I(愛)の誕生

I(愛)の誕生(1)

 あの研究室の火事から、1年が経ち。信也は親友の紹介で、ゲーム会社に就職した。

 それから、あっという間に5年経ち。木村信也、28歳。現在、ゲーム会社の係長として働いている。

 以外にも信也は、ゲーム開発能力に向いていることがわかり。開発したゲームソフトも売れていた。

 信也は、大学で過剰な夜間作業が原因で居眠り、そして火事を引き起こした。そこで、今現在勤めているゲーム会社では、残業は極力減らすように働きかけ。この業界では残業は当たり前の所があるが、作業効率を上げる為にいろんなアイディアを出していた。


「木村係長、おはようございます」

「おはよう」

「流石、木村係長。相変わらずデバッグ処理が速いですね。いつものことですが、驚きますよ」


 デバッグとは、プログラムをテストし。バグ・欠陥がないかをチェック。修正、動作確認をやる作業のこと。


 信也は、デバッグ担当者がいるのにもかかわらず、開発者自らデバッグをし。1本のゲームを完成するまで、信也1人で行っている。1人で10人くらいの作業能力があると周りから言われ。役職はいらない、とにかくゲーム開発をしていたいと言っていたが。係長になり。それでもゲーム開発している。しかし、信也には苦手なゲームがあった。

 

「おはよう!」

「岩城課長、おはようございます」

「木村君。アクション系のこと何だが、やはりダメかね?」

「やはり、アクション系はやりたくないのですが」

「ゲームアイディアはずば抜けていいし。とにかく発想が素晴らしい。ファミリー向けのソフトは売上も順調だし、アクション系の開発に力を入れたいのだが、ダメか!?」


 信也の手がけるゲームは。主に、育成ゲーム、テーブルゲーム、ファミリー向けのゲームを担当している。しかし、アクション系だけは、開発を断り続け。

 その断る理由だが。小学3年生の時、ヒーローごっこをしていたら、誤って友達に怪我をさせてしまい。相手の友達は1週間の怪我を負い。親御さんの方も子供の遊びだからと言って大目に見てもらった。その友達もお互い様って感じで。今も親友として、たまに会い。この会社を紹介してくれたのも、その親友だった。

 信也としては、戦闘、格闘ゲームを見ると、怪我のことを思いだし。それがトラウマでアクション系のゲームは作りたくないと言う。

「申し訳ありません」

「確かに、気持ちわからないことではないだが、無理やり頼んで、嫌々ながらゲームを作っても面白いゲームはできないからな。わかった。この件はこれで終わりだ。悪かったな!?」

「いえ、申し訳ありません!」


 信也の働いているゲーム会社は、社員50人。スマホのゲームが主だが、信也の開発したパソコン用のゲームソフトは、スマホでも連動して使用でき。データをリンクしてやる方法が大人気だった。


 就業時間は午前9時から午後6時まで。基本、残業はなく。今日も定時に終わり、会社を出た信也。

 信也の住んでいる場所は、会社から車で30分の所にあり。車で通勤しているのだが、現在車検中で。本日、自動車整備工場から車検が終わったと連連絡があり。明日、車を取りに行くことになっている。2LDKのマンションに住み、1人暮らし。部屋は、寝室とパソコン部屋。彼女はいない。最近、引っ越しをしてから、心境の変化なのか、どうしても諦めきれない夢がある。それは、人工知能の研究。

 信也は、あの火事以来、今まで人工知能の研究から逃げていた。あの火事跡を見た時信也は、私に人工知能を作るなと言っているように見えた。しかし、もう一度自分と向き合い。夢だった人工知能を完成したい、研究を続けたい。そんな想いが込みあげ。やはり夢を諦めたくない、そう思った。


 翌日。信也は仕事が終わり、車検が終わった車を取に自動車整備工場へ急いでいる。本来なら代車を借りはずだったが、あいにく代車は全部貸し中。そこで、地下鉄を利用し、最寄りの駅に着きドアが開くと、スマホにメールが入り電車を降り、つい歩きスマホしてしまい、誰かにぶつかり、その反動で地面に倒れ、気を失い。気がつくと、病院のベッドの上。どうやら個室のようで、頭には包帯が巻かれ、少し頭に痛みを感じ。

 すると、そこに看護婦が入ってきた。

「木村さん、気かつきましたね。頭、痛みますか?」

「看護婦さん、私はどうしてここへ!?」

「気を失っていましたからね。詳しくは知りませんが、地下鉄のホームでスーツを着た男性とぶつかったそうですよ。それと、木村さんを知っている女性方が救急車に同乗していました」

「えっ!? 女性の方、ですか……?」

「木村さん、CTを撮りましたが、特に以上はありませんでした。しかし、念のために明日、精密検査を受けてください」

「……わかりました」

「あと、その女性から名刺を預かっています」

 看護婦は信也に名刺を渡し、その名刺には工藤希、情報処理第2課と書かれ。その女性の名に全く記憶がなく。

「木村さん、確認なんですが……このアタッシュケースは、木村さんのですか?」

「はい、そうです」

「わかりました。あと、スマホはそこのテーブルの上にありますので、もし何かありましたら、呼び出しボタンを押してください」

「わかりました」

 看護婦は病室を出て行き。信也は、名刺を見ながらもう一度この女性の名を思い出そうとしたが思い出せず、自動車整備工場に連絡すること、会社に連絡すること、考えていたら、少し頭が傷み、急に睡魔に襲われたかのように眠ってしまった。


 翌朝、病室のベッド目が覚めた信也は。昨日よりは頭の痛みもなく、精密検査を受け、特に問題もなく。頭の怪我は、少し傷が残る程度。退院は明日になり、会社と自動車整備工場に連絡し。会社の方では、信也からのメールの返信がなく、連絡も取れないと心配をし、自宅まで訪ねていた。岩城課長は事情を知りホッとし、仕事は来週の月曜日からでいいと言い。信也は病室に戻ると、そこには警察官2名が来ており、昨日のことで事情聴取を取りに来ていた。


 信也は、昨日ことを聞かれ、歩きスマホの件を話し、ぶつかった記憶がないと話すと。警察官の1人が、救急車に同乗した工藤の目撃証言を話し始め、それによると。

 おそらく、ぶつかった相手は急いでいて、アタッシュケース同士がぶつかり、その反動で信也は倒れてしまい。ぶつかった相手は、その場を逃げるように立ち去った。

 今回の事件は、歩きスマホが原因なのか、それともぶつかった相手が原因いなのか、逃げた相手を捜索中。なぜ、倒れた木村さんを置き去りにして逃げたのか。


 工藤とは面識はなく、人工知能の関係で知っており、あこがれていて。偶然、電車内で信也を見かけ、思い切って声をかけようか迷っている時に、その現場を目撃してしまった。

 突然のことで逃げて行く男性の顔はよく見ていなかった、むしろ信也の方に気を取られ、信也のことを心配し、救急車に同乗していた。事情聴取は10分ほどで終わり、警察官2人は病室を出た。


 しばらくして、信也の病室のドアをノックする音が聞こえ。

「失礼します」

 そこには、見知らぬスーツ姿の女性。

「お体、大丈夫ですか?」

 信也はベッドに横になっている。 

「すみません。どちら様でしょうか?」

「あっ、すみません。ご挨拶していませんでした。申し遅れました。私、工藤希と申します」

「あなたが工藤さんですか!? 警察の方から聞きました。いろいろとご迷惑をおかけしました」

「迷惑だなんて、それより、怪我の具合、大丈夫ですか?」

「精密検査も異常なく、明日には退院できます」

「そうですか。良かった、たいしたことがなくって」

「わざわざ病院まで来てもらって、ありがとうございます」

「いえ……でも驚きました。まさか、人工知能の研究をされていた木村さんだったとは……私、あの大学に行く予定でした。しかし、父親に反対されて……あっ、すみません、私、変なこと言いって」

「いえ」

「あれから、人工知能の研究はしていなですか?」

「研究はしていません……。でも、もう一度夢を諦めずに人工知能を完成させたいと思っています……。あの火事から逃げてはいけないって……」

「ごめんなさい。私……」

「謝らないでください、大丈夫です」

「……そうですか、それならいいですけど、すみませんでした。私、会社に戻らないといけないので、これで失礼致します」

「あの、何かお礼がしたいのですが?」

「お礼だなんて……そうだ。私、SEをやっていまして、プログラムの方がまだまだで、教えていただけるなんて、ダメですよね?」

「私でよければいいですよ。いつでも連絡してください。お教えしますので」

「えっ!? 本当にいいですか? 嬉しい。ありがとうございます。うちの会社には、女性のSEは3人しかいなくて、いろいろあって、助かります」

 信也は、自分の名刺を工藤に渡し。名刺を受取った工藤は、嬉しく。

「それでは私、これで失礼します」

「気をつけてお帰りください。ありがとうございました」

 工藤は病室を出た。

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