第5話「墓地のルール」

 イチコは気を取り直して、もう1つの気になること、ここから出られない理由をセシリーに尋ねることにした。


「そう言えば、なんでこの墓地から出られない訳? レイスって地縛霊って訳でもないでしょ?」


「すみません。ジーバック・レイが何か分からないのですけど、魔法か何かですか……?」


「えっと、地縛霊ね。地縛霊! 地縛霊っていうのは、その地に未練や怨みがあってその場から動けなくなった霊のことなんだけど」


「ああ! なるほど! 特殊環境に憑くのゴーストのことですね! ええ。レイスは別に場所に固執している訳じゃないので、本来は自由に動けます。ですが、レイスの中でもゴーストに進化しそうな者は人を襲う場合があるので、こうして墓地に結界を張って出れないようにしているんです」


「えっ、ゴーストに進化とかあるの?」


「へっ? そりゃ、元人間とはいえ、レイスはモンスターですから当然進化はありますよ」


「あ~、そういう世界なのね。OK、把握したわ」


「他に何か聞きたいことはありますか?」


「あとは、ここって、どんなとこ?」


「どんなとこって、ここ商業都市トルネですよ。西大陸一大きな街じゃないですか! この世界に住んでいれば別大陸の出身でも噂くらいは聞いたことありますよね?」


「このアタシを既存のレイスと同じに見ないことね。アタシはここではない超大都市の生まれなのよ。ここのことは全く知らないわ」


「それって……、田舎育ちの人のギャグですね。生前たまに聞きましたね。なるほど、そういうことでしたら、トルネの事を説明しますね」


 セシリーによると、この世界は4つの大陸に分かれており、その中の1つが、ここ西大陸である。西大陸は一番技術が進んでおり、魔法と道具を組み合わせた魔道具により隆盛しているそうだ。そして、魔道具の交易が一番盛んなのが、この商業都市トルネだそうだ。

 他の都市には見られない技術で街中活気溢れているが、その影で虐げられている者たちも当然いるというが、それはどこでも、どんな世界でも同じだろう。

 またもう一つの特徴は、魔道具の素材として、モンスターが用いられる為、他所より高く買い取られる。その結果、腕に覚えのある冒険者やトルネ・ドリームを夢見る若者が多く集まる。


 「なるほどね。ま、レイスとして暮らすには当面関係なさそうね。治安はそこまで悪くなさそうだし、余生と思ってここで静かに暮らすには十分ね」


 知りたいことは一通り聞き、これ以上どうしようもないし、しようもないと思い、その場にプカプカと浮かび寝そべってリラックスする。

 そのままひと眠りとでも思っていると、


「では、あと、ここでの最低限のルールについて話しておきますね」


 セシリーは指を1本立てる。


「まず、他人のお墓に入ってはいけません。ここでお墓は家のようなものです。イチコさんも自分の家を勝手に他人に見られたら嫌ですよね」


「まぁ、そうね」


 そういえば、アタシのお墓は果たしてここにあるのだろうか? と考えたが、現世のときも墓には全く寄り付かなかったので、今更だなと思い直した。


(ま、前世基準で言うなら、食べたり、寝たりは生前の習慣が抜けないからで、悪霊歴100年のアタシにはもう寝食は娯楽みたいなもので無くても困らないから、墓も必要ないわね)


「次に、レイス同士での戦いはご法度です」


「ふ~ん。そうなの? なんで?」


「基本的にレイスはレイスを倒す技を持ちません。ですから、どっちも死んでいるので、決着がつかないんですよね。昔あったときは1年間ずっと戦いあっていて、本当に迷惑でした。昼夜問わず騒がれたらたまったもんじゃないですよ。毎日楽しくないお祭りが家の周りでされていたら最悪じゃないですか」


「そうね。アタシなら殺すわ」


 眉間に皺を寄せて言い放つ。


「最後に、私たちレイスは大半が無害ですが、一応モンスターです。ですので、倒すと経験値を得られます。しかも結構おいしいです!」


「まぁ、霊でも倒されるわよね」


 イチコは実体験を思い出す。


「物理は効かないんですけどね。僧侶や魔法使いには結構簡単に倒されてしまいます。ですが、街の中、管理された墓地のレイスには結構生きている家族がいることも多いので、遺族の気持ちも配慮して基本的には手を出すことは禁止されています。けれど、中には悪徳冒険者の中には経験値稼ぎの為に襲ってくる者もいるので、人が来たら、どんな姿かに関わらず、家族以外には姿を見せないようにしてください。祓われて成仏したいというなら別ですが」


「なるほど、自衛の為のルールってことね。了解したわ」


 頷くイチコを見て、セシリーは満足そうに笑みを浮かべる。


「それじゃあ、イチコさん。ここの住人を紹介しますね! みんなーーっ! 新人が来ましたよ!!」


 月明かりが周囲を照らす中、墓石からふわふわといくつもの光が溢れ出した。

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