第16話 ガチ勢、ナメんなよ!
「っ……おいおい。ぶっこわれ性能のバグモンスター相手にアップデートとリセット無しで一発攻略しろとかどんな無理ゲーだよ」
間違いなく、史上最難関クエストだ。
でも。
「だからこそ滾る!」
もう一度、俺はリンドヴルムに跳びかかった。
そして、今度は尻尾の一撃に正面から挑まず、弾いた。
俺のHPがわずかに減少しつつ、俺は真下に、リンドヴルムの背中に、ライガーハートの穂先から着地した。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」
リンドヴルムは猛り、体をぐねらせて暴れた。
俺はその巨躯を足場に駆け回り、背中を、腕を、首を次々斬りつけ、フィフスアクアを至近距離がぶち込んでいく。
立て続けの連続攻撃に、リンドヴルムのHPバーが、ドット単位ではあるものの、減少していく。
ドラゴン殺しは効かなくても、水属性は効いている。
だから、エンチャント魔法でライガーハートには常に水属性を付加して、水属性の奥義も使った。
奥義は、MPを消費して使う武器術の大威力技だ。
水の刃を飛ばしたり、水をまとった穂先で攻撃すると、僅かだけどHPバーが減りやすい気がした。
それでも、俺のHPバーの減りのほうが、遥かに速い。
「俺は、きちんと学校に行っていたし会社に行っているから、廃人ゲーマーには負けるけどさ。でも」
HP全回復の希少アイテム、エクストラポーションを飲み干して猛った。
「ガチ勢、ナメんなよ!!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」
そこからは、Sランクガチプレイヤーと、八大龍王の壮絶な削り合いだった。
俺はレベル100で最強装備なのに、リンドヴルムの一撃は喰らっただけでHPを三割近くも持っていかれた。
HPが半分以下になるたび、エクストラポーションを飲んで回復しつつ、しぶとく食らいついた。
水魔法とハルバードを縦横無尽に使いこなしながら、リンドヴルムの命をそぎ落としていく。
ハルバードは、優秀な武器だ。
ハルバードは、槍の穂先の片側に斧が、もう片側に鎌のような鉤がついている。
斧部分は割撃特性を持っていて、リンドヴルムの硬いウロコにも有効で、槍部分で斬れば汎用性の高い斬撃特性、先端で突けば、クリティカル率は低いが威力のある刺撃特性を持つ。
そして、鉤部分で払えばクリティカル率抜群の薙ぎ払い特性で、しかも引っ掛けることができるし、突きのあと引けば追加ダメージを与えられる。
「■■■■■■■■■■■■■■■■!」
リンドヴルムが、俺を体から跳ね落とした。
俺はすかさず、ライガーハートの鉤部分をリンドヴルムの表皮に叩きつけて、落下を防いだ。
俺のことを跳ね落としたと思い込んだリンドヴルムは地面に俺の姿を探すも、そこに俺の姿はない。
密かに首を駆け上がり、頭の付け根に、奥義を叩き込む。
「ストライク・カタラクティス!」
激流を放つ斬撃が、リンドヴルムの表皮を直撃する。
ナイアガラ瀑布のような勢いで押し寄せる水撃に、リンドヴルムのHPバーが少し減った。
「はっ……しぶといな!」
リンドヴルムのHPは、まだ三割近く残っていた。
対する俺は、エクストラポーションはまだあるも、集中力が続かない。
不意の一撃が訪れたのは、その時だった。
一発の水弾が飛来して、リンドヴルムの眼に当たった。
「■■■■■■!」
リンドヴルムはわずかに怯み、渓谷の入り口側を睨みつけた。
その視線の先を追うと、王子や元帥も逃げた渓谷に一人、佇む少女の姿があった。
「ノエル!」
リンドヴルムが予備動作を起こす前に、俺は脊髄反射で飛んでいた。
背後に風魔法を放つことで飛ぶ、という方法をぶっつけ本番で試して、運よく成功して空を駆けた。
視線の先で、ノエルが恐怖に凍り付く。
俺の背後で、リンドヴルムが口を閉じて、牙の隙間から雷鳴を鳴らす。
間に合え間に合え間に合え!
雷鳴が雷光に変わり、破滅の光が奔る。
間に合わない!
ノエルの元にはたどり着けない。
だから、空中で反転して、ハルバードを構えた。
そして、エクストラポーションを飲みながら、MPを励起させる。
「ディーエクタス・アクアエ!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」
雷光が吼え、雷光が迸る。
リンドヴルムとノエルをつなぐ線の間に身を置く俺は、雷光目がけて、貫通力重視の水属性奥義を叩き込んだ。
俺の狙い通り、ハルバードの一撃は八大龍王の雷光と対消滅して、相殺しきれない余剰雷撃が、俺のHPバーを容赦なく削り取っていく。
焼けるような痛みに、顔が歪む。
でも。
「耐えてみせる!」
雷撃の終わりと同時に、弾き飛ばされた俺は、ノエルの近くに着地した。
残り数ドットしかないHPバーが、1ドット削れた。
アイテムボックスからエクストラポーションを取り出して飲み干して、また、ハルバードを構える。
「ご、ごめんねクランド。ボクが余計なことをしたばかりに……」
ノエルは大粒の涙をこぼしながら、震えていた。
その姿に、俺は無力感を痛感しながら奥歯を噛みしめた。
「話はあとだ。それよりも来るぞ!」
遥か前方で、リンドヴルムの巨躯が浮いた。
翼もない陸戦型ドラゴンが、まるで重力の縛りから解き放たれたように、高度を上げていった。
「……まさかあいつ」
―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―
本作ではリンドヴルムの鳴き声を「■■■■■■■■■■■■■■!」で表現しています。
これは五十音で表現できない音を文字媒体である小説でどうやって表現しようか考えた結果の、苦肉の策です。伏字じゃないよ。リンドヴルムはエッチなことなんて言わないよ。
昔は
「カロロ」「ガルァッ!」「グォオオオオオン!」
とか、
「RRRRRRRRRRRRRRRRR!」「VOOOOOOOOOO!」
とか、
咆哮が大気を震わせ、主人公の心臓を打った。百獣の王ライオンが、暴君竜Tレックスが、時代の覇者だけが持ちうる王者の威光に、心が委縮した。
とか、地の文だけで表現してみたりしていました。
自分でもどれがいいのか悩んでいました。
今は■■に落ち着きました。なんだか文字にできない叫び、みたいな感じがしていいかなと。
動物の吠え声、以外にも人間の悲鳴にも使います。
去年発売した【無双で無敵の規格外魔法使い】で、主人公が敵ボスの尻に痛恨にして会心の一撃をクリティカルさせた時に使いました。
(なにがどうしてそうなった)
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