くようにスキルが読み上げられると共に、禍々しい気が銀貨へと移った。
「はぁ、はぁ、成功したようね。呪いの発動条件はアタシが悪人だと判定した相手が持つこと! 効果はアタシの思念体が現れてありとあらゆる手段を用いて悪人を絶命させることっ!!
これで良し! 呪いの銀貨の完成よ。あとはこれを死体に戻してっと、ふっふっふっ、数日後には、悪人は安心して寝られない世界にしてやるわ。アーハッハッハッハ!」
謎のイチコの高笑いが墓場へと響き渡った。
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