第18話 未実装要素ゲット

 そして、目を疑った。


「嘘……だろ?」


 HPは、半分近くも残っていた。


「え、どうして、あ」


 ノエルの胸元で、俺があげた人型アクセサリー、スペアドールが砕けた。


 そうか、ダメージの大半は、こいつが肩代わりしてくれたのか。


 ただでさえ残り少ない気力が、全身から一気に抜けていく。


 安堵のため息をつくと、ノエルはゆっくりとまぶたを開けた。


「あ……クランド」

「ノエルごめん、俺が連れてきたばっかりに!」


 すぐ、彼女に謝った。


 彼女の青い瞳に、涙が滲んだ。


 怖い思いをしたに違いない。


 俺は、罪悪感で胸が張り裂けそうだった。


 なのに、ノエルは泣きながら言った。


「ごめん、ごめんねクランド……ボクがでしゃばって、余計なことをしたから」


 ノエルは、俺を恨むことも責めることもせずに、罪の告白をするように謝罪した。


「クランドの言う通りだったよ……ボク、調子に乗っていたんだ……見学って言われていたのに、一人で戦うクランドを見て、何かしないとって、それで、自分だってもう44レベルなんだから、水魔法で援護射撃ぐらい、なんてでしゃばったことしちゃった……ボクが八大龍王との戦いで役に立てるわけがないのに……うぅ……」

「っっ!」


 俺は愕然とした。

 この子は、これだけ怖い目に遭ったのに、責めるどころか他人を気遣うのか……。


 少なくとも、地球では会ったことのないタイプの人だった。


 設定資料集において、ノエルの紹介ページには、そこまで聖人君子な設定はなかった。


 ただ、明るくて優しい教えたがりな女の子、と。


 なら、この反応は、命を持った彼女が自然と手にした善良性だろう。


 あぁ、これは堪らないなぁ。


「フィフスヒール」

 ノエルを抱き上げ、上半身を起こさせると、俺は彼女に最大回復魔法をかけた。

 彼女の欠けたHPバーが、本来あるべき姿を取り戻した。


「ノエル」


 彼女の肩を抱き寄せながら、俺は亜麻色の髪に頬をつけ、息をついた。


「生きていてくれて、ありがとう」

「え……クランド、怒らないの? だってボク、クランドの言いつけ破ったんだよ?」


 涙交じりの声で、ノエルは辛そうに尋ねてくる。

 でも、感謝こそすれ、怒る気なんて少しもない。


「自分で反省できる子を責めてどうするんだよ。これでもう、君は一人前の冒険者だよ」

「クランド……」


 それから、ノエルは俺の胸板ですすり泣いた。


 体を震わせながら涙を流す彼女を腕の中に抱きながら、俺の心は満たされていくのを感じていた。


 俺は、元からノエルのことが好きだった。


 アクティヴェイドオンラインをプレイし始めた頃からずっと、凄く可愛い子だと思っていたし、彼女のチュートリアルに助けられていた。


 でもそれはあくまでも一方的な、疑似恋愛感情だった。


 けれど今なら言える。


 俺は、ノエルのことが大好きだ。


 なんて、まだ面と向かって言う勇気はないけれど、いつか、言えたらいいな、と思う。


 鈴のような音に、意識を引かれた。


 リザルト画面の処理が、全部終わったらしい。


 あとは、ハイヒューマンに進化するかどうかを選ぶだけだった。


「せっかくだから、進化しとこうかな」

「?」


 ノエルは不思議そうに、俺の確認ダイアログを覗き込んで、ぎょっとした。


「は、ハイ……え?」


 俺が【YES】をタップすると、新しい画面が開いた。


【クランドはヒューマンからハイヒューマンに進化しました】

【不老スキルを習得しました】

【レベルキャップが200まで解放されました】

【武器術スキルのレベルキャップが20まで解放されました】

【魔法が第五階梯から第十階梯まで取得可能になりました】

【ハイヒューマン専用スキルを取得可能になりました】

【ハイヒューマン専用奥義を取得可能になりました】

【現在の経験値からレベルを計算。レベルが123に上がりました】


 123!? 

 表示された数字にぎょっとするも、すぐに納得した。

 そうか。

 今まではレベルキャップの100までいったら、あとは経験値をいくら稼いでもレベルアップはしない。


 でも経験値は溜まり続ける。

 それで、レベルキャップが200まで上がったから、本来あるべきレベルまで一気に成長したんだ。


 その後は、


【剣術スキル】

【短剣術スキル】

【槍術スキル】

【斧術スキル】

【弓術スキル】

【拳術スキル】

【剣盾スキル】

【鎚スキル】

【鞭スキル】


 他、元からレベルキャップに達していた各種武器術も、いくらか上がった。


 もちろん、一番上がったのは槍術スキルだ。


 たぶん俺は、この世界で唯一のハイヒューマンだろう。


 神話にのみ存在する、特別な存在。


 けど、ヒーロー気分に浸る程、能天気じゃない。


 色々なライトノベルやマンガで知っている。


 これが知れたら、どうせ俺を巡っておかしな権力闘争が始まるに決まっている。

 

 周りには、秘密にしておこう。


「ノエル」


 リザルト画面の内容に唖然として、完全に石化していたノエルが、我に返った。


「このことは、俺とノエルだけの秘密にしてくれないかな? バレたら面倒そうだし」


 ノエルの顔が、キュンと赤く染まった。


「う、うん。ボクとクランドだけの、秘密だね、うん」

「おい冒険者!」


 突然の声に、俺とノエルはびくりと肩を跳ね上げた。


 リザルト画面を見られていないか気にしながら振り返ると、そこにはルベルト王子が、偉そうにふんぞり返りながら立っていた。


 はるか後ろには、バルク元帥たち家臣団が歩いてくる姿が見える。


「冒険者にしてはよくやったな。褒めてやろうじゃないか」


 相変わらず偉そうだな。


 とは思いつつ、相手は一国の王子なので、一応、頭を下げておく。


「噂によれば、貴様はアイテムボックススキルとかいうのを持っていて、討伐したモンスターの亡骸を自動で回収できるらしいな。では、リンドヴルムの亡骸は今、貴様が持っているのか?」

「はい、その通りです」


 ルベルト王子の口角が、にやぁ、と醜悪に釣り上がった。


「うむ、では、冒険者クランドよ。私と共に、リベリカ王国の王城へ来るがいい。リンドヴルムの巨体を運ぶのは手間だからな」

「え? どういうことですか? どうして、リンドヴルムの亡骸を王城へ運ぶんですか?」

「そんなもの、リンドヴルムが我が王家の財産だからに決まっているだろう?」

「「え!?」」


 俺とノエルは、同時に声を上げてしまった。

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