第6話 ■全校集会(後編)
教頭が女性教員三人を呼び。
彼女らが足並みをそろえて舞台の前方へ3歩ほど前へ出た。
左翼には黒崎先生が無理やり作ったであろう笑顔を生徒たちに向けていて、右翼には黒崎先生がこれまで見せたことの無いようなひきつった笑顔を見せているのとは対照的に安藤先生は自然な笑顔を皆に振りまいており、この中では一番落ち着いてるようにも見えた。
「では、皆さん。これからは実演となりますので、生徒の皆様も一度ご起立してください!はいっ、隣の人と腕があたらない程度に感覚を取りましょう。」
体育館は一瞬のざわめきに包まれたが、教頭のいかにもな咳払い一つで体育館は静まり返り、その場に反抗するものは誰も居なかった。
あの生意気な今仲でさえも渋々ではあったが指示通りに動いていた。やはりやればできたのか。
「では、私の動きに従って挨拶のポーズを覚えましょう。」
安藤先生はまるで教育番組に出てきてもおかしくないような自然な口調で生徒に語り続ける。
「まずは、普段の挨拶からです。これは登校時などに使われるので覚えるようにしましょう。まず男性と目が、いえ、大変失礼いたしました。男性様と目が合った際は最上級の笑顔で微笑み、90度の角度でお辞儀します。この時男性から求められたことには笑顔で対応するようにしましょう。では皆さんも練習してみましょう。はい、最上級の笑顔ですよ。はいっお辞儀しましょう。」
予想とは反して安藤先生の説明は対して衝撃的な内容では無かったが、しゃべり口調や進行の仕方をみていると、明らかに教頭か校長にしこまれてるのは明白だった。
そして90度の角度というのは中々のものである。これまでの45度とは違って直角にお辞儀をするのだから頭は男性の腰の前あたりまで下げることを意味していた。
「では次に、私黒崎から謝罪のポーズを指導させていただきます。まず、謝罪についてですが、これは男性…様に…、お許しを乞う行為となります…。わ‥、我々女性、いや、失礼いたしました!女共は、男性に捨てられるぬよう誠心誠意尽くす心が日常より求められていますので、この行為を恥じる大人になるのではなく…、喜びにも似た感情を味わえる立派な大人になるためにも、恥ずかしがらず私の真似をしてください。まずはス、スカートを捲ります…。」
黒崎先生は所々で声を詰まらせながらも一生懸命に話をすすめようとしていたが、それは自らの理性を殺し、騙しながら進めているいるのは生徒の目からも明らかであり。スカートを捲るという言葉に抵抗を示す生徒も居たのはいうまでもない。しかし彼女たちも所詮は同調圧力によって従わざるを得なかった。
全員の動きが揃ってないにしても体育館に並べられた200人を超える女子生徒達がスカートを渋々まくり上げたのは圧巻だった。なかにはインナーショーツを履いてるものもいれば、派手な下着をつけているものもいて、異様な光景が広がる中黒崎先生は続けた。
「そうです。皆さん素敵ですよ。そのままスカートをずらさないようにして腰に手を当てましょう。」
またもや200人以上の女子生徒が腰に手を当てている。
「この下着を見せるという行為の目的は、男性様に弱いところを見せることによって、自らの過ちを詫びているわけですね。恥じらいを意識せず詫びる気持ちを持つことが重要です。そして足をガニ股で開いて、最高の笑顔を作り、ゆっくり腰を下ろしていきましょう。」
これは誰が考えたのだ。ガニ股になった女子生徒たちは股を大きく晒したまま腰を床へと近づけていく、体育館中にO字開脚のような格好になった女子生徒たちのざわついた声が聞こえる。中にはバランスを崩して倒れてしまうものもいた。
「はい、下ろせるところまで腰を下ろしたら、目線を男性様のほうへと向け、『申し訳ございませんでした。お許しください。』と自分なりに謝罪の言葉を述べましょう。では、今日は練習ですので皆さんも復唱してください。あ男性教員の皆様は復唱してない生徒を監視してますので、お気を付けください。。『申し訳ございませんでした。お許しください。』」
「申し訳ございませんでした。お許しください」女子の声が体育館中に響き渡る。
僕は思わず今仲や加藤や佐々木といった生意気な連中に自然と目が向いていた。
いくら女性、いや女といっても黒崎先生の指導をちゃんと聞いてるか気になったのだ。
僕の予想には反して今仲や加藤や佐々木もガニ股でスカートを捲り上げて声を発声しているようだった。これまでの日本では考えられない光景が繰り広げられていたし、これからもこのような事が続いていくのだろうか。
「では次に、男性様にお礼を言うときの恰好をお伝えします。まず最初にこのポーズは必ずこうでなければならないといったものではございません。自分なりに男性様が喜んでいただけるポーズをすることも、先生たちはとても応援いたしますし、いつでも相談に乗ります。
しかし、まだ皆さんは本当の男性の凄さを知らないと思いますので、男性様のお気持ちがわかるまでの一例を私がお見せいたします。」
そう言い終わると黒崎先生はマイクを床に置き、肩幅に足を開いたかと思うと、黒崎先生もタイトなスカートを腰まで持ち上げ、大胆にもM字開脚をし両手は胸の前にちょこんと出していてまるで犬がちんちんのポーズをしているような恰好になり、マイクを通さず大きな声で
「ありがとうございますっ!」そう言い終わると間髪いれず、シャツを下から捲り顎で押さえ、両手を頭の後ろで組みなおし「ありがとうございますっ!」と地声を体育館中に響き渡らせた。
その様子を見ていた安藤先生がマイクを通して
「ほら、みんなも一緒に練習してみよっ♪」と可愛らしく生徒たちに促したが、生徒たちも躊躇っているようだった。
「はい、出来ないものはやらなくていいです。ただし我が校にもふさわしくありません」先ほどより鼻息を荒げた教頭が黒崎先生のマイクを使って言った。
生徒達の中には泣きじゃくるものもいたが、最終的にはこの恰好をできなかったものは誰一人として居なかった。
あんなにもクールだった滝川先生がこんなにも目の前で堕ちてしまっていることはショックだっただろうし、これが国の一つの教育方針ということをしっかりと自覚できた瞬間だったのかもしれない。
この先の未来はこれまでの日常と確実に少しずつ変わってる。
彼女達の成長と自立の為には、これまで自分が作り上げてきた常識という概念を壊し始めていることは薄々わかりはじめていた。
一部の彼女たちの中にも、崩壊していく概念が大きければ大きいほど、自らが成長しているような錯覚さえ覚える者がいるのも事実だった。
「ありがとうございますっ!ありがとうございますっ!」
200人を超える生徒の謝礼は、今まで感じたことのなかった心地よさ、そして相手に非があり自分は一切非が無いんだという安堵感に包まれた。
僕は残りの教頭のスピーチを聞きながら、様々な妄想をしてしまっていた。
本来であれば、生徒にそのような目を向けてしまったときには自らの理性が働き、ストップがかかるのだが、教育という概念が変わりつつある思考回路では、自分が何をしようとしてるのかまでを見抜ける力は無かった。それと同時に様々な妄想の中で、あの時一年生トイレに入り込んでしまったことと、扉を開けた向こう側の、怯えた表情をしていた生徒の顔と恥部を思い出さずにはいられなかった。
教頭の話が終わると女性教員は今にも泣きだしそうな女子生徒のもとへと駆け寄っていた。
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