第15話  八尺瓊咏禍 過去編 老いた狼の子の微睡み

エレウシスの秘儀でPC1として出した八尺瓊咏禍の過去編であり単発なのでネタバレはありません。

後程違う所にやるかもですがあげておきます。


フリーダムハーツ、八尺瓊一族の本家達が集う本拠地

有数のお金持ちともバカンス地でもあり、懐旧~最新鋭の娯楽が集まる島である

しかしその実態はファルスハーツのリエゾンロード、オモイカネに仕える八尺瓊クランが存在している


いつもであればこのフリーダムハーツに来訪したお客を迎え、楽しませるのが日課であったが梅雨明けのそれも平日というのもあってか屋内の遊技場が特に人気で、外を歩く人は少ない。

雨上がりの空、雲の隙間より漏れ出る光は雨に濡れた空間を切り取り、雨露に濡れた世界をきらめかせる。


そんな中小さな子供の狼さんを紅を基調とした着物の胸元にいれて、フリーダムハーツのスタッフお手伝いとして、客を案内していたが暇になって見て回っていた。


「……暇になったなあ、今度はどこにいこう?」


胸元にいれた狼さんの頭を撫でるようにしながらいうと手を舐められる、温かくも湿った舌の感触がしてこそばゆく感じる

父、狼牙は今は母藍華と一緒に対応していて忙しいし、姉さんである雷華は……賭博方面で見張っているし……


ふと、コンサートホールのような施設のほうを見て眼を細める

……香織姉さんはアイドル活動で満員御礼で忙しい、よね……行こうかなと思ったけど、狼さんたちは大きな音で耳を悪くするかもしれないからいけないからこれもだめ、と

自然と兄である赤牙の事も考えるが、いつもベタベタとしてきてうっとおしいけど、普通に兄として見てはいる、けれど……


「……どんどん身体が大きくなるのが、正直羨ましい……言わないけど」


自分の手を、胸に手を当てて眉をしかめる

兄の赤牙は父の狼牙の血を色濃く継いでいる、とでも言えばいいのかそれとも父親似になっていっていると言えばいいのだろう。

けど僕の身体は、顔も何もかも母親似になっていくのをわかって、嫉妬をしている。


そんなどうしようもない事実に、苛立ちさえも覚えている……

けど、普段のあの愛?というのを全面的に押し出してきては抱き着いてきたりなで回してくるのを何とか我慢してはいる、しかしうっとおしいとも感じて引きはがすことが最近は多い。

なので兄の赤牙に頼る事は自分的にはなしだ、なら弟たちはどうか、と考えたけど僕よりもまだ小さいのもあって、多分他の人が世話をしているか、訓練施設にいるだろう。


訓練施設は勿論、FHとしての戦闘訓練も含んでいるが、エフェクトの訓練及びレネゲイドコントロールの訓練が特に多い、中でも紅夜はコントロールしそこねて一面火の海にしかけたこともある

なので慎重に慎重を重ねる必要性もある

唸る様に考えながら歩いていると目の前の施設の壁に強く頭を打ち星が飛び顔を抑えた


「っ……!!!まえ、見てなかった……」


顔を抑えながら呻くが触ってもけがはないことから、もう治ったみたいだ

胸元にいるはずの狼の頭を撫でようとするが、その場所を触ると空振りをしてしまい、見てみるといないことに気付いた。

え、まさか、今のに驚いて逃げちゃった?


慌てて周りを見渡し耳を澄まし、獣の聴覚に頼るとすぐに小さな軽い足音が遠くへ離れているのが聞こえた

……そっちか!!

ダっ!とそっちの方向へとかけていく、幸いこの雨で人が殆どで歩いていなかったからか障害物も少ない


けど早めに見つけて保護しないと……せっかく狼さんたちの世話を任されたのに

父狼牙にそれならやってみるか?と任された時の事は覚えている、とても嬉しくて一生懸命にやって今いるのだから、狼さんたちの世話を放棄したくないのもあったけど、それ以上に父の期待に応えたい。

父のように強くもない、昔にどこかで魔眼使いのひとと戦った時と比べてリミッターを課しているらしいけど、それでも強い


父のように強い力を持って誰かを護りたい、それ以上に父を超えたい、だからこそ

息を吐いて呼吸を整える……零ノ呼吸──明星(みょうじょう)、父は奈落に沈め力を引き出すと言っていた

なら僕は、あの日見た明け方の星々、明星の光に手を伸ばして、天(そら)まで届くように力を引き出していこう。


体内のレネゲイドウィルスがそれに呼応して活性化し始める、感覚が鋭くなる──

雑音を排し、人の足音も排する、そこから更に絞り込んでいく

精神集中コンセントレイト──、ほぼすべての音が思考の闇へと沈んでいく

しばらくして、仔狼の足音が聞こえた、近い、その場所へと急ぐ


小さな遠吠えが聞こえる、そちらへと目を向けると仔狼が震えながらも鳴いているのが見えたホッと息をついて優しく抱き上げると顔をペロペロと舐めまわされてこそばゆい。

くすぐったくて目を細めて頭を撫でてあげるとすりすりとほほを寄せられる、その後安心したのかそのままあくびをして眠り始めてしまうのを見てよかったとこぼす。


空を見上げると雲の切れ目から見えていた光が消えていくのが見えた、匂いからしてまた雨が降りそうだ……ここでもう帰ろう、この子も雨にぬらして風邪をひかせたくないからね。

足早に起こさないようにと家への帰路を急ぐ


家へと帰るころには雨がぽつぽつと降り始めていた、けど本格的な雨になる前に入れてよかった……雨に降られて着物も少し濡れちゃったけど、これぐらいなら、いいかな……上だけ脱ごう

紅い着物の袷(あわせ)を脱いで軽い羽織を着て、髪の毛をタオルで拭く、狼さんには少しもかかってないから安心だけれど、そろそろ狼さんたちのいる部屋に戻ろう……眠くなってきた……


自動ドアの前に立つと静かに開く、中からたくさんの狼さんたちの濃厚な匂いが漂う

中に入ればたくさん狼さんがこちらを見て1匹が心配そうにじーっと見上げているのがわって大丈夫だよと微笑むと安心したように戻る


先ほどまで抱えていた仔狼を狼の懐へと返すと親狼さんに手を舐められる、お礼としてだなと嬉しくなって頭を撫でると目を細め受け入れてもらえた

雨音は聞こえない、しかしこの中は狼さんたちの生態に近づけるために自然に近い様相になっていることからこだわりは見える。


「ん……ふぁ……ねむく、なってきた……」


ゆっくりと微睡む狼さんたちのそれを見ていると自然と眠気を誘われて、部屋へと戻るのもおっくうだ……ここで、眠ってもいいよね……

狼さんたちの邪魔にならないようにそっと隅に言って丸くなり微睡む……うとうと、としながらも狼さんたちの呼吸に合わせるようにして瞼が重くなりそのまま深い眠りへと落ちていった


眠りに落ちる瞬間、誰かが入ってきたような音がしたけど……それを確認するまもなく眠りについた。

目覚めるとそこは自分の部屋の布団の中だった、父さん、狼牙が運んでくれたのだろうか?と思案していた


しかし父さんによると、赤牙によって部屋に運ばれたのを知って嬉しいのと同時にますます複雑な感情になりつつあったのだった

……やっぱり赤牙には嫉妬する


八尺瓊咏禍 10歳 八尺瓊赤牙 11歳  フリーダムハーツ時代


END

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エレウシスの秘儀 to SS 神無創耶 @Amateras00

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