第287話 後悔してももう遅い
「ハハハハハッ! 《爆炎弾MG》!」
一発でもかなりの火力でしょう火属性魔法を、ブルーノ操る〈ブラックホーク〉は雨霰とばらまいてくる。はっきり言って私たちが二人ということを鑑みても、相手の方が実力は高い。防御魔法を使う余裕も与えてはくれない。
「最初の威勢はどうした嬢ちゃん共? このままじゃ死ぬぜえ!」
「リオ、右前方!」
「了解! 《流水脚》!」
かわしきれない攻撃をリオが流水を足に纏わせて蹴り飛ばす。
「隙だらけって言ってんだよ! 《爆炎弾SG》オラアッ!」
「きゃあああ!?」
「くっ! エイミー!」
いつの間にかブルーノの接近を許していた。反応の良いリオはすんでのところで回避に成功するけれど、私は直撃を受けてしまう。かろうじて操縦席への至近弾は避けましたけれど、ガクンガクンと機体が揺れて頭がくらくらする。
やっぱり私は足手まといなんだ。リオはすごい。こんな相手でも物怖じしないで。さすがエンゼリアで生徒会長を務める器だ。
「前衛の嬢ちゃんはまだ見どころがあるな。足手まといは早めに見捨てた方が良いぜえ」
「黙れ! エイミーはそんなに弱い女じゃない!」
そうですわ。私は誰ですの? エイミー・キャニングよ。自分の殻に閉じこもるだけの弱い私はレイナ様と出会った日に置いてきた。レイナ様の友人として相応しくあるために、ただ前だけを見て進んできた。
「私は大丈夫ですわリオ」
「エイミー!」
「ブルーノ、あなたの〈ブラックホーク〉なる粗悪なコピー品を叩き潰さないといけませんからね」
「言ってくれるねえ。この機体、うちの大将――魔導機の生みの親のハインリッヒが造ったんだぜ? 戦って分かったと思うが、お嬢ちゃんが造った元々の機体よりも性能は上だ」
「そのようですわね。〈ブレイズホーク〉は元より、〈ブレイズホークV〉と比べてもパワーは120パーセント、スピードは130パーセント、魔力変換もよりロスが少ない設計のようですわ。……だけどそれだけ!」
「それだけ……?」
「そう! その機体にはこの私がレイナ様の為に込めた想いは存在しない!」
〈ブレイズホーク〉は私がレイナ様の為に造りだした剣。トラウト家の秘伝など多くの人の協力を得てやっと完成した美しき剣にして必勝の鎧。どこでコピーしたのかわかりませんけれど、そう簡単にマネできるものではありませんわ!
「ハハハ! 技術者が想いだなんて笑わせてくれるぜ!」
「笑いたければ笑うがいいですわ! 今からその証明をして差し上げます。《疾風弾》!」
「そんな魔法食らわねえよ――何ッ!?」
余裕ぶって回避していたブルーノに、私の魔法が直撃する。読み通りだ。
「時間差で二発の魔法を撃たせてもらいましたわ。分析は終わっていると先ほど申しましたけれど?」
「てめえっ! 《爆炎弾MG》!」
「もう動きは読めていると言いました! リオ!」
「わかった!」
何が魔導機の生みの親よ。そこに操縦者に対する愛はまるで感じませんわ。その致命的に抜け落ちた部分がある限り、“紅蓮の公爵令嬢”に見いだされた私の敵ではありませんの。
☆☆☆☆☆
「《疾風弾》!」
「クソッ! どうなってやがる!?」
すごい。さっきまでの防戦一方が嘘みたいだ。エイミーの魔法は面白いように〈ブラックホーク〉へと当たっている。
やっぱりエイミーはすごいな。若くして王国の魔導機研究のトップに躍り出たのは伊達じゃない。この戦闘の中で敵の能力を分析して、短時間で対策を練りだした。
「《爆炎弾LG》!」
「無駄ですわ、《風よ吹きすさべ》! 爆風の流れは制御しました! リオ、今のうちに接近を!」
「任された!」
爆風を縫うように、一気に接近する。はっきり言って私は考えることが苦手だ。だから自分よりも魔導機に詳しいエイミーの言うことを信じる。親友の言葉を信じて行動に移す。
「もらった! 《激流掌》ッ!」
「ぐはっ!?」
「私だってその黒焦げな機体にムカついてんだ。お嬢の猿真似の代償、高く払ってもらうよ!」
魔導機の事は正直詳しくない。けれどお嬢の〈ブレイズホーク〉を勝手にパクって勝手に乗り回しているのは気に食わない。
「《大渦落とし》ッ!」
〈ブラックホーク〉の腕を掴み、勢いよく投げる。ここは天も地もないわけのわからない空間だから、果て無く飛んでいき、なんとかといった具合でブルーノは体勢を立て直した。
「おイタが過ぎるぜえ、お嬢ちゃんたち……!」
「そのザマでその口がきけるのは逆に感心するね!」
「まったくですわ! リオ、最後は連携で!」
「わかった!」
自縄自縛に陥って、一人で悩むのなんてお嬢に出会ったその時に辞めた。私は自由だ。そして親友だって仲間だっている。
「行きますわよ〈ブリーズホーク〉! 必殺の一撃、《烈風烈弾》!」
「行くぜ〈ブレイブホーク〉! 必勝の乱撃、《乱流乱打》!」
連打連打連打。私の乱撃が敵を打つ。欲望に黒く染まった〈ブラックホーク〉のボディを打つ。その激流に晒される〈ブラックホーク〉の魔導コアを、エイミーの一撃が撃ち抜いた。
「く、くそ、魔導コアを撃ち抜かれちまうと俺の身体が……!」
「維持できませんか? やはりそうなのですね。神を騙っても所詮はその程度の存在!」
「お嬢の名誉、返させてもらったぜ!」
「ク、クソおおおおおおッ!!!」
漆黒の〈ブラックホーク〉は、断末魔と共に消え去った。これでいい、〈ブレイズホーク〉の伝説はお嬢と共にあるべきだ。あの最高の女にかなう奴なんていないのだから。
☆☆☆☆☆
「もらったあ!」
「きゃあ!?」
消えては現れ、現れは消える。ヴェロニカは次元を歪めて魔導機を隠しては出現し、二振りの剣で奇襲をかけてくる。離れればこれまた消える《影の矢》による追撃だ。
「アリシア・アップトン、ハインリッヒ様が警戒していたから構えて見れば、まさかこれほど脆弱な相手だとはな! そろそろ終わりにして、ご主人様の御前に貴様の亡骸を捧げよう。ていやっ!」
「《闇の壁》!」
「甘いッ!」
「くぅ……!」
剣による攻撃は防いだ。けれど消える《影の矢》を壁の内側に発生させられてダメージを受ける。
「次元を自在に移動する術、恐れ慄いたか? これぞ神の力。そしてご主人様より授かりし二振りの日本刀による二刀流。私と〈ペルセフォネ〉の前に敵はいない!」
「フフフ」
「何が可笑しいの? 気でも狂った?」
「ああ、いえごめんなさいです。狂っているかと聞かれたら、私は友人によく狂っていると言われるので最初からですね。貴女の攻撃、それで全部ですか?」
「だとしたらどうした?」
全部。これで全部かあ。私はお気に入りのお菓子をみんな食べてしまった気分になる。みんな食べてもまだ空腹。そんな感情。
「全部だったら随分しょぼいですね」
「なんだと!? 現に貴様は手も足も出ないではないか。今この二刀流の錆に――」
「二刀? 片腕なのにですか?」
「え――」
ずるりと、敵魔導機の右腕が落ちた。
「あなたが出現する次元に、細くて強い影の糸を張らせていただきました。ちょうどピアノ線のように」
「次元の穴を開き、私が飛び出すのは一瞬だぞ!? そんな馬鹿な!?」
「一瞬あれば十分ということです」
「そんなの人間には不可能よ! 《影の矢》よ!」
怒り狂ったヴェロニカさんは《影の矢》を放ち、今までと同じく消える。次元の狭間へと飛び込んだのだ。
「人間には不可能ですか……。私は“魔導さいぼーぐ”らしいですけれど、元でもできましたよ? それにその技も通用しません。〈リューヌリュミエール〉!」
「通用しないだと? 寝言を言うな! さあ行け――出現しない!?」
「だから言ったじゃないですかあ。もう既にこの空間は私の制御下にあります。本当は最初からできたんですけれど、勉強のために泳がせていたんです」
今の私の魔力はレイナ様に匹敵する。その私が魔力を操作する〈リューヌリュミエール〉を全開稼働すれば、《影の矢》程度なら自在に操れる。
「お、おのれえええっ!」
「野蛮ですね。《影よ縛れ》!」
残り一本の剣――ニホントウですっけ?――をもって突撃してきたヴェロニカを縛る。そして彼女の魔導機〈ペルセフォネ〉の操縦席のカバーを引っぺがした。
「あら……、この姿は……!」
「どうだ驚いたか? この身体こそご主人様から授かった神の身体だ。精霊と同じ魔力の塊は不滅よ!」
ヴェロニカの身体は生身じゃなかった。紫色の燃える炎の様な魔力の塊。それが彼女の身体。
「ウフフ、ちょうど良かったです。《魔力奪取》!」
「な、なんだ……!?」
「これでもう動けませんね。時間はありませんけれど、あなたに聞くことがあります」
「舐めるな! このヴェロニカ、口は割らないぞ!」
「ああいえ、そういうことじゃないんです。今から私達って、あなたの言うご主人様であるハインリッヒをどうにかしないといけないじゃないですかあ? その時なるべく痛く後悔するような方法をとりたいから、あなたで実験させてくださいね?」
「え――」
本当によかった。ヴェロニカの身体を使って、何が有効で何が有効ではないのか、しっかり試しておかないと。
「さあ、切り刻み、すり潰し、あなたの身体に聞いてみますね? 痛みとかあるんですか? 不滅ならいくらでも実験できますね」
「や、やめて……ゆ、許し――」
「ダメですよ。本当の悪というものを教えてあげます」
泣いて謝っても許してはいけない。良いことを聞きました。さすがは女神様。
ウフフ、本当に楽しい。
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