第13話 スクラヴォス・ガウラスの災厄の日

エレウシスの秘儀前日譚 IF及びクロス 

あくまでもIFであり、前日譚と後日譚に分かれております。どうかご留意ください。



スクラヴォス・ガウラスの災厄の日 エレウシスの秘儀 前日譚


「おいどこだ!」

「そっちはいたか!」

「いないぞ!」


幾つものの足音がどこかへと遠ざかっていく

外の音が聞こえるようにわずかにモルフェウスのエフェクトによって穴を数cm開けた鉄製のマンホールに耳を当てて外の音を聞き、去ったのを聞き届けると穴を塞ぐ。

行ったか、と安堵をして、ふう、と一息をつく


なぜ私が今ここに、先ほどの者……黒服の者達から隠れ潜んでいるのかというと、数十分ほど前に遡る


あの時私は近くに羊肉ラムが食べられるレストランがあると聞いて、それならば食っていくかと思ってレストランにいた。

内装としては少々瀟洒な過度な装飾のない至って普通のレストランだ。

店員に案内されてついた席はのどかな風景が一番よく見え、涼やかな風が入る心地のいい窓際の席だ、左腕にいる黒曜石の腕輪の形をしたレネゲイドビーイングを撫でた。


「ここなら、少しはゆっくりと休めそうだ」


「そうですねマスター、なんたって気持ちいい風が吹いてますからねえ」


木製のテーブルに立て掛けられていた3層に折り重なったメニューを手に取り、広げて流し見をする、そして見つけたのは羊肉ラムの蒸し焼き、という目的のものを発見して、それならばと酒のメニューからこれに合いそうな赤ワインを探し出し見繕い、呼び出しボタンを押す。

しばらくして店員が来てメニューの目的のものと赤ワインを注文してメニューを置き、外を見る

……店内は人で賑わい、なおかつそのどれもが満たされているかのような満足感、私もいつか兄さんを救い出せたらあんな風に、笑いあえるだろうか

……兄さん、ずっと後悔し続けていた、私自身の無知、私が人質で会った事実、そして───


「マスター」


兄さんについて思いを馳せていると不意にアリオンから声をかけられる、小声だが何かに聞かれないようにしている……そういえば、変に鋭い視線を感じるな……

手荷物のカバンを取り出し中の書物を探すふりをしてばれないように辺りに目を配る

……いた、ほんの一瞬だが黒いタンクトップのような衣服を着た……胸の膨らみがあるのを考えれば女性、身長はおよそ……180……いや、185か?

その女性の表情は私をにらみつけていたかと思うと不意に顔を逸らしポケットから何かを取り出したように見えた、これ以上みているとばれるな……


そう思考し本を取り出して気にしないようにしようと料理を待つ

数分もして料理が運ばれてくる、いくつも切り分けられ蒸し焼きにされた羊肉の蒸し焼きの匂いは鼻孔を擽り食欲をそそる、赤ワインをワイングラスに注がれ、日の光を浴びて反射をしている

好物の羊肉の蒸し焼きと赤ワイン、兄さんも好きだったものだ、昔はこれを一緒に食べていたな、と過去を思い返しつつもフォークで柔らかい肉を突き刺し、ナイフで一口サイズに切り分け、口に運び咀嚼する。

羊肉特有の柔らかさと肉質、そしてしみこんだ味が美味と感じる。

ゴクリ、と飲み込んで続いて赤ワインを一口飲む、口当たりも良く甘いワインで羊肉の肉とはピッタリ合っていて更に風味が際立てられて美味だ……

兄さんを救うことができたら一緒にこのレストランで好物を一緒に食べて語り合うのも悪くない

そう考えて口角をあげて、ふっ、と微笑む。

食べ終えてワインも飲み干してひと時の幸福を味わっているとドン!とテーブルに手を叩きつける音がした。

見れば、私のテーブルに勢いよく手を叩きつけてきたのはこちらをにらんでいたタンクトップの女性だ、周りもその音に驚いたのかこちらを注目している。


「……なんだ」


女性の赤い瞳の視線が私を射殺さんばかりに私を刺し貫いている

少なくとも私は彼女に対して何かしら恨みを抱かれるような覚えはないが……


「ちょっと面貸せ」


「私がn」


「黙れ」


反論をしようとしたが即座に私の言葉を遮られ口を噤む。

周りを目だけで見ればこちらを見てひそひそ話をしている……まずい、このままだとあらぬ噂を立てられる

さらに言えば彼女についていくことで何かしら私にとって不利益があるのは確実だろう。

……考えたくもないが、もしやファルスハーツのどこかのセルか……?

以前にマスターレギオンとして潜入して兄さんの情報を集めていたこともあったな……

今頃気付いて報復に来たか?

しかしこのままここにいるのもまずい、彼女についていくことにした

途中で会計を済ませておくのも忘れずにしておいた、迷惑料としてお金を多めにしておいた。

レストランの外へと出ると刺すような視線を複数感じる

視線だけ巡らせると黒服の男が物陰に隠れて様子を見ているのがわかる、仲間を呼んだか。

UGNという可能性もあるがここまで敵意を剥き出しにされるとその可能性を捨てざるを得ない

………このままついていった場合考えられるのは………

最悪の可能性も弾き出され、それはまずいと思考する

……今ここで、兄さんに辿り着く前に捕まるわけにはいかない。

先ほどのレストランで口を拭いて脂を拭う為に取ったナプキンを気づかれないようにいくつもの破片にする。

そして、モルフェウスのエフェクトによって変換、閃光手榴弾スタングレネードにしてピンを抜いて、レバーがそれによって外れないように手で抑える


「………ところで、どこまで行く気だ」


「黙れつってんだろうが」


にべもなくそう返されて、ある意味予想通りであった為気落ちはしない、だが……

スッと彼女の前に転がるように閃光手榴弾スタングレネードを放り投げ、残りを周りを取り囲もうとする者達の方向へと投げる。

それが地面へと落下した瞬間、〈戦闘領域ワーディング〉を展開して一般人には被害が及ばないように気絶させる。

彼女が足元に転がってきたそれを見てそれが閃光手榴弾スタングレネードであると理解した瞬間眩い光が襲い掛かる!

私はナプキンの破片を遮光サングラスにモルフェウスのエフェクトで変換をして被害を免れる

しかし彼女は突然の出来事だったからか目を抑え腕を振り回している、周りの黒服の男達も目を抑え悶えている。

成功だ、そう確信してその場をワザと足音を立てて離れる。

数分もして逃げ道を探す、そして見つけたのは地下道へ通じるマンホールの蓋だった、これ幸いとマンホールの蓋を開けて梯子を半ばほど降りてマンホールを元に戻し、外の様子を見聞きするための穴を空けて落ち着いた。


……というのが今の現状だ

しかしUGNであった場合、何かと面倒になるのもあるが……折を見て連絡して誤解を解くしか……いや、あんな逃げ方をしておいて今更すぎるな……

マンホール蓋の穴を塞いで息をついてどうしたものか、と思考する。

今ならば足音の主たちはもういないだろう、だがここから出てくるのを待っているという可能性も捨てきれない

何より彼女が、イージーエフェクトによってこの場所を探り当てないという確信はないのだ。

そうなる前にどうにかしてこの場を脱し、次の町へと旅に出るかもしくはUGN系列への連絡をして何とか誤解を解いてもらうように通達するか……?

しかしこの出入り口は使用しないほうがいいかもしれない、そっと音を立てないように慎重に梯子を下りて下水の臭いが充満する地下道へと降り立ち、強くなるそれに眉をしかめる……贅沢は言ってはいられない

下水道をあるいて途中の壁にあった見取り図を参考にして、なるべく遠い方のマンホールの下水道入り口へと向かう。

周りを警戒しつつどんな音を聞き逃さないために精神を集中させながらも進んでいくと遠くから鉄がひしゃげるような音が聞こえた……まさか、もうばれたのか?急がなくては

背筋に冷や汗を掻く、足音を立てないようになおかつ急がなくてはならないとは……戦場とは違うが逃げなくてはならないという、追い詰められる鼠のようなそんな緊張感も走る

遠くから真っ直ぐにこちらへと走る音が聞こえる……間違いない、音か臭い、それか熱、それらのいずれかを感知している。

臭いのせんはこの下水道の臭いからして考えにくくはあるが、音がある、どんなに足音を殺しても人の身体から発せられる音というものは消すことはできない、熱であるのならば待ち構えているだけでもいいはずだ、しかしそのばを熱が通過したその線を見分けて追いかけることの出来るイージーエフェクトを持つものもいるという……

となれば、選択肢はいくつか絞られる

サラマンダー、キュマイラ、ハヌマーン……そしてオルクスといったものだ

これらのいずれかはわからないが、オルクスであるのならば因子操作能力で私のやろうとしていることを把握することも可能なはずなのでこれは除外

次にサラマンダー、これらは炎や氷といったものを操る熱量操作のシンドローム、熱感知知覚といったイージーエフェクトもあるため有力候補であある、だが彼女がテーブルを叩き、その力強さからサラマンダー特有の熱量の動きがなかった、そのためこれも除外。

次にハヌマーンとキュマイラ、彼女のあの机を叩きつける動きからキュマイラが混じったハヌマーン系かと思ったが、あの強さはクロス特有の抑えられた感じはしない、ハヌマーンも除外。

……となればキュマイラシンドローム、ピュアブリードだとすれば、あの力強さも、今追ってくることができているものも、イージーエフェクトである鋭敏感覚やコウモリの耳と言ったものであれば十全にできる。

なによりピュアブリードは一つの事を徹底的にできる、なればその力の上限も計り知れない。

下水道の出入り口を上るための梯子に手をかける、足音がもうあと数m後ろまで迫っている

まずい、と梯子を素早く上っていき、マンホール蓋をモルフェウスのエフェクトによって一部を取り除いて外へと出ようとすると先ほどの彼女の怒号が聞こえる。

すまないが今ここでつかまるわけにはいかない、と外へと飛び出し近くに会った手のひらサイズの石を大型二輪バイクへと変換させて跨ると同時に鉄がひしゃげ砕けるような音が響き、彼女が這い上がってこちらのにらみつける……キュマイラとはあそこまでできるのか……


「待てやこら」


「……すまないが、今はまだ捕まるわけにはいかない。」


右手のハンドルを思いっきり回し、アクセルを全開にしてスピードを出して遠ざかる。

彼女の言葉も聞こえないほどに遠くへと離れた

周りの風景がビュンビュンと変わっていく中、どうするかと思考する、このまま町を出るとしても先にやつらが出入り口を封鎖をしていたら意味がない。

であればどうするか……赤信号で止まり今度こそ一息をつけると思ったがまたあの鋭い視線が突き刺さる……まて、もうきたのか?

バイクのサイドミラーを何気なく確認すると数台後ろに大型二輪バイクに跨り、こちらをにらむ彼女の姿を確認できた。

……流石にしつこいぞこのファルスハーツ……いや、イリーガルか、ギルドの連中……傭兵を憎むやつか……?それとも私個人だとしたらすまないとは思うが。

青信号になった瞬間、アクセルをふかして一気にスピードを上げて引き離そうとしていくが、彼女もまたこのまま追いかけてくる。

しかし彼女のほうが馬力が上なのか少しずつ距離を縮められていく。

舌打ちをして服の内ポケットから携帯端末を取り出してUGNに対してSOSメールを送信する。彼女が何であるかはわからんがこのままだと私の身が危ない。

そして端末を砂に還した後人気のない場所へと誘導できるように、走っていく最中で走った道を脳内で地図として刻み込んでいく。

戦場で幾度も鍛えられているからこういう似たような状況は慣れている。

しかし彼女のほうが上手なのか追い詰められていく

チラリとサイドミラーを見やるが彼女の姿はない、どこに、と目を巡らせる、がドン!と真後ろに衝撃が走り、首に腕が回され締め上げられ、息が詰まる


「っ……!?が……!」


「逃がさねぇぞ……!この、やろぉ!」


背中にむにゅりとした女性であると主張するふくらみ……いや、硬い、これは、筋肉……まて男か?声は女性だったぞ?、しかし、首を締めあげられたことにより大型二輪バイクの操作も疎かになり始める

首を締めあげられて呼吸がしづらい、なによりこのままだと事故る、ぎり、と歯を食いしばりながら人気のない方へとアクセルをふかして走らせていく……だが、彼女がそのバイクから離させようと私の首を締めあげたまま跳躍して投げられる。

突然空中に投げ出され、先ほどの首絞めもあり対処が遅れる、背中から激痛/砕骨音、激痛/裂傷、風切り音/耳鳴り、内臓の損傷/喀血

それらの衝撃が全身を襲い、コンクリート塀に突っ込んで巨大なクレーターが出来上がっていた。

血の塊を吐き出す、身体は〈自己再現リザレクト〉によって跡形もなく怪我をする前に元に戻る。

混迷しそうになる意識を覚醒させて、見上げると黒く巨大な狼に変じながら突っ込もうとする彼女の姿……まずい!!

埋まっていた身体を何とか動かしてクレーターから抜け出すと同時にクレーターに突っ込み更に深く抉る狼がいた。


「……殺す気か」


「あぁ?超越者オーヴァードならこんなんじゃ死なねェだろ!!」


「脳を破壊されたら誰でも死ぬぞおい」


そんなツッコミを余所に地面を思いっきり踏み出し砲弾のように突っ込んでくるその狼を何とか避けるが突っ込んだことによりコンクリートが破壊されその破片が身体に突き刺さり激痛がする。

……っ、流石にこの狭い場所ではヤツの方が身軽か……!

なおかつここには障害物が多く、何をするにしても私のエフェクトの銃の射線に入れる前に翻弄されるのがオチだ。

どうするかと思考しつつも狼の攻撃を避け続けるが、足元の大きな石に気付かず背中から地面へと転び打ち付ける。

身を起こそうとするとドン!と上半身に彼女が跨り覆いかぶさって胸倉をつかまれる。


「おう覚悟しろ」


「……私がお前に何をしたと、先ほどの閃光手榴弾スタングレネードについてなら謝ろう。」


「とぼけんじゃねえ!」


激痛/殴打、頬を思いっきり殴られたようだ、口の中が血の味がする……何をとぼけろと

私としてはいったいこの者になにをしたのかが皆目見当もつかない、アリオンも声をかけようとしているようだが、彼女のその迫力に圧されて何も言えないようだ。

しかし彼女はそれでも倒れて何も抵抗しないと態度で示しても顔を殴ろうとしてくるため腕で顔を護る、そのたびに腕が何度もへし折れる音と激痛がするが〈自己再現リザレクト〉によって戻っていくが……じり貧だ


「おう、今度逃げたらこんなもんじゃすまさねえぞ、"マスターレギオン"!!」


「………………は?」


"マスターレギオン"という単語に眉をしかめる、出てきたのは呆けた声

その様子に苛立ったのか背中を地面に叩きつけられる。


「とぼけんじゃねえ!テメエのツラははっきりとわかってんだよ!豚野郎!!」


「……まて、私は」


「まだ言い訳を」


途端、携帯端末の着信音、彼女のズボンのポケットからのようだ。

彼女が舌打ちをしてその端末に出る。


「あー、こちら神縫 荒夜かみぬい こうや、"マスターレギオン"を捕縛……あ"?双子!?え、あ、やべっ」


その様子に理解した、どうやら私は"マスターレギオン"となっている兄、ヴァシリオス・ガウラスと間違えられていたのだと……だがしかし、少し胸の奥からふつふつと沸き上がってくる


「……おい、まさかとは思うが……確認もせずに私を追いかけてきたわけじゃないだろうな」


ガシッと彼女の胸元の布を掴んで笑顔で聞く、彼女の瞳に映る私の顔は笑顔だが目は笑っていない。私でもこの顔はできたのか

しかし彼女、荒夜はその様子にやっべえという表情になり申し訳なさそうにして手を無理に離させ、逃亡する


「うぇッ、え、あ、えっと、わりい!」


「逃がすと、思ったか」


脳内で先ほどまでの地図も使用して幾つもの捕縛するための作戦を展開し、モルフェウスのエフェクトによって足枷を作成し彼女の脚を捕縛する。

一度転ばせたがしかし引きちぎってコンクリートブロックの塀を駆け上り壁の向こうへと消えようとする

だが、それも織り込み済みだ、と呟き精神集中コンセントレイト……コンクリートブロックをスナイパーライフルに変えて〈ペネトレイト〉によってコンクリートを貫くと同時に手枷と足枷となって荒夜を壁にさかさまに貼り付ける手ごたえを得る。


「ぐぇっ!ま、まてって!俺が悪かったって!!」


「悪いと思ったやつが逃げるか?」


頭すれすれを通る様に何度も撃ちこんでいくと向こうで悲鳴が響き怯えた声で死ぬだろうが!と聞こえるが先ほど言われた言葉を笑顔で言い返してやると押し黙った。

その後、私は彼女に対してそのまましばらくの間説教をしていた。


前日譚END


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スクラヴォス・ガウラスの災厄の日 エレウシスの秘儀 後日譚


エレウシスの秘儀から数日後、私はようやく救えた兄さんと共にしばらくMM地区内を拠点を基に活動をしていた、まだここにいるのは、主に食料の調達や兄さんの衝動の緩和の為もある

なにより兄さんを救えた幸運と達成感、嬉しさで胸がとても温かくなった。

それに、もう仮面をする必要性もなくなった、これからは兄さんと一緒に不平等な世界を是正するために動けるのかと思うと心が躍るくらいだ。

MM地区内をゆっくりと歩み探していると声をかけられる

そちらに目を向ければ数週間以上も前に勘違いして私を追いかけまわした女性、米軍"テンペスト"に所属する超越者オーヴァードである神縫 荒夜かみぬい こうやだった。


「おうここにいたかスクラヴォス!」


「……荒夜か、今度はなんだ」


「そんなに警戒するなって!先日迷惑かけちまったしな、お詫びに一杯奢らせてくれねえか?」


「……まあ、いいが」


訝し気な表情をして荒夜の目を見ると慌てた様子でそう弁解する、しかしこの後か……少し休憩するのもいいかと思い了承をする

それに、兄さんに合いそうなところも探せるかもしれないしなとそう考えてふっ、と微笑む

案内された場所は静かな落ち着いた雰囲気のある店だった。

荒夜は自分の好みの酒を頼み、私には赤ワインを出される、どうやら以前に出会った際に呑んでいた飲み物も見ていて覚えていたようだ。


「んー、スクラヴォス、エレウシスの秘儀の事で聞きたいんだが、マスターレギオン……兄貴を救ったって?」


「ん、ああ、私の執念の結果であり、行動した結果だ、後悔はないよ」


ふっ、と口角をあげて微笑むと少し不機嫌そうな表情をされるが気にしない


「……昨日お前に会おうとしたけど、お前やけに距離近くねえ?デキてんのか?」


「……でき、てる?」


よくわからないが、私にとってはようやく会えた、昔、私は人質だった、兄さんとは別れた部隊にされた上にそしてジャームにされるところでもあったが、

それらは全て兄さんが叛乱を起こさないためのものだった……

これはUGNに保護された後で知った情報だ、それで私は自身の無知と兄さんの苦悩にも気付かなかったこと、支えてやれなかったことに後悔と罪悪感を深く抱いていた、そして十数年以上兄さんを執念と罪悪感で追っていた

その末に私は私のやりたい事を押し通してようやく私はその手を取ることができた、その慶びは抑えきれないほどだ。

それでも訝し気にする、彼女にちょっとした昔話として自身の過去を話すと、どこか半分は納得したようだ、小声で何かを言っていたようだが……だが不機嫌そうだ


「私がもしも傍で兄さんを止める事が出来ていたのならこうはならなかったかもしれない、そう思ってしまう時が時折ある、だからすまないな」


そういうと苦笑して荒夜にデコピンをされる……キュマイラのデコピンとても痛いのだが


「それはお前の罪じゃねェだろ」


「む……痛いな……だが、今は……兄さんの為にも私も兄さんの罪を雪ぐ手伝いをするよ、兄さんの幸福にも繋げる為にな」


そう口角をあげて幸福そうに微笑むと荒夜は大きなため息をついてにっかりと笑う。


「どんだけ兄貴好きなんだよ……ま、気が済むまでやってみろ」


「弟が兄を好きでいてはいけない、などという決まりはないだろう?」


疑問符を頭に浮かべながら首を傾げていると呆れたようにちげえよと突っ込まれる


「いや誰も悪いとは言ってねェよ。ひたすら一途でビックリしてるだけだよ」


「……そうか?ただ、今まで家族としての時間を過ごせなかったぶん、我慢していた分過ごしたくてな……」


そう言ってはにかむとやはり荒夜は呆れたようにしていた

そうして荒夜といくつか何かしらのお互いの話をして緩やかな日常が、家族としての日常を手にできた幸福は絶対に手放さない

そう、決めたのだから……それこそが王と共に歩む奴隷の役目なれば


END

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