第7話 奴隷(スクラヴォス)としての役目
とある日のよく晴れた雲ひとつない休日
UGNイリーガルとして駆り出される日はここ最近落ち着いてきた
本業の傭兵もあるが、こちらもまた暫くはない、つまり休日と言っても差し支えはない。
このような日は久しぶりに贅沢でもするか、と規模としては通常の日本の都会に近い街中に向かった。
どこかの街の中…… UGN支部は一応あるようだが、歩いていると幼い頃に嗅ぎ慣れた匂いがどこからか風に運ばれて届いたようだ。
珍しい事もあるものだと、匂いの元へと足を向かわせる。
人混みの流れに逆らうように、すれ違い様にぶつかって来ようとする、
見た目は日本映画で観たような仁侠……?の古めかしい格好をした者に絡まれた。
無視して日本語はわからないフリをして行こうかとも思考したが、そんな時幼い子供が古めかしい男にぶつかり転んだ、
その子の親が慌てた様子で駆けつけて子供を抱き寄せて男に許しを乞う、
しかし男は脚が折れたなどと言いがかりをつけて親子に慰謝料を強要していた。
───気に入らんな
不平等を是正すべく私は行動を起こした。
──《ワーディング》でも使えば簡単に無力化はできただろうがあまり騒ぎにはしたくなかったため、全て叩きのめしてもうしないと誓いを立てさせた。
部下の数人は応援に来たようだがどれも見掛け倒しのその男と同じ、イキリ倒すだけの弱者であった、
しかしその騒ぎを聞き付けた警察の車のサイレンが近づいて来るのを聴き、面倒になる前に親子たちを安全な場所まで連れて行き別れた。
その際感謝の言葉を述べて親子は足早に去っていった……ふむ、これもまあ、刺激のある日常か、と息をつくと、再びあの匂いが近くからする事に気づいた。
どうやら、あの場所から逃走していた際に目的の場所に近づいていたようだ。
これもまた運が良い
ふ、とその匂いの元へとたどり着いた。
そこには羊肉専門店と書かれた看板を掲げられている小さめの店頭販売している店だった。
店頭販売されているものを見ると生後12ヶ月以下の調理済み
日本では生後12ヶ月以下はラム、それ以上はマトン、と決まっているようだが幼い頃に兄に聞いた話では永久門歯で決まると言っていたが……さて、どう言うのだったか……
しかし、昔兄と共にそれを食べた事もあり、残さず無駄なく食べきっては2人で勉強したり王と奴隷の本を読んだりしたものだな、と郷愁にふける。
これならば兄も喜んではくれるだろう、と来た道とは別の道を歩んでいく。
どこから遠くから犯罪組織の幹部が警察に捕まってガサ入れが始まったらしいという噂話が聞こえてきたが、特に気にする必要性を感じず、意識を戻して途中の店でチーズや軽いつまみになるものも購入していく。
この日本の街でも面白い品揃えをしたものもあり、見る分には楽しい、今度は兄と一緒にこちらにくるか、とそう考えているうちに一時拠点としているホテルにたどり着く。
エレベーターを使用し、電子音声を聞き流しながら目的の階へのボタンを押す、
扉が閉じ誰もいないエレベーター内で静かな駆動音を聞いていると目的の最上階へと着いた事を知らせる電子音を響かせ、開いた。
赤い絨毯が敷き詰められた廊下を歩みながらポケットからホテルのカードキーを取り出して、目的の部屋にたどり着いたと同時にカードリーダーに触れさせ解錠、中へと入る……しかし違和感を感じた。
背後で入り口のオートロックがかかった音を聞き流し、ゆっくりと歩む。
それなりに大きく、成人男性2人でも充分すぎるホテルの部屋だった。
開いた扉の中からは血の匂いが漂う、中へと入ると突如として赤い腕が私の腕を掴み引き摺り込む。
暗い部屋の中での突然の襲撃であったからか反応をし損ねたようだ。
何とか振り払おうとすればパッと離され床に転がり仰向けになる。
背中を打ち付ける痛みはあったが、頭は無事だ……転がる際に頭を上げて庇ってよかったと安堵をする……オーヴァードにそれは必要なのか?という疑問はあるが、人のサガという物だ。
起き上がろうとすると腕を力が入りにくいように組み敷き、どんなに足掻こうとも動くことができないように脚に冷たい赤い手が抑え込む。
これは……レギオン……まさか
と顔を上げれば私を狂気に満ちた瞳で組み敷く兄、ヴァシリオス・ガウラスがいた。
この瞳は……衝動に呑まれたジャームの瞳だ
既に1度堕ちた兄は衝動に呑まれ、
だが、それでもと
それがまた、こうなったということは、衝動に呑まれてしまったと考えるのが筋だ。
『……遅かったな、我が弟よ』
兄はどこか優しく語りかける
「少しトラブルに巻き込まれてしまってな、それで予定より遅くなった」
ほう、と兄は獲物を捕らえた獣のように微笑み、私の身体を観察する。
『なるほど、私の意志引き継ぎ救われぬ者達に手を差し伸べてきたという事か』
「……わざわざレギオン出さなくとも私は逃げないぞ、兄さん」
脚を抑え込むレギオンの、そしていきなり引き摺り込んだレギオンの行動にどこか呆れたような調子で告げると、それはすまないとレギオンを消す。
脚から冷たい手の感触が消えて、少しは息苦しいのは消えたなと思考する。
「イキリ倒す男を再起不能にして、親子を助けてきた、そしてお土産も買ってきた、それだけだ」
『ふ、流石は我が弟だ……随分と鍛え上げたようだな』
「兄さんに追いつこうと必死になって鍛えたからな」
幼い頃からずっと、兄に焦がれ、共に歩もうと、王を支える奴隷になるためにと志してきた肉体だ、兄も同じよう、いや私以上に鍛え上げられている。
外見としてはお互いに細く見えるが筋肉質な身体をしているのは数日ほど前に確認済みだ。
この腕を掴み組み敷く力強さと力を入れにくくするその手技、私よりも優れている。
『ほう、では……私にもお前の優しさをくれるか?』
兄の衝動は吸血、私と同じ衝動を抱えている、ならば身を捧げてそれを抑えるのも私の、
「……兄さんのためなら、ただ……」
『なんだ』
ふう、と息を吐いて優しく見上げ告げる
「加減はして欲しい」
ふ、と兄は笑うと私の上着を半分脱がせ、首に近づける。
生暖かい吐息が兄の頭が首に埋めるようになるのが分かる。
次の瞬間、頸部の表皮、真皮、皮下組織、そして舌骨筋群を貫かれるような激痛を感じたかと思うと溢れ出した血を熱い舌が舐め回し、啜る音が響く。
オーヴァードであればこの程度の傷はすぐに治る、ただの人間であれば即死している筈の怪我だ。
しかし、首を舐めるように、血を掻き出して掬い飲み込んでいくようなそれに神経が撫でられるような感覚を感じた背筋がぞわり、といいようのしれない感覚に震える。
片側の頸動脈の血を吸い出され啜られている事で、頭に回る血も少し足りなくなり始めたのか意識を失いそうになるが保たれる。
これは、私自身のエゴであり、責任だ。
ならば、最期まで
何度でも兄の為に、私の身を犠牲にして衝動を私が受け止め続ける、それが私の誓いだ。
暫くして兄は衝動も落ち着いたのかそのまま眠り込むようにしてしまう。
傷も塞がり見た目は何もなかったかのように塞がる。
……服が首からの血で汚れてしまったがすぐにモルフェウスのエフェクトで直してしまえば問題はない。
兄の口を拭き、ベッドへと運んで毛布を被せる。
そういえば、と靴箱に置いてそのままだった買い物をした物を冷蔵庫に入れる。
起きたらお互いに贅沢なご馳走をしよう、そう考えてふ、と兄を見守るように、傍のベッドに座り本を鞄から取り出し私は兄が起きるまで読書を始めた。
END
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