第16球 本音
クラスの中はシンと静まり返っていた。
「なんで、ここに? 」
「……来ちゃった」
「いやいや、そういうことじゃなくて」
「……」
「あのー、お二人さん、始めていい? 」
「あ、申し訳ありません! 」
あまりの驚きにホームルームの最中であることを忘れていた。 サラはさっきまでの優雅な仕草とはうってかわって、慌てたように僕の前の席に腰を下ろした。
それからは、始業式とその後の教室でのロングホームルーム。 休み時間はクラスの女子たちに取り囲まれていて、とてもじゃないが話す機会なんてなかった。
女子たちの圧がすごいから、陸のところに避難していたのだけど、どうやら陸も美空から聞いてなかったらしい。
「サプライズがある、とは聞いてたけど、まさかサラ姫とは」
「まったくだよ」
「でも、まぁ……良かったじゃん? 」
「――うん」
うなずく以外、どうしろっていうんだ。 でも元気な姿を見られたのは本当に良かった。
そこにかけられたのは、今年から同じクラスになり、陸の前の席に座る平山くんの声。
「青島さぁ、あの金髪ちゃんの知り合いなわけ? 」
「まぁ、なんて言うのかな……」
これって何て答えたらいいものだろう? 異世界なんてもってのほかだし。 うーん、と頭をひねっていると、陸が助け舟を出してくれた。
「俺たちと美空も含めて3人で日本に留学している人たちとの交流イベントに行ったんだよ。その時にな」
「へえ。 でも、青島だけえらく気に入られてる感じじゃん? 」
「それは――」
「うひゃーっ! 」
「きゃあ素敵! 」
別に気に入られてるわけじゃなくて、って言おうとしたところに被せるようにサラの取り巻き女子達が大声を上げた。 そして、そのままこちらを向いてニヤニヤとしながら品定めするような視線。
一体なにを話したのか。 あまり変なこと言うと、僕たちの普通ではない経験がバレてしまう。
ちょうど鳴ったチャイムを合図に自席に戻り、後ろからコソっと話しかけた。
「サラ、何話してたんだよ」
「カイトには関係ないでしょ」
「みんなこっち見てたじゃないか。 あんまり変なこと口走ると……」
「そんなこと、わかってるわよっ。 フンっ」
「おい……サラ……」
久しぶりに会った最初はしおらしく見えたのに、もうすっかり僕のよく知るサラに戻っていた。 耳の後ろが赤いから、顔が真っ赤になるのも相変わらずみたいだ。
入学式は明日だから、今日は新入生もいない。 もしすごいキャッチャーが入ってきたら僕はお払い箱になってしまうだろうか。 野球も出来ることが多くなって、せっかく楽しみを覚えてきたところだ。 ポジションが変わったとしても続けたいとは思う。
ちなみに明日体育館でやる部活紹介は三年生で対応するらしく、僕らはグラウンドで先輩としての実力を見せるべく、練習をしていればいいとのこと。
なんでも、野手はエースと対決、投手は主砲と対決して、力試しをするんだとか。 それで去年の陸はキャプテン以外を抑えてエースの座を奪ったということらしい。
実力主義といえば聞こえはいいけど、ウチみたいな弱小校は学年なんて気にしてたら勝てないんだそうだ。 光る才能を見つける方が先決。
そこで野手志望を相手に投げるのが陸、投手志望を相手に打つのは僕ということになった。 僕なんかが主砲ってのも違和感あるけど、陸もそう言ってくれていたし、ここはその名に恥じぬように頑張ろう。
ミーティングを終えて帰宅の途につくと、校門には夕陽で長く伸びたいくつかの影。 それを辿ると艶やかな黒髪のショートヘアと、金色に輝くロングヘアという対照的な髪を持つ二人の美少女たちが僕らを待っていた。
帰り道、いつもなら美空を挟むように三人並んで歩くのに、今日は違う。 僕たちの世界でこの四人で歩くことになるなんて。 なんだか不思議な気分だ。
「サラ、何か不便だったりしない? 大丈夫? 」
「ええ。 ミソラをはじめ、皆さん色々と教えてくださるし。 カイトはこっちでは優秀なんですね。 首席だとか」
「それも聞いたのか。 あ、そうだ。 昼間何話してたの。 えらく盛り上がってたけど」
「あっ、えっと……カイトと旧知の仲なのは私たちの様子で分かったみたいで……。 それで、カイトが私のこと身を挺して護ってくれた話を……」
「ああ、それでか。 女子が好きそうな話だもんね」
「でも、魔法とかスキルのことは触れてないから。 ちゃんとミソラから聞いてたし……」
「そうか。 余計な心配だったね。 ごめん」
「ううん……。 ねぇ――カイト」
サラのリクエストで僕の部屋に集まることになった。 美空とサラは二つ隣なだけだし、集まるにはちょうどいい。 僕の部屋は本以外の物が少ないし、四人集まっても手狭に感じることはない。
「ここがカイトの部屋なのね。 本ばっかり」
キョロキョロと部屋を見回してサラはそんな感想を漏らした。 まぁ、本は多い。 あとはテレビとPCがあるくらいで、誰が見ても必要最低限の物だけがあるという印象になるだろう。
リビングからコーヒーを持ち込んで、ちょっと一息。 サラにも出してみたけど、口をつけた途端顔をしかめて、グラスごと僕に押し付けられた。 コーヒーはダメみたいだ。
「じゃ、あたしから話そう……かな。 あたしね、もっかい向こうの世界に行ったんだ」
「そうなの!? 」
「うん。 しかもお母さんと一緒に。 それで、サラちゃんにあたしたちの言葉とか文化とかを教えてたんだけど……えっと……」
美空が言い淀んだあと、言葉を続けたのはサラだった。
「同盟国が裏切ったのです。 予兆がありましたので私は美空を再び召喚し、食い止めるべく動くのと並行して、最悪のケースに備えて色々と知恵を授けていただきました。
美空の召喚に巻き込んでお母様にもご迷惑をおかけしてしまいましたが、学者として翻訳スキルをお持ちでしたので大変助かりました。
結果的に反乱は避けられず、最後の手段としていたこちらの世界への転移を選ばざるを得なくなったというわけです」
「それで、向こうはどうなったの? 」
「わかりません。 国王陛下……父上の安否もわからない状況ですから」
いわゆるクーデターのようなものか。 サラの国グラッドニアは、勇者の召喚で貢献しているはずなのに。 いや、その力を脅威と受け取られればあるいは……。
サラは、王族の血を守るためにいざとなれば脱出できる手段を取れるように秘密裏に準備を進めていたのか。
「本当は……私が隣国との縁談を受け入れていればこんなことには……」
サラは魔王討伐の立役者として祭り上げられ、それに目をつけた隣国コルターニャが自国の王子との縁談を持ちかけてきた。 確かに王女ならそういう政略結婚に巻き込まれることもありそうだ。
沈黙してしまったサラに問いかけたのは美空だった。
「そんな経緯があったんだ。 どしてお断りしたの? 王子さま、イケてなかった? 」
「……――ったの……」
「え? 」
「忘れられなかったの! カイトが!! 」
……え? ええっ!?
あまりのことに僕は言葉が出てこず、サラはプイと横を向いてしまった。
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