第11話 衝動の抑え方

衝動の抑え方

戦争をしていた昔、

私は連日兄とは違うオーヴァード部隊の隊長として、敵オーヴァードとの戦争に明け暮れていた。

兄とは違い、私は狙撃を主としており、なおかつ対抗種の影響もあって大量に血を消費し続けて貧血になりがちだった。

時には敵オーヴァードの死体を漁り血をすすって、使う分の血を補給したり、敵の基地の医療施設の輸血パックを奪ったりとしていたが、それでも限界はある。

何より衝動というものは厄介だ、特に戦場では、衝動に呑まれた者達が敵部隊に隙を突かれ殺されたり、倒したはずのそれを貪るあるいは過剰に、と暴走してしまう事が多々だ。

その為、我々オーヴァードは常にいつ暴走するか分からない衝動と付き合っていかなくてはならない。

……戦場で連日の部隊と交戦して血が足りず少しずつ、レネゲイドウィルスがエネルギー源を求めていたのか、吸血の衝動が日々強くなるのを感じていた。

その為戦闘が終われば抑えるために早めに寝るか、水に自分の血を混ぜて飲んで一時的な応急処置を行ったりしたが、しかしそれでも足りないと衝動が叫ぶ。

衝動を抑えるために様々な方法を思案したが、どれも戦場では使えず断念、思考にも作戦にも支障をきたし始め、後の処理をしようとしたが副官に休む事を強く勧められて一時的な拠点へと帰った……だが、そこからの記憶がない。

覚えているのはいつの間にか衝動は抑えられていて異様にスッキリした気分だった事だ。

そのおかげもあって、戦場では戦友達と共に生き残る事が出来たのだ。


「……ふむ、こんなところか」


『どうした、スクラヴォス』


「少し昔の戦場の事を思い出してな、それを書き留めていた」


ヴァシリオスは私の手元の新しい手記を覗き込み眺めるとふ、と微笑む


『……ああ、これか』


「……なんだ?」


何故かそれを懐かしむように、微笑ましそうにしてる兄の表情を見て、嫌な予感が込み上げてきた。


『ふ……なに、この時1度共同の拠点に帰った時の事だ、ナタリアも一緒だった時だ。』


「……ナタリアも?」


何故だろう、思い出さなくても良い事を思い出そうとしているような、記憶の引き出しがゆっくりと開きかけているのを感じる


『……戦闘が続くと緊張状態も長引く、そうなれば衝動も長引きやすい、しかし、衝動を抑え続けて部下にその影響を及ばさせないようにするのも結構だが……限度はある。』


「……………」


『最後まで、言うか?』


その発言に頭を抱えた、よりにもよって、それも兄の副官もいる時に、と。

脳裏に呼び起こされた記憶、それは暴走した衝動のままに兄を組み敷いて、首筋に歯を突き立てて、生暖かく心地良くも美味しくも感じ、暫くの間血を啜り、潤わせ、そのまま寝入るように気絶した記憶だ。


「………思い出さなければよかった」


『気にする必要はない、苦しむ奴隷に手を差し伸べるのは王の仕事だろう?』


「む……」


『今現在、私も同じ事をしているようなものだからな。』


兄は1度衝動とレネゲイドウィルスの侵蝕に呑まれた者で数週間程前に、エレウシスの秘儀の事件を引き起こし不平等な世界を是正する手段として引き起こした事があった。

しかし、今現在は私と共にあるのもあって大人しく、共に家族として不平等な世界を是正する為に、様々な活動もとり行なっている。

衝動と欲望に呑まれた瞳、ジャームのそれを、覚えている。

しかし今は衝動の波が安定しているからか穏やかな様子だ。

なにより、兄には迷惑をかけたくなかったというのが大きい。


『家族だ、迷惑ということはない。』


「……私の心を読まないでくれるか兄さん」


思わず頭を抱えたまま突っ込んだ、しかしヴァシリオスは楽しそうに微笑む。


『それに、お前に頼られるのは兄としても、王としてもとても良いものだ』


『また、暴走したら私が抑えよう』


「もう絶対に暴走しても兄さんには迷惑をかけん」


つい先日、血の兄弟というブラム=ストーカーのイージーエフェクトを習得して、兄と儀式を交わしてからは居場所や大体の事は分かるようになった、ならば次は暴走しても対処が出来る様にするべきだろう。

基本的に戦闘が終われば落ち着くものだが連日連戦は非常に私にとっても良くない事がわかったからだ。


『ほう……では、今度はあまり無理はしすぎるな』


ヴァシリオスはそういうと私の頭をポンポンと優しく叩いて寝床へと入り、眠りについた。

…………しばらく私は思い出したそれに関して頭を抱え続けていた。


END

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