第9話「セシリーの講演会」

「じぁあ、まずはここの脱出方法から説明しますね」


 まるで講演でもするかのようなセシリーに、思わずイチコは正座して、拍手で開幕を迎える。


「この墓地から出たレイスはこれまで一人もいないのですが、私の生前には別の墓地から外へ出たレイスが居たそうです。あくまでそのときの噂ですので、不確かな部分はありますが、私の経験したレイス生活から見てもほぼ間違いはないと思います」


 セシリーは指を二本立てる。


「確認されている方法は2つあります。まず1つ目は、強大な力で結界を壊す方法です。なんでも悪霊スペクタークラスに強くなれば、出来るそうですが、ハッキリ言って結界に囲われた墓地の中で、そこまで強くなるのは不可能だと思います。以前、悪霊クラスが結界を壊した例はありますが、どうやら、新しく出来た墓地に結界を張る際にたまたま紛れていたのではないかということだそうなので、この例は今のイチコさんには現実的ではないですね。

もう1つの方法は、生者に憑いていく方法があります。先ほどのロメロ様に憑いていたスケルトンが結界関係なく出入りしていたのは、そういう理由があります。ですが、ただのレイスが憑依するには、天性のスキルが必要になってくるので、本当にそうして墓地を出た例は少なく極、極まれなんです」


「ふ~ん、なるほどね。で、そのスキルって何?」


「えっ!? イチコさん、スキルを知らないんですかっ!?」


 セシリーは顔をグイッと近づけ、問いただす。


「え、ええ、何、スキルって誰もが知っている感じなの?」


「もちろんですよ! 神様の声が示してくれるじゃないですか。それを聞いたことがないなんて、才能も1つもなく、なんの努力もしなかった人くらいですよ。それに、神様のメモ帳も見たことがないのは、教育的に問題ありますよっ! いったいどんな環境で育ったんですか? いや、そもそも、レイスになったときに、声を聞いていると思うんですが」


「ん? あ~、そう言えばなんか聞こえたような気もしなくもないわね」


「それなら、確認してみてください! 神様のメモ帳を閲覧って頭で思えば、今まで神様が告知してくれたものがいつでも見れますよ」


 さっそくイチコは試してみることにした。


『神様のメモ帳』

 ・イチコはレイスとして追放されました。


 ・スキル:呪殺を再取得しますか?

 ・スキル:ポルターガイストを再取得しますか?

 ・スキル:呪力強化を再取得しますか?

 ・スキル:呪い付与を再取得しますか?

 ・スキル:思念体を再取得しますか?


 そこには前世で使えた能力がスキルとして羅列されており、さらに『再取得しますか?』の文言。


「ねぇ、セシリー、スキルを取得しますかってあるんだけど、どうすればいい?」


「スキルって普通は勝手に取得するものですけれど、そうですね。人間のときは仕事に就くときに意思確認があったので、それと一緒だと思います! その場合は声に出して意思表明すれば大丈夫です」


「なら、全部取得するわ」


 イチコがそう言葉を発すると、メモ帳の欄が全て、『再取得しました』へ変化した。


(さて、残念ながら、憑依はないんだけど、どうしたものかしら? とりあえず、進化について聞くのが先ね。その後のことはそのあと考えましょ)

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