第3話「墓地から始まる異世界?」

 先ほどまでは感じなかった風がイチコの頬を撫でる。


「う、うぅん……」


 ゆっくりと目を開けると、心地よい月明かりが優しく眼前を照らす。


「月? 夜空が見えるってことは……」


 イチコが住んでいた幽霊屋敷でもなく、大仏さまがいた真っ白な空間でもない。

 その事実から、無事転生できたのだと悟った。


「や、やったわ! これから、第二の人生のスタートよっ!!」


 イチコは小躍りして、喜んだ。


 イチコは小躍りして、喜んだのだが……。


「えっ? なんで、アタシ踊れるの? 普通こういう時って赤ん坊からって相場が決まって……、あ、いや、きっと憑依パターンねっ!」


 この世界の誰かの体を奪っているパターンだと考え、自身を映すものを探す為、周囲を確かめた。

 そこには、石造りの十字架がいくつも乱立している。


「これって墓地? 変なところがスタート地点ね。まぁ、でも、ちゃんと異世界らしく洋式のようね」


 十字の石碑が並ぶ墓地を確かめるように一周するが、自身の姿を映せるようなものは見当たらない。


「う~ん、やっぱり、墓地に鏡なんてないわよね」


 ファンタジー世界の墓地ならば、どうせ街の中だろうと思い、墓地の出口に向かう。

 出入口はアーチ状になっており、現在は枯れたツタが巻かれているが、時期がくれば緑が映える作りになっている。


「なんで墓地からスタートなのかは謎だけど、ようやくアタシの新たなスタートが始まるわね! 枯れているのは縁起悪いけど、これはこれでおもむきがあるしね!!」


 いざ、行かんとばかりに一歩踏み出すと――。


 ガンッ!!


「いった~いっ!! 何よこれっ!!」


 見えない壁に追突し、イチコは鼻を強打した。

 鼻をさすりながら、もう片方の手で見えない壁を探る。


 一通り確めたイチコは鼻を鳴らしながら、呟いた。


「ふっ、結界か……って、一度は言ってみたいセリフだったけど、そうじゃないわよ! 何これ。えっ? まじで! なんでアタシ閉じ込められてるの? デスゲームでも始まる訳? 畜生っ!! だ~せ~っ!!」


 ガンガンと見えない壁を叩くが、物理ではどうしようもないらしく、一向に変化は見られなかった。


「どうしてもアタシを出さない気ね。いいわ。体が変わったから使えるか分からないけれど、アタシの全力の呪力を見せてあげるわっ!!」


 イチコはキッと見えない壁の方向を睨み始めると、不意に背後から声が掛けられた。


「あの~~。あなた新入りよね?」


「おぼぉわぁ!! びっくりしたっ!! 急に背後に立たないでよっ!!」


 その場で飛び上がるように驚き、背後を振り返る。

 振り返ったイチコの目には、一人の少女。

 異世界らしく、赤毛をお団子にまとめたヘアスタイル。地味な町娘風な服装に顔も地味で人の好さそうな雰囲気を醸し出しているが、冷静に造形だけ見ればかなり整った方であった。

 そんな少女だが、やはり異世界らしく異様な部分があり、イチコの視線はそこにクギ付けになる。


「ハッ! これだから異世界はっ!! アタシが唯一気に入らない点はねっ! 中世的な世界観で、食糧難もありうる場所で、なんなのよ、その派手派手な胸はっ!! 飢餓きが舐めてんのかっ!!」


「えっ、ええっ! な、なんか、ごめんなさい」


 少女は驚いた様子で、訳も分からず謝罪の言葉を口にする。


「そう言えば、まだ確認していなかったわね」


 転生というゴタゴタでイチコは自身の胸を確認することを怠っていたことを思い出し、あえて目を瞑り、両手を胸部へ近づける。


 ぺたっ。


 転生前と変わらぬ感触に、静かに涙を流した。


「ど、どうしたんですか? 大丈夫ですか? もしかして、死んだときのこと思い出しましたか?」


 心配する少女の言葉に不穏な単語があり、思わずイチコは声を張り上げた。


「死んだときのことってどういうことよっ!?」  

 

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