第6話「墓場襲撃」
セシリーの声で、出てきた光は徐々に人型を取って、イチコの周囲へと集まった。
総勢30名以上はいようかという大所帯であった。
「まず、私の次に永い、マリーおばぁちゃん。よく娘さんが焼いたクッキーをくれるわ。それからアントニーおじさんに、その娘のエレナちゃん。ジェフさんに、ヨーゼフさん。ルーシーさんに――」
「ちょっ、ちょっと待って。今全員紹介する気? 流石にただ羅列されても覚えきれないわよ! とりあえず、アタシが自己紹介するから、その後、数日かけて一人一人挨拶して覚えるから。今はここの墓地の主要人物だけ教えなさい」
「この墓地の主要人物と言われても、基本、皆さん好きにしてますから、強いて言えば私くらいですかね?」
「そう、少ないのは助かるわ。じゃあ、とりあえず、アタシの自己紹介だけでいいわね。アタシの名前はイチコよ。これから世話になるわ。よろしくね」
ここでも簡単に名前と挨拶だけの自己紹介を済ませると、最後にニタリと笑みを作った。
「まぁ、まぁ、若いのにしっかりしてるわね~。ハイ。クッキーあげるわ」
先ほどマリーと呼ばれていた老婆がクッキーを1つ差し出す。
クッキーは最近に彼女の元にお供えされたものだろう。まだ匂いも香ばしく美味しそうに見える。
「ありがとう。あとで頂くわ」
それを受け取ると、胸元へと仕舞っていると。
ジャリ……。
墓地の入り口の方から砂利を踏みしめる音が聞こえる。
「皆隠れてっ!!」
セシリーが全員に向けて呼びかけると、各々、自分の墓へと戻っていく。
「イチコさんも早くっ!」
「えっ!? ちょっと、アタシのお墓ってどこ? そもそもあるの!?」
いきなりここへ飛ばされた為、行き場のないイチコはおろおろと漂う。
「イチコさん、あそこに無縁墓があるので、とりあえずそこにっ!」
セシリーの指し示す方向には大きめの石碑が置かれただけの墓が鎮座しており、とりあえず、そこへ身を隠した。
そして、イチコは少しだけ顔を出すと、来た人物の動向を伺った。
(この暗さとローブの所為で、性別すらわからないわね)
目深にローブのフードを被っていたこともあり、その人物は細身というだけしか分からなかった。
ローブの人物はまるで何かを探すかのようにキョロキョロと頭を動かしながらも、歩みを止めることなく、ゆっくりとイチコが隠れる無縁墓へとやってくる。
(やばっ!)
すっと墓の中へ隠れ、耳だけで外の状況を伺う。
ザシュ、ザシュっと次第に足音は大きくなるにつれ、イチコに緊張が走る。
すでに息はないが、雰囲気で息を押し殺すイチコ。
(殺られる前に、殺るしか……)
使えるかどうか分からない呪いを以前の感覚で行使しようとする。
ザッっと音を立て、無縁墓の前でローブの人物は止まると、すっと何かが置かれた。
「――――」
ローブの人物は聞き取れないくらい小声で何か呟くと、すぐに足音が遠ざかる。
充分に音が遠ざかると、イチコ臨戦態勢を解き、首だけ墓の外へ出して様子を伺うと、すでにローブの人物の姿は影も形もなかった。
墓地に静寂が戻ると安心したようにセシリーが出てきた。
「こんな夜更けに墓参りなんて珍しいですね。おかげでビックリしましたけど」
「幽霊が驚かされる世界って、世も末ね」
イチコは肩を竦め、苦笑いを浮かべ――。
「っ!! セシリー、嫌な予感がするわ。隠れるわよ!!」
「えっ? えっ? 急にどうしたんですか?」
イチコは急にセシリーの手を強引に引き、2人で無縁墓へ身を潜ませると、今度は足音もなく、3人の男がランタンを1つ持ち、墓地へと入って来ていた。
「そんな。私が気が付かなかったなんて……」
「あのローブのおかげで、皆隠れていたのは幸いね」
「え、ええ、でも、なんだろ、あのランタン。変な感じがするんです」
セシリーの言葉を受けランタンを凝視する。
一見ファンタジー世界では良く見るタイプのランタンに見えるが、中の炎が変に青白い。高温で青いとか炎色反応で青いというより、人魂を想起させられる様な青さだった。
その灯が怪しく揺れていると、なぜか、男たちの近くのレイスがふらふらとまるで夢遊病のように墓から出て近づいていく。
先頭に立ち、ランタンを持つ男から、笑い声と共に歓喜の声がこぼれる。
「おおっ! 高い金を出しただけはあるぜっ! この
促されるように後ろに控える2人は呪文を唱えた。
「光結界っ!」
男たちを中心に光の結界が生まれ、レイスの逃げ場が無くなる。
そして――。
「ターンアンデット!!」
「「「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」」」
レイスたちは断末魔の悲鳴を上げ、霧散していく。
『皆。あの光を見ちゃダメです!! お墓に隠れて、目を瞑ってください!!』
セシリーの声がイチコの脳内に響く。
「声が直接頭に聞こえるんだけど?」
「これは私が持つ数少ないスキルの1つ、テレパシーです」
「スキルとか、この世界あるのね……って、ちょっと、あれ!」
イチコが指さした先には、ふらふらと墓の外をふらつくマリーおばぁちゃんの姿。
「まぁ、まぁ、こんな時間にお墓参りかい。ありがたいねぇ~」
しょぼしょぼの目を細め、柔和な笑みでもって、男たちを出迎える。
「おっ! 新しい獲物だぜ!」
男たちは早速呪文の詠唱に取り掛かる。
「助けに行かないとっ!!」
飛び出そうとするイチコの袖をセシリーは掴んだ。
「だ、ダメです。イチコさん。私たちが行っても敵いません。お願いです。行かないでください。仲間がこれ以上いなくなるのは……」
セシリーの手は、恐怖からか、はたまた悔しさからか、小刻みに震えていた。
「セシリー、アタシはね。かなり永いこと、誰かから貰うモノなんて敵意くらいしかなかったのよ。そんなアタシにクッキーをくれた霊を見捨てるなんて、死んでも出来ないわ。それに、こう見えてアタシ強いのよ。死ぬのはあの男たちの方っ!」
すっと、セシリーの手をほどくと、イチコは怒声を上げた。
「そこの下郎共っ! 今すぐ、そこへ直れ!」
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