第8話 巨乳がコンプレックスの女の子を可愛いと思うのは俺だけだろうか?

 土というか、岩系の敵に効果的なのは、風化現象から引っ張ってきたイメージなんだろうけど、なんで軟体型モンスターの弱点が風なんだろう?


 体の表面が乾燥したら死ぬとかそういうイメージかな?


 マチェットが割撃なのに大剣が斬撃なのっておかしくない?


 両手で持つバトルアックスも片手持ちの手斧も両方斧術スキルでダメージ計算するのおかしくない?


 と並んで、この話題は、ネット上のスレッドでも時々話題に上がる話である。


 まぁ、風が苦手な種族ってなんだよって話だし、余ったのをあてがっただけかもだけど。


 ちなみに、

 植物型は火に弱く。

 虫型は氷に弱く。

 鳥型は水に弱く。

 獣型は雷に弱く。

 スライムは土に弱い。

 魚型に弱点はないけれど、ほぼすべてが必然的に水属性なので、種族ではなく属性の都合で雷に弱い。


 そんなこんなで接待プレイを始めてから三時間。


 俺のアイテムボックスには、尋常ではない数のモンスター素材が溜まっていった。


 モンスターも全然姿を見せなくなったし、腹も減ったので、ここいらで切り上げよう。


 ちなみに、このアバターはやはり生身のようで、お腹が空けば喉も乾く。


 昨晩は、自宅のお風呂もトイレも使った。


AOLに転生した喜びで興奮して眠れないかと思いきや、睡魔に負けて、あっさりと眠りに落ちた。


「よし、じゃあ今日もこれくらいにしておこうか」

 最後のモンスターをアイテムボックスに収容してから、俺はノエルにそう声をかけた。


「うん、今日もありがとうね、クランド」

「どういたしまして。レベルはどうなった?」


 ノエルはマチェットを握ったまま、ぴっとVサインを作って笑ってくれた。

「レベルは25から36に、剣術レベルは3から4に、あとファーストゲイルとセカンドゲイル、ファーストサンダーとセカンドサンダーを覚えたよ♪」

「それは凄いね。強さだけならDランク級だよ」

「えへへ、これでボクも立派な冒険者かな」

「いや、水を差すようで悪いけど、立派とは言えないかな」

「だ、だよね~、全部クランドのお膳立てだったしね……」

 たはは、とノエルは頭をかいて照れ笑った。


 呑み込みの早さは相変わらずで、可愛い弟子ができたみたいで嬉しかった。


「そうだね。いまのノエルは、強さだけならけっこうなものだと思うよ。だけど、昨日も今日も、動けない敵を一方的に攻撃していただけで、まともな戦闘はしていない。状況判断力や対応力は変わっていない。力を得るのと強くなるのは、同じようでいて別物なんだ」


 現実世界でもそれは変わらない。


 力を得るだけなら、ライフルでも手榴弾でもいい。極端な話、ミサイルの発射ボタンを持てば誰でも街一つ破壊できる力を手に入れられる。


 だけど、素人がむやみやたらにライフルを乱射すればすぐに弾が尽きたり跳弾で自分や仲間を傷つけるだけだ。


「レベリングは、次、土魔法と水魔法の修行をしたら終わり。その後は、ノエルには戦闘中の判断力や対応力を養って、本当の強さを身に着けて欲しいな」

「…………」


 俺の言葉に、ノエルはしゅんと眉を八の字に垂らした。


 あれ? 落ち込ませちゃったかな?


 いきなりこんな厳しいこと言わないで、普通に褒めてお祝いしてから言うべきだったかな?


 でも、俺の後悔は杞憂だったらしい。


 ノエルは、しおらしい声で言った。

「ねぇ、クランドは、どうしてボクのためにこんなに良くしてくれるの?」

「え? それはだって昨日ちょっと悪ふざけでノエルに嫌な思いさせちゃったから」

 あと、ノエルの成人指定同人誌を何冊も買っていた罪悪感も。


「でも、だからって高い魔導書を何冊も使って、レベリングだって……いくらSランク冒険者でも、こんなの、家庭教師系のクエストを出してもやってもらえるような内容じゃないよ」 


 そうかな?

 と言うのは簡単だけど、ノエルの言う通りなのかもしれない。


 10レベルの冒険者を、たったの二日で36レベルに。


 しかも、モンスターの素材も山ほど手に入る。


 軍隊相手に短期強化訓練として商売をすれば、凄まじい軍事革命を起こせるだろう。


 それに、Sランク冒険者だからと言って、誰でもできることじゃない。


 攻略サイト、アイテムボックス、課金によるアイテム入手ができる、プレイヤーの俺だからできるんだ。


 この世界に住むNPCが俺と同じことをしようとすれば、凄まじい金と労力がかかるだろう。


 俺にとってはただの接待プレイでも、ノエルにとっては、古今未曾有の大恩に感じてしまうのかもしれない。


 でも、俺が現実世界の人間であることなんて、言えるわけがない。


 Sランク冒険者なら余裕、なんていうのも、なんか金持ち自慢しているみたいで嫌味だ。


 だから俺は、AOLを始めたばかりの頃を思い出して言った。


「喜んでくれて嬉しいよ。でもね、駆け出しの冒険者だった俺が、君に色々教えてもらったときは、もっと嬉しかったよ」


 これは、嘘偽りのない、本音だった。


 AOL発売日からプレイし始めた頃、攻略サイトなんてまだなくて、俺はチュートリアルキャラのノエルのお世話になってばかりだった。


 アイテムや装備、スキルや魔法の知識から、マップの情報まで、ノエルはなんでも教えてくれた。


 その可愛いらしい声と容姿も相まって、俺はアマルカンドに帰るたびに、ノエルからチュートリアルを聞くのが楽しみで仕方なかった。


 彼女がいなかったら、俺はそうそうにゲームを投げ出していたか、攻略サイトが立ち上がるまで、ゲームを放置していたかもしれない。

 だから。


「俺がSランク冒険者になれたのは、ノエルのおかげだよ。ありがとう、ノエル」

「クランド……義理がたすぎるよぉ」


 恐縮するように肩を縮めてから、ノエルは恨めしそうな上目遣いで、ちらりと見上げてきた。可愛い。


「ん、じゃあ下心があったほうがいいかな? え~っとじゃあそうだな。可愛くて巨乳の女の子と合法的に一緒にいられると思ったからとかは?」

「うぉっ、うぉっきくなんてないもん! ふつうっ、いやちょっと大き目なだけだもん!」


 ぼふんと真っ赤な顔から白煙を上げて、ノエルはたわわな巨乳を抱き隠した。


 巨乳がコンプレックスの女の子って可愛いよね。


 とか、下世話なことを考えてから帰ろうとすると、その声はかかった。


「もし、そこのお二人さん」

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