第4話「レイスのセシリー」

 イチコはもう一度、先ほどの少女の言葉を頭の中で反芻する。


(死んだときのことを思い出したってどういうこと? アタシは転生して、人生をやり直すはずじゃあ……)


 少女に対し警戒の目を向けると、1つ気づいたことがあった。


「あれ? 若干透けてる? もしかして、あなた幽霊なの?」


 少女の体を凝視すると、背後にうっすらと十字の墓石などが透けて見える。

 その様は、以前の自分が同じ様相であり、少女を幽霊と断定するには十分であった。


「あっ、はい。そうです。私はレイスのセシリーっていいます。お姉さんは?」


「アタシはイチコよ」


 簡単に自己紹介をし、この状況を問いただす。


「で、アタシが死んだとかどういうこと? それにここから出られないことも説明してくれるんでしょうね?」


「ええ。もちろんです。私こう見えてもレイス歴永いんですよ!」


 胸を強調するように誇らしげにするセシリーにイラッとしながらも、先を促す。


「まず、イチコさんは、死んだことを自覚するところからですね。通常レイスになるのは、未練があるか、レイス亡霊ゴースト悪霊スペクターによって殺されたかですね。イチコさん、覚えている最後の記憶でどれか思い当たるものはないですか?」


「いえ、全くないわね。そもそもアタシは本当にレイスなの?」


「そうですよね、最初は受け入れられないですよね。でも、ここから出られないのが、その証明ですし、体もガッツリ透けてますよ」


「そうなの? う~ん、自分の体を見る事って出来ないかしら?」


「私の鏡で良かったら使いますか?」


 セシリーの言葉に頷くと、付いてくるよう言われ、その言葉に従う。

 先ほどは意識していなかったが、地に足ついていない今までと同じ感覚に、本当にレイスなのではないかと思い始める。


「ここが私のお墓です。誰かが備えてくれた鏡があるんで使ってください」


 もう誰も墓参りに来ないのか、墓石はボロボロ、周囲も荒れ放題、なんとか墓石に刻まれたセシリーの文字が読める程度だ。

 そこにあった鏡は誰かが備えたのか、はたまた捨てたものが偶然ここに辿り着いたのか、泥で汚れ、鏡面はヒビ割れ、数カ所欠けていた。


「あははっ、ちょっと汚くてすみません」


 セシリーは照れ隠しのように、白い歯を覗かせる。


「無いより、数段マシよ。ありがとう」


 イチコは、辛うじて映る部分を探して、自身の姿を見た。


「え…………、うそ…………」


 そこには転生前と変わらぬ姿があった。

 やせ細って青白い体躯。もちろん胸に回すような余計な脂肪はない。

 ぼさぼさの長い黒髪に、ぼろぼろの肌。やつれた顔はクマや頬こけにより生前は美人で通っていたが、悪霊令嬢時代と同じで、その面影すらない。

 さらに極めつけは、ファンタジー世界では東方の国にしかないと言われるような、着物。


「アタシ、転生してないじゃんっ!!」


 イチコは記憶を掘り起こすと、確かに大仏さまは、転生させるとは一言も言っていなかった気がする。


「マジか~。あ~あ、結構楽しみにしてたのになぁ~」


 がっくりと肩を落としていると、セシリーはおろおろとしながらも健気に元気づけようと声をかけてくる。


「今度こそ、思い出せました? だ、大丈夫ですよ。レイスもそれなりに楽しいですし、時間がくれば成仏できますし! ねっ、元気だしてください!」


「ああ、ありがと、でもね、アタシの場合そういう問題じゃないのよね。なんというか、上げて落とされた感じだから。まぁ、住む場所が変わっただけだと思えば、別に構わないわね。今回は話相手が敵以外にもいる訳だし」


 無理矢理に笑みを作って励ますセシリーに向かって、それに応えるように視線を返すと、ついでに、揺れる胸も見えた。


「いや、話相手はやっぱり敵だけね」


 吐き捨てるように呟いて目を覆った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る