第228話 魑魅魍魎の運動会ですわ?
「えーっと、魔力を絞って……《
私の肩の上に、ソフトボール大の光の玉が浮かぶ。光属性の魔法《灯火》だ。
「ねえサリア。ここは学院の地下……、で間違いないのよね?」
「だと思います。確か以前読んだ学院史によると、城の北側は古い区画をそのまま使っていたはずです。そちらから上がれるんじゃないでしょうか? 北は……転がって来た方向からしてこちらだと思います」
「さすがサリア。じゃあそちらを目指しましょうか。トラップには気をつけてね」
さすがは勤勉なサリア。私なんて学院史なんてものがあるのも知らなかったわ。いちマギキンファンとして設定が気になるし、今度読んでおきましょう。
「はい! 頼りにしていますレイナ様!」
「ウヒヒ、私もよサリア」
最初は単なる噂話かと思った。けれど夜目の効くアリシアが何かいると言った。あの子はつまらない嘘をつく子じゃないし、ヒステリーを起こして見間違ったということもないと思う。
つまりこの学院には私たち以外の何かが間違いなくいるわ。なぜか稼働した城のトラップもそうだし、気になることは多いわね。早くみんなを探して脱出しないと。
「もうずいぶんと使われていない区画のようですね」
サリアが石造りの壁をなでながら言う。確かに蜘蛛の巣も張っているしどこかから漏れ出た水も流れているしで、華やかな地上部分とはまるで違う。
「待って、何かくるわ!」
前方に二つの影が蠢く。先に落ちたリオとアリシア? いえ……あの影はもっと小さくて、人型じゃない。二つの影はこちらに気がついたのか飛び掛かり、《灯火》の明かりに照らされ――。
「襲ってきた!? 威力を絞って――《熱線》!」
私は素早く、威力を絞って二本の《熱線》を放つ。貫かれた二つの影は、ドサッと通路に落ちた。
「なんですかこいつら!? 噂のパラソルとランプの化け物!?」
サリアが悲鳴を上げる。そう、二つの影の正体はパラソルとランプに一つ目がついた何か――私のよく知る言葉で言うと、唐傘お化けと提灯お化けだ。
つまりは
マギキンの世界には、ドラゴンだとかスライムだとかは存在しない――少なくとも、ゲーム中に出てくることはない。せいぜいルークルートの邪悪な魔法の巨人くらいよ。それが洋風なモンスターどころか日本の妖怪? いったいなんなのよ!? うわーん、せかいかーん!!!
☆☆☆☆☆
「なあアリシア」
「なんですかリオ?」
今私たちがいるのは恐らくエンゼリアの地下。暗闇の中を魔法で明るくして進みながら、隣を歩くリオが問いかけてきた。エイミーとフランクな関係になったのもそうだけれど、あれからすぐに社交的なリオともそういう関係になった。今では対等なお友達だ。
「卒業したらお嬢のメイドになるんだったよね?」
「そうですよ。レイナ様の御付きのメイド。クラリスさんの後任です」
ああ、早く卒業するのが待ち遠しい。今年の秋からは私はレイナ様とおはようからお休みまで一緒に……! 嗚呼レイナ様レイナ様レイナ様レイナ様レイナ様レイナ様レイナ様。
「改めて言うのもなんだけどさ、お嬢の事をよろしく頼むよ」
「レイナ様を……ですか?」
「うん。あれでお嬢は抜けているところがあるからね。それにやたら一人で責任を背負いたがるし。今もたぶん……私たちの事を探そうと一生懸命にがんばっていると思う」
それは……、そうだと思う。レイナ様は何かが起こるとすぐに一人で背負いこみたがるきらいがある。例えばそう、まるで私たちをずっと年下の守るべき対象と見ている様な……。
「だからさ、頼むよアリシア。青春の時間は終わりつつある。卒業すると、私やエイミーは中々お嬢に会えなくなると思う。誰かがお嬢の苦しみに気がついてやらないといけない」
「フフ、任せてください! 私がずーっとレイナ様を見ていますから!」
エイミーもリオも卒業後はきっと自分の力を活かして活躍するに違いない。それはレイナ様もだ。だから私は見守っていく。気高く美しいレイナ様を。それが大切な友人の頼みとあればなおさらですよね? 私の優先順位のトップ100は全てレイナ様ですけど、お友達は大切にするタイプです。
「あーあ、そんな残り少ない青春を楽しむために肝試しに誘ったら、まさかこんなことになるなんてなー」
「落ち込まないで、リオ」
「ありがとなアリシア――ん? 何かいるね……」
リオの警告を受けて、私は手に魔力を込める。私の魔力感にも反応がある。これは……どこか私がもっている古い本と同じような波動……。
けれど私は早くレイナ様とお会いしたいのだ。それを阻む者を私は――!
☆☆☆☆☆
「《雷撃》、《氷結》」
私――クラリスの魔法を受けた化け物が、廊下に落ちる。まったく、レイナ様たちをお探しに行かねばならないのに。この何とも言えない珍妙な化け物の群れはなんなのか。
「エイミー様、大丈夫でしょうか?」
「お化け怖いお化け怖い……」
エイミー様は相変わらずぶるぶると震えていらっしゃる。とりあえずは大丈夫でしょう。
「おや、まだ来ますか?」
幸いにして私とエイミー様は落下を免れたが、そのご出現した広いエンゼリアの廊下を埋め尽くすほどの化け物を前に、助けなどを呼べないでいる。ふと外に目をやれば、魔導機程の大きさの骸骨の化け物や顔のついた燃える馬車の車輪が宙を舞い、伝統の学び舎を我が物顔で暴れまわる。
「まったく、この私を舐めないでいただきたいものですね。レンドーン公爵家、レイナ様側付きのメイドが化け物ごときにひるむとでも? そして何より私は教会の孤児院育ち。聖プーホルス孤児院出身者として、悪霊ごときに後れをとるわけには参りません。悪霊退散!」
メイドが化け物に負けるだろうか、いやない。
☆☆☆☆☆
「とりゃああー! 《火球》!」
私は群がる魑魅魍魎どもをまとめて焼き払う。ちょっとジャンル違ってきてない? これって安倍晴明さんとかの担当じゃないの? 言うなれば「オンミョー☆キングダム~恋する陰陽師~」? うん、別シリーズだコレ。
「なんとか地上に出られましたね。でもなんか増えて来てないですか、この化け物たち?」
釣り天井やら槍衾やらインディーなゴロゴロ大岩やらの正月トラップ祭りを堪能した私たちは、なんとか地上に出た。それにしてもサリアの言う通りだ。なんかどんどんジャパニーズ妖怪の数が増えてきているわ。やっぱり運動会でもしているのかしら?
「ねえサリア、ここがどこかわかる?」
「えーっと、学院の北側……たぶん
「北の塔ねえ……ん?」
この摩訶不思議な妖怪大運動会な現状。そして北の塔。ある事が私の中で一つに繋がった。
「サリア、上の階に行くわよ!」
目的地はそう、北の塔の図書館よ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます