第12話 高飛車王子が出るともうフラグにしか見えないよね
リンドヴルム討伐のクエストを受けた俺は、ノエルを岩山へと連れて行った。
岩属性モンスターと鳥型モンスターの大量に出るそこは、風魔法と水魔法を鍛えるのにちょうどいい。
岩属性モンスターは、たいてい硬い特性を持っているから、マチェットとの相性も抜群だ。
その二日後。
43レベルで剣術スキルは5レベル、火、氷、風、土、雷、水属性の攻撃魔法を第三階梯まで覚えてEランク冒険者になったノエルを連れて、俺は隣国リベリカ王国軍に従軍していた。
昼過ぎ。
木々の生えない、岩と土ばかりの渓谷に差し掛かったところで、討伐軍は斥候を出し、残りの兵士は休息をとった。
俺とノエルも、川沿いの岩に腰を下ろして、昼食のサンドイッチを食べている。
この世界の食べ物は、日本のソレと変わらない味なので助かった。
「クランド。この先にリンドヴルムがいるの?」
「らしいね。ここはタイガ大渓谷。昔トラ型のモンスターが討ち取られたのが語源なんだけど、ここを抜けていくと、地平線まで続く樹海が広がっているんだ。リンドヴルムは、その樹海をねぐらにしているらしいんだ。それにしても」
左右にそびえるはげ山を見上げながら、俺はため息をついた。
「こんな狭い場所で襲われたら逃げ場がない。川があるから水の補給ができるのはいいけど、休憩するのはどうかな?」
討伐軍は、全軍合わせて3000人の大所帯だ。
いま襲われれば、逃げ道は反対方向一本しかない。
混乱して、集団ヒステリーを起こした兵士たちが唯一の逃げ道に殺到して将棋倒しに。
命を手にしたNPCたちなら、在り得る話だ。
俺が声を濁らせると、野太い声がかかってきた。
「ご無沙汰しておりますクランド殿。その後、お変わりありませんか?」
今の愚痴を聞かれたかと思って慌てたものの、声の主は機嫌が良かった。
振り返ると、赤毛を短く切りそろえた偉丈夫が、親し気に破顔していた。
「バルク元帥」
「え? 元帥?」
突然の大物登場に、ノエルは息を呑んだ。
亜麻色のワンサイドアップが、彼女の驚きを表すように、びくんと跳ね上がる。
元帥と言えば、軍事の最高責任者だ。気持ちはわかる。
「久しぶりですね、最後にお会いしたのはいつでしたっけ?」
俺の問いに、バルク元帥は短いあごひげをかいた。
「ヴォルケーノリーパー退治以来ですな。あれは確か……おや?」
バルク元帥は、怪訝な顔を傾げた。
命を持った弊害だ。
俺はAOLを十年もプレイしている。
けど、ゲーム内時間では何十年も経っている。
それでも、NPCたちは年を取らない。
今後は取るのかもしれないけど、前は取らなかった。
だから、最後に会ったのはゲーム内時間で五年以上前だけど、青年姿の俺と最後に会ったのが五年以上前なら、俺は子供になってしまう。
話を逸らそう。
「俺はなんとかSランク冒険者を続けていますよ。あと、こっちは最近仲間になったノエルです」
俺に紹介されて、ノエルは立ち上がった。
「お初にお目にかかります。Eランク冒険者のノエルです。いまはクランドに鍛えてもらっている最中で、Sランクとかではないので、すいません」
何故か謝ってしまう。
緊張しているなぁ。
「彼女は後学のために連れてきました。彼女が戦うことはありません」
「なるほど、お弟子さんというわけか。それにしても、クランド殿に参戦していただけて恐悦至極。貴方がいればまさに千人力です」
どん、と自分の胸板を叩いて、鎧がガチャリと音を立てた。
「オーバーですよ。人ひとりにできることなんてたかがしれています」
と、謙遜しておく。
実際は、夢にまで見た新要素、新ボス、八大龍王との戦いに、好奇心と闘争心がメラメラだ。
「世界でも数えるほどしかいないSランク冒険者がご謙遜を」
俺とバルク元帥の会話を、ノエルは逃げ場を探すように震えながら、はわわわわわ、とばかりに縮こまっていた。可愛い。
下卑た声が闖入してきたのは、俺がノエルに魅了されている時だった。
「元帥。そいつが噂の冒険者か?」
「王子!」
バルク元帥は突然かしこまり、敬礼をした。
王子、と呼ばれた男性は若く、二十代前半といったところだ。
身に着けている鎧は立派だし、金髪の巻き毛が綺麗で顔立ちも整っているけど、人をバカにした目つきが、悪印象を与える。
こいつはリベリカ王国王子、ルベルトだ。討伐軍の、総大将でもある。
設定資料集や、プレイヤーとは別視点のイベントにのみ登場するNPCで、プレイヤーが直接話すことはない。
だから、面識がないのは当然だ。
「なんだか頼りない男だな。こんな男に、我が栄えある軍に参列する資格があるのか?」
ルベルト王子の視線が、怪訝そうにバルク元帥をなめあげた。
「お言葉ですが、クランド殿は数多くの上級モンスターを倒してきたエキスパートですぞ」
自慢じゃないけど、AOLに登場する全モンスターのデータは頭に入っている。
「そんなヒョロ男に倒せる程度なら、そのモンスターがたいしたことなかったんだろ? 過大評価だ。冒険者のことだって、どいつもこいつも買いかぶりすぎなんだよ」
ルベルト王子はドヤ顔を作りながら、周りにも聞こえるよう大きな声で語った。
「私は王子だが世間知らずではない。私も世間の評判は知っている。そして上級冒険者を英雄視する風潮にはうんざりだ」
鼻から息を抜いて、ルベルト王子は得意げに続けた。
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