第4話 ガチ勢プレイヤーによる究極接待プレイ
素っ頓狂な声を上げるノエルを落ち着かせるように、俺はまぁまぁと手でジェスチャーをした。
「大丈夫だよ。ほい、パラライズフィールド」
俺は体内で魔力を練り、魔法を【使った】。
俺が指を鳴らすと、足元から黄色い魔法陣が浮かび、みるみる拡大していく。
豊かな草地の上を奔るように広がる魔法陣は、ざっと半径五〇メートルの地面を覆い尽くした。
そして、モンスターは魔法陣の上に入るや否や、悲鳴を上げて動かなくなっていく。
「ほら、今なら倒し放題だよ」
生きた壁と化すトレントと、その手前に落下して積み上がるキラーホーンたちの姿に、ノエルは口角を引きつらせた。
「い、至れり尽くせりすぎる……」
まぁ、実際のところ、これってかなりの接待プレイだよな。
軽く罪悪感を覚えるような声音の後に、ノエルは気を取り直して、魔法を唱え始めた。
「ファーストフレア! ファーストアイス!」
ノエルが構えた手の平から、バスケットボール大の火球と、冷気を帯びた氷の槍が生成され、放たれる。
手前に積み上がるキラーホーンには氷魔法のアイスを、奥のトレントには炎魔法のフレアを次々浴びせていく。
どちらも、魔法を受けると頭上に青いHPバーが表示されて、バーは一瞬で赤く染まりながら消滅する。
ノエルはレベル10の駆け出し冒険者。
でも、Sレア装備アイテムで魔法攻撃力を底上げした上に、相性は抜群。
ノエルが魔法を放った数だけ、トレントとキラーホーンは絶命していく。
それから、MPが尽きると、ノエルは両手にマチェットを構え走り出す。
狙いは、俺の魔法で麻痺して無抵抗なトレントだ。
ただでさえ植物型モンスターとは相性抜群の斧系武器なのに、Sレア装備のアダマントマチェットとなれば、こちらも一撃必殺は必定だった。
まるで雑草刈りも同然の労力で、ノエルは経験値を稼いでいく。
「じゃあ、俺も仕事するか」
ノエルの活躍を見守りながら、俺はHPがゼロになったモンスターの亡骸に歩み寄った。
「俺が倒したらドロップアイテムとして自動的にアイテムボックスに入るけど、ノエルが倒したのはそうはいかないからな…………?」
いま俺、なんて言った?
ぞくり、と違和感に背筋が震えた。
アイテムボックスは、プレイヤーしか持っていないはずだ。
というより、そういうゲームのシステムだ。
世界観として、本当にアイテムボックスなんてものがあるなら、輸送隊を守るクエストは成立しない。
でも、どうして俺はその辺の事情を知っている?
俺以外の人は、モンスターを倒してもドロップアイテムが自動で手に入るわけじゃないとか、ゲームで描写されていない部分を、どうして知っている?
そして、アイテムボックスからアイテムを取り出すときは、システム画面からアイテム画面を表示して、そこから使いたいアイテムを選ぶ。
そう、ゲームのコントローラーパッドでだ。
なのに俺は、公園の広場で、まるでポケットからハンカチを取り出すような感覚で、空間から魔導書を取り出した。
魔法も、まるで第三の腕を動かすように、魔法を使おうとして使った。
乗馬経験なんて無いのに、当たり前のようにバイコーンを乗り回した。
システム画面も、開こうとしたら勝手に開いた。
それに、今までは画面内に表示されていたマップが、頭の中にある。
この体、アバターが知っているんだ。
システム画面や魔法やアイテムボックスの使い方、それに馬の乗り方や、マップという感覚を。
「…………」
俺は、トレントやキラーホーンの亡骸に触れると、ひとつひとつ、アイテムボックスに入れていく。
やり方なんて習ったことはない。
ただ、アイテムボックスに収納しようとしたらできた。
まるで、使い慣れた工具を使うように、俺はアイテムボックスを使っていた。
その事実を呼び水に、様々な疑問が浮かんでくる。
ゲーム世界転生系のラノベは、たくさんある。
けど、世界の正体について明らかになっている作品は多くない。
だいいちゲームの世界ってなんだ?
俺の魂がデジタル化されてサーバー内に入った?
いや、サービスは終了しているわけで、もうデータはないはずだ。
たまたま偶然、AOLそっくりの異世界があった?
それだと、ノエルが俺のことを覚えている理由を説明できない。
元から、AOLはゲームじゃなくて、実在する異世界を観測する装置だった。
なら、今までNPCたちが決まった行動しかしなかった理由を説明できない。
ゲーム特有のバグだってあったし、追加要素によるゲームバランス調整のためのアップデートだってあった。
となると……サービス終了と同時に、AOLのデータを基に、新たな宇宙が生み出されて、俺の魂はそこに呑み込まれた?
「……」
顔を上げて、真剣にトレントへとマチェットを振り下ろすノエルを見つめた。
だとすると、この世界に暮らすNPCたちはどうなったんだ?
彼女たちは、プログラムされた存在だ。
紙にインクで印刷した、マンガのキャラと同じだ。
そこに、俺が一方的に感情移入していただけだ。
でも……今は……。
俺の中に、恐怖と期待がないまぜになった欲求が沸き起こり、心臓が高鳴った。
◆◆◆
それから三時間後。
周辺のモンスターを狩り尽くしてしまい、いくら待ってもモンスターが寄ってこなくなったため、俺らはレベリングを切り上げて、はじまりの街であるアマルカンドに戻っていた。
夕日に染まりながら、冒険者ギルドに続く大通りを二人で並んで歩く途中、ノエルは終始ご機嫌だった。
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