第290話 激突!終焉を呼ぶ三神

 ちょ……、超絶ちょうぜつ全能神ぜんのうしん……。これまたビックリするくらい超絶センスのないお名前ですわね。でもまあ、あいつのネーミングセンスが悪かろうと私のすることは変わりませんわ!


「ヒルダから離れなさい! 《火球》乱れ撃ち!」

「おっと、怖い怖い」


 敵の三機の魔導機――というか魔導機なのかすらわからない真っ白動物マシンに魔法を撃ちこみ、〈レーヴェルガー〉の側から散らす。私は即座に加速して力なく横たわる機体を回収完了。


「ヒルダ、大丈夫!?」

「レイナ……気をつけて……。あいつは半端な強さじゃ……」

「安心して。あなたはゆっくり休んでちょうだい。《治癒の光》よ」


 あまり得意な魔法じゃないけれど、応急処置はとりあえずよしと。火属性の魔法で体温も調整……これで大丈夫なはずだわ。


 私は広大なホールの片隅に〈レーヴェルガー〉を置いてヒルダを寝かせると、ハインリッヒに向き直った。


「いい加減あんたも年貢の納め時よ、ハインリッヒ!」

「随分と古風な言い回しだ。転生前の年齢が知れるね」

「女性に年齢の事を言うのはマナー違反でしてよ! 小鳥ちゃんたち《熱線》!」


 〈バーズユニット〉とのコンビネーションで仕掛けるけれど、簡単にかわされていしまう。


 ヒルダは前回の決戦で戦ったハインリッヒと遜色ない強さだと思うわ。その彼女を一方的にボコボコにするなんて、“神”を名乗るだけあるってことかしらね……。


 まだ来ていないけれど、他のみんなは大丈夫かしら?

 私一人でこいつの相手をってなったら辛いんですけど……。


「今度はこちらからいかせてもらおう。《トライビーム》!」

「《光の壁》よ――きゃあっ!?」


 三機のマシンから発射された三色のビームは、馬鹿みたいにそのままな名前なのに威力は馬鹿みたいに強くて、私の防御魔法は撃ち破られ激しくダメージを受ける。


「どうだい? これが天地人てんちじん――この世の全てを統べるようになった私の力だ。君の強さは確かに世界最高峰かもしれない。しかしそれも人間と言う小さな範疇での話だ」

「ご高説どうも。超絶全能神だなんてクソダサ称号名乗っていたけれど、あんた神様になりましたの?」

「いかにも。既に知っているかはしらないが、風の女神シュルツは死んだ。私が殺した」


 知ってはいたけれど、その事実を聞くと私の心に何か暗い重石がのしかかる。別に仲良しじゃなかった。別に尊敬もしてなかった。けれど――。


「残りの五柱もすぐに消し飛ばす。そうすれば私が三千世界さんぜんせかいの支配者だ」

「そんな世界ほんと願い下げですわ! 《火竜豪炎》、〈フレイムピアースドラゴンフレイム〉!」


 少なくともこいつが神様やってる世界なんて最の悪よ。

 私は腰から剣を引き抜くと、中央に見える虎型マシンに向かって斬りかかる。


「本当に血気盛んなお嬢様だ。変形フェアエンデルング!」

「――変形した!?」


 その剣が振り下ろされる瞬間、虎型のマシンが変形し、通常の魔導機のようになる。

 その魔導機は、私の渾身の一振りを両手で簡単に受け止め弾いた。


「そして――《エレメンタルナックル》!」

「なっ!?」


 高速の四連撃を叩き込まれて吹き飛ばされる。

 というか今のが四連撃とわかった私も、大概バトル脳に侵食されているわ。


「この機体、名を〈ゼウス〉という。そう言えば君たちは〈レト〉を回収していたね。あれはプロトタイプだよ。〈レト〉が光と闇、二つの属性の制御を行う機体だとすれば、こちらは残りの四属性を同時に操れる」


 なるほど。今のは火、水、地、風の四属性を瞬時に叩き込んだってわけね。どうりで防御魔法を仕込んだのに破られるはずだわ。


「そして――」


 ハインリッヒがパチンと指を鳴らした音が聞こえた気がした。

 それが合図だったのか、残る鳥とサメ型の機体も人型に変形する。


「〈オーディン〉に〈ブラフマー〉だ。それぞれ私の持てる技術の粋を結集した機体だよ。いかがかな?」

「いかがも何も〈ゼウス〉と虎は関係ないし、他の二つも姿と名前が関係ないでしょ」

「見た目は趣味、そして名前も趣味だ。趣味と趣味が合わさって最強だよ!」


 相変わらず厄介なロボオタね。そして中二病まっさかり。

 というか神話的にも別々ですし、絶対怒られるわよそれ。お客様の中にインド人かギリシャ人の方はいらっしゃいませんか? やらかしてる人がいまーす。


「さあ、早いがフィニッシュといこうか」


 まずい。正直ライザとの戦いで、私の無限とも思える魔力ですら結構消耗している。全力を出さないとあいつは倒せなかった。《紅蓮領域》を発動するのはちょっと無理ね。ああそれならどうやって!?


「〈オーディン〉よ《カオスマジック》! 〈ブラフマー〉よ《サウザンドソード》!」


 ツッコミ疲れるくらい直球な名前だ。

 けれどはっきり言って、見た目からして絶大な威力を感じる攻撃。


 〈オーディン〉と呼ばれた鳥型魔導機の方は空間が歪むほどの魔法を放とうとしているし、〈ブラフマー〉と呼ばれたサメ型は無数の剣を創り出してこちらに飛ばそうとしている。


 ――あ、これ無理ゲーくさい。


 いや待って。さっきライザに完封勝利決めた時のテンション吹き飛びそうなんですけど!? 防御魔法間に合わない!?


 魔法の閃光が、無数の剣が私に迫る。

 なんとか防御魔法を張ろうと試みるけれど、これだけの魔法と物理を合わせた質量。防げるか――。


「〈リューヌリュミエール〉全開! 《闇の壁》よ!」

「《絶対氷壁》!」

「《土壁城塞》!」


 私の前に闇属性の防壁が、水属性の氷壁が、地属性の土壁が作り出され敵の攻撃を防ぐ。

 ううん、それだけじゃないわ。“光速の貴公子”は背後にいたヒルダをさっと回収し、〈ストームロビン〉は私をかばう様に盾を構えて前に立つ。


「レイナ、無事ですか!?」

「ディラン! みんな!」


 みんなだ。ディランが、ルークが、ライナスが、パトリックが、エイミーが、リオが、そしてアリシアが――みんなが来てくれた。


「邪魔が入ったか。心理迷宮マインドラビリンスのトラウマに閉じ込めようと思ったが、時間稼ぎ程度にしかならなかったかようだね」

「レイナを失うよりも怖い事はありませんからね。あなたの野望もここまでです、ハインリッヒ!」


 心理迷宮……? 何か知りませんけれど、ハインリッヒがねちっこい嫌がらせをディラン達にしたのはわかるわ。もっとも、その程度の心理攻撃に動揺する彼らじゃないでしょうけれどね。オーホッホッホッ!


「ハインリッヒ、あなたの配下は全て討ち取りました! 覚悟してください!」

「主人公アリシア・アップトンか……。だがその戦いで君たちもボロボロのようだが?」

「くっ……!」


 悔しいけれどハインリッヒの言う通りみたいだ。みんな激戦をくぐり抜けてきたのか、少なからずダメージを受けているわ。でもこれで一対三だったのが一気に八対三。倍以上よ。


「数は有利だ、一気に決めるぞ! 《大地の巨腕・黒》!」

「《烈風烈弾》!」

「《獄炎火球》! 受けなさいハインリッヒ! これが私たちの怒りよ!」


 炎が、氷が、剣撃が、ハインリッヒの操る三機の魔導機を襲う。これが私たちの――いいえ世界の怒りだ。今度こそこいつを成仏させて、このマギキン世界に平和を……!


「フフフ、思ったより中々やるようだ。しかし私は神。この程度でやられはしないよ」

「そんな……!?」


 全く効いていない……ことはないと思う。けれど不可思議な壁に阻まれたわけでもない私たちの攻撃は、三機の魔導機に決定的な一撃を与えられていなかった。


「人の身でそれほどの力を手に入れたことを褒めてあげよう。特にエイミー・キャニング、君の発想は実に素晴らしい物だ。褒美に聖なる神の姿を見せてあげよう。三神融トリニテート合合体フュジオン!」


 その瞬間、ホール全体が赤青黄トリコロール三色の風に包まれた。

 ダメージはない、けれど近寄ることができない。これは――!


「エイミー! これってもしかして!?」

「たぶんそうですわ。〈グレートブレイズホーク〉の合体時の防壁。ハインリッヒはそれを解析して……!」


 やっぱりそういうことね。つまりこの三色の風の中で行われていることは……!

 やがて風がおさまり、その中から巨人がバーンっと姿を現した。


「三神一体! 〈ハイリヒハインリッヒ〉ッ! これが真なる世界の統率者である神聖なる神の姿だ!」


 現れたのは〈レーヴェカイザー〉クラス――いえ、それ以上に巨大な純白の魔導機だ。

 それにしても高貴なる自分自身ハイリヒハインリッヒって!


「デカくなろうがビビるかよっ! 《氷嵐》!」

「待ってルーク、みんな……!」


 ルークがフラグめいたことを叫びながら攻撃をしかけ、ディラン、パトリック、ライナスもチャンスと見たのか連携をかける。けれど――。


「まったく、身の程を知らないのだな。《世界を白に染める光ヴァールハイトリヒト》!」


 一瞬白く光った。それだけだった。けれど効果は絶大だった。


「みんな!」


 攻撃を仕掛けた四人は吹き飛ばされ、塔の壁も上層部ごと破壊。

 後に立つのは巨大な〈ハイリヒハインリッヒ〉だけだ。


「そんな……。大丈夫なの!? 返事をして!」

「ううっ……」

「なんて力だ……!」


 良かった。生きてはいるみたい。

 けれどマギキンのルートキャラ四人が、こんな木端こっぱのモブキャラみたいに吹き飛ばされるなんて……。なんなのこいつの強さは……?

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