第14話 夢にまで見た未実装ボス戦
渓谷の曲がり角から、家を食い破りそうなほど巨大な龍の頭が飛び出した。
金属質で鎧のような表皮。
後ろに伸びた二本のツノは、表皮の延長のように伸びたデザインだった。
暴力的な牙が並んだ口が上下に開き、真っ黒な口内を地獄の門のように広げて吼えた。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」
颶風が渓谷を駆け抜けた。
まるで局所的な嵐を彷彿とさせるような咆哮は、それだけで立派な攻撃だった。
いや、本当に攻撃かもしれない。
兵士たちの頭上に、状態異常を示すマークが浮かんだ。
鑑定眼で見れば、全員、【恐慌】状態になっている。
ゲームの頃は、一定確立で行動に失敗して、攻撃の威力が半減するという凶悪な仕様だった。
なるほど。
今の咆哮でみんな、リンドヴルムに怯えて切ってしまったというわけか。
兵士たちは荷物を投げ出して、あるものは逃げ、あるものは腰が抜けたように座り込み、あるものは渓谷を挟む山を登ろうとした。
さっき立ち去ったバルク元帥が、ルベルト王子を小脇に抱えて走ってくる。
「全員戦闘配置につけ! 自分を取り戻せ!」
「バルク元帥!」
「おぉ、クランド殿!」
「俺が足止めするんで、その間に陣形を立て直してください」
「かたじけない」
俺とバルク元帥が頷き合うと、馬鹿王子が口を挟んできた。
「貴様は余計なことをするな! 冒険者風情の助けなんて借りずとも、我が精鋭があんなトカゲごとき――」
「貴方は黙ってください!」
バルク元帥の一喝で、ルベルト王子は悲鳴を上げそうな顔で黙った。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」
リンドヴルムが再び猛った。
渓谷の奥から、その全身が現れる。
蛇のように長い体には、前足はあっても後ろ足は無かった。
流星と雷光のドラゴンでありながら、その体には翼が無く、地を這いながら、だが頭の高さは十メートル以上、三階建ての建物に匹敵した。
ルベルト王子は、あんぐりと口を開けたまま、白目を剥きかけている。
一方で、俺は興奮を抑えられなかった。
画面越しじゃない、VRなんか目じゃない。
究極のリアルが、そこにはあった。
「じゃあ行こうかな……」
リンドヴルムの威容に、俺の心は昂り続け、心臓が歓喜に震えた。
「ドラゴン狩りに!」
俺のカカトは地面を蹴り、一気に右側の斜面を駆けあがった。
両手に握るハルバードは、ドラゴン型モンスターに大ダメージを与えるドラゴン殺しの特性を持つドラゴンスレイヤー、ライガーハートだ。
それに、エンチャント魔法で水属性を与える。
流星と雷光のドラゴンであるリンドヴルムの属性は雷。弱点属性は水だ。
最高クラスの攻撃力を持つSレア武装に、弱点効果の重ねがけ。
これで効かないわけがない。
斜面を駆けあがった俺は、大きめの岩を足場に蹴り跳び、リンドヴルムの頭めがけてライガーハートを振り上げた。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」
リンドヴルムの鋼の尾が、音速を思わせる速度でかっ飛んできた。
巨体に見合わない敏捷性に驚きながら、大気を振るわせる轟音に耳を奪われながら、俺は素早く目標を変えた。
ライガーハートによる渾身の一撃を、右から迫る尾の側面に向けて振るった。
ドラゴンスレイヤーの穂先と、ドラゴンテイルによる正面衝突。
その衝撃は凄まじく、穂先で受けた運動エネルギーが全身を突き抜けた。
「おわっ!」
叩き飛ばされ、人形のように空中へ放り出される。
骨が軋むような激痛と共に、俺のHPバーが、ぐんと減った。
空中で足場を求めるように態勢を整えながらも、視点は奴から離さない。
リンドヴルムのHPバーが表示された。
見た目には一ドットも減っていない。
どれだけ途方もないHPを持っているんだ。
それに今、たしか……。
妙な違和感を覚えながら、俺は地面に着地した。
足元の地面が陥没して、足首まで埋まった。
「陣形は……まだ組めていないか……」
バルク元帥は、恐慌状態を免れた兵士たちをかき集め、なんとか陣形を作ろうとしていた。
けど、まだ十分とは言えない。
「もうしばらくは俺が、フィフスアクア!」
水魔法の第五階梯。
AOLにおける最強の水魔法を唱えると、ハルバードの先端から、竜の形をした水流が迸った。
怒涛の勢いで放たれた水流が、リンドヴルムの顔面に激突する。
さしものリンドヴルムも、弱点の最大魔法による直撃を受ければ、無事では済まないらしい。
HPバーが、1ドット以上減った。
でも、そのダメージ量に、また違和感を覚えた。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」
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