第7話 続・究極接待プレイ

 そうしてクエスト掲示板の前を通り過ぎようとして、俺はある張り紙に目を止めた。


「お、トルブー海岸でモンスター駆除か」


 依頼内容は、漁船や貿易船を襲うモンスターが増えてきたから、数を減らして欲しいとのことだった。


 トルブー海岸でモンスターを50体以上倒せば依頼達成。


 トルブー海岸に出現するのは、魚系、甲殻類系、それにイソギンチャクみたいな軟体系だ。


 レベルはノエルよりも少し上。連中の弱点は……よし。


「ノエル、明日は海に行くよ」

「え?」

 ノエルはちょっと体を固くした。


「二人でこのクエストを受けよう。雷魔法のレベルアップだ」

「え! あ、あ、うん、そうだよね、うん!」

 俺が張り紙を見せると、ノエルは恥ずかしそうにうつむきながら、頷いた。


「どうかした?」

「ううん、なんでもないよ。じゃあボク、宿に戻るから、また明日ね」

 赤い顔を隠すように背を向けて、ノエルは逃げるように立ち去った。


「送るって言ったのに、どうしたんだろう……あ」


 気が付いた。


 たぶんノエルは、海に行こうと言われて、海水浴デートを連想してしまったんだろう。


 もう少し早く気が付いていれば、本当に海水浴に誘い、ノエルの水着姿を拝めたのに。


 俺は、ちょっとかなりだいぶ惜しいことをした気分になった。



   ◆◆◆



 翌日の午前九時。


 俺とノエルは、トルブー海岸の砂浜に並び、水平線を眺めていた。


 ゲーム内の季節は四月で春だけど、海は少し太陽が強いように感じる。


「流石に、この時期は誰もいないみたいだね」

「モンスターが増えて危険だからね」

 俺の感想に返事をしながら、ノエルが見上げるのは、遊泳禁止の看板だ。


「じゃあ、昨日みたいに撒き餌でモンスター呼ぶよ。魚系には雷魔法、軟体系には風魔法、そんで硬い甲殻類にはマチェット攻撃、いいね?」

「もちろんだよ」

 意気込みを込めるように、語気を強めて、ノエルは腰からアダマントマチェットを抜いた。


 その勇ましい姿を視線で愛でてから、俺はアイテムボックスから水晶を取り出して、握り潰す。


 しばらくすると、海面が、ざぶり、ざぶり、と音を立ててモンスターたちが姿を現した。


 海の魚は、横幅がなくて細いイメージがある。

 

 けれど、陸に上がるためか、ナマズのように少し平べったい姿の魚が、次々砂浜に乗り上げてきた。

 

 どれも、イルカぐらいの大きさがあって、大迫力だ。


 画面越しと違って、臨場感がある。


 昨日のトレントは木だし、キラーホーンは虫だった。


 確かに非日常的だけど、作り物感もあった。


 でも、でかい魚は、いい感じに現実感があって、生々しかった。


「というわけでパラライズフィールド」


 また、足元から魔法陣が広がった。


 途端に、砂浜は水揚げされて何分も経ったような、息も絶え絶えの魚たちで埋め尽くされた。


 ぐったりと横たわったまま動かない魚の並ぶ光景は、まるで魚市場だ。

遅れて、砂浜に上がってきた、牛のように大きなカニも、こてんと転んで動かない。


 ノエルは、魚型モンスターたちには次々雷魔法を浴びせつつ、MPがなくなると、回復するまでのあいだ、カニ型モンスターたちにマチェットを振るい続けた。


 昨日と同じ、接待プレイの再開だ。

 

 レベル25に成長して、魔法攻撃力アップのSレア装備をしたノエルの魔法は魚

型モンスターたちを一撃で葬り、Sレア装備のアダマントマチェットは、カニ型モンスターを一撃で屠っていく。


「あ、剣術スキルがレベル三に上がった♪」

 もう上がったのか。


 たぶん、昨日の時点ですでに、レベル三目前だったんだろう。

 

 カニ型モンスターは【硬い特性】を持っていて、斧による【割撃】以外の武器攻撃はダメージが軽減してしまう。

 

 けれど、ノエルのマチェットは形状こそ剣だが、割撃特性を持つため、カニ型モンスターにも問題なくダメージが通っていた。

 

 おかげで剣術スキルも、メキメキ上がっていく。

 

 そして俺は、魚型モンスターとカニ型モンスターの死体を回収していく。

 

 ごめんねサテラ。

 冒険者ギルドは今日、凄く魚臭くなるよ。

 

 命を持ったこの世界は、匂いまでしっかりと存在しているから、前とは違い、しっかりと魚臭くなるだろう。

 

 俺がサテラへの言い訳を考えていると、足の遅い連中が、海からうごうごとうごめきながら這い出して来る。


「ヴぇっ!?」


 ノエルが変な声を出す。


 海から上がってきたのは、

 ワニのように巨大なナマコたち、

 見上げるような巨大イソギンチャクたち、

 三畳の広さはある、ヒトデたち、だった。


 とてもではないが、女子ウケするとは思えない姿に、ノエルは青ざめていた。


「ファ、ファーストゲイルゥ!」


 恐怖と嫌悪のこもった風魔法が炸裂して、ナマコやイソギンチャク、ヒトデは上空に巻き上げられて、HPバーを消滅させられた。


 ところで、風魔法は土属性と軟体型モンスターとの相性がいい。


 土というか、岩系の敵に効果的なのは、風化現象から引っ張ってきたイメージなんだろうけど、なんで軟体型モンスターの弱点が風なんだろう?

 体の表面が乾燥したら死ぬとかそういうイメージかな?


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