第17話 決着、八大龍王戦
遥か前方で、リンドヴルムの巨躯が浮いた。
翼もない陸戦型ドラゴンが、まるで重力の縛りから解き放たれたように、高度を上げていった。
「……まさかあいつ」
流星と雷光のドラゴン、リンドヴルム。
そう、雷光と、【流星】だ。
鎧のような外殻に紅蓮のオーラをまといながら、リンドヴルムは頭を下げて、尾の先を背後に持ち上げながら、体を真っ直ぐに伸ばした。
その残酷な意味は、嫌でもわかる。
自身を砲弾とした、究極の突貫攻撃。
名前はさしずめ、メテオストライクといったところか。
「ノエル! 斜面を駆け上がれ!」
「はい!」
俺は脳髄をフル回転させて生き残る方法を考えた。
おそらく、あれはリンドヴルム最強の技。
それを回避する方法、防ぐ方法。
無理だ。
きっとこれは、何度もやり直していくなかで、誰かが攻略法を見つけて、それを他のプレイヤーに教えていくような流れを想定したものに違いない。
そもそも、このレベルのボスモンスターは、初見で倒せるような仕様にはなっていないことの方が多い。
気持ちばかりが焦る中で、逆転の手を探す。
ここはゲーム世界であって、現実世界でもある。
そこに、なにか活路はないか。
予想されるのは、超高速による体当たり。
ここの物理法則が地球と同じならどうなる?
音速の壁に当たって自滅してくれないか?
そんなもの、簡単にブチ破ってくるだろう。
こういう時、バトル漫画なら、進行方向上に剣や槍を固定して、そのまま相手が刃に激突するようにして自滅を誘ったりする。
例えば、ライガーハートを地面に突き刺して、リンドヴルムが額をライガーハートの穂先に叩きつけて脳天貫通とか……そこまで強力に固定する方法があるもんか! 俺が直接手で持っていたら俺が弾き飛ばされて終わりだ。
八大龍王の必殺技の威力を殺せるような技も持っていない。
そうこうしているうちに、リンドヴルムは発射準備を終えた。そして、ひと際巨大な咆哮を上げた。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」
ビルのような巨躯が、弾丸並みの速度で飛来した。
死の予感に心臓が止まる。
死神の鎌が首に添えられるような冷たい恐怖に肺が凍る。
そして、リンドヴルムの黒い口が開いて、俺に食らいつこうとした。
「あ…………」
轟音の津波に、俺は五感の全てを押し流されて、何もわからなくなった。
◆◆◆
リンドヴルムの死体が、自動的にアイテムボックスに収納されて、俺はリンドヴルムの体内から生還した。
「あぁあああああああ~~、生きてるぅううう~~」
精も魂も尽き果てながら、俺は仰向けに倒れこんだ。
視界の端では、リザルト画面が凄まじい量の経験値や、ドロップアイテムの処理を行っている。
【雷星の剣を手に入れました】
【雷星の斧を手に入れました】
【雷星の槍を手に入れました】
【雷星のこん棒を手に入れました】
【雷星の盾を手に入れました】
【雷星の弓を手に入れました】
【雷星のブーツを手に入れました】
【龍王殺しの称号を手に入れました】
【奥義、メテオバーストを習得しました】
いつもなら、その確認で有頂天になるのだけれど、今はその気力もなかった。
画面越しにコントローラーで操作するのとは違い、生身での戦いは、まさに命を削るような疲労感がある。
でも同時に、画面越しでは味わえない充足感があった。
「これは、病みつきになりそうだな」
なんて、危険な中毒者発言をこぼすと、とある確認ダイアログが表示された。
【レベルが100を超えました。ハイヒューマンに進化しますか?】
ハイヒューマン。
それは、神話の時代に存在した、高位種族だ。
アクティヴェイドオンラインの世界では、かつて地上は神々が作り出した被造物、ハイヒューマンが支配していたとされている。
だが、時代と共にハイヒューマンは力を失い、ただのヒューマンになったのだとか。
そういえば、実装が予定されていた追加要素に、そんなものがあったな。
「詳細は不明だったけど、レベルキャップが上がるんだっけか? ん?」
斜面が崩れるような音に振り返ると、俺は息を呑んだ。
ノエルの体が、力なく斜面に横たわっていたからだ。
きっと、メテオストライクの攻撃範囲から逃げきることができなかったんだろう。
たとえ余波だけでも、ノエルのレベルなら、オーバーキルだったに違いない。
「ノエル!」
急いで彼女に駆け寄った。
心臓が痛い。
お願いだと、神様に祈るような思いで、俺は彼女の無事を祈った。
俺のせいだ。
俺が調子に乗って、師匠づらをして、こんなところに連れてきたから。
好きな二次元キャラに会えて、調子に乗っていた。
自分の愚かさを責めながら、鑑定魔法でHP残量を確認した。
そして、目を疑った。
「嘘……だろ?」
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