第227話 新年といえば肝試しですわ?
伝説の満月の夜に逆ハーかました。珍しく前世知識で無双した。箇条書きマジックするといつの間にか私TUEEEな世界観になったかと勘違いするようなドタバタで年末は過ぎ去り、年が明けた。皆様、明けましておめでとうございます。
現実の私? 私TUEEEどころか冬休みの課題で四苦八苦ですわ。クラリスのおかげで学年首位を取れたけれど、そこは名門エンゼリア。課題の質も量も段違いな死のロード。まさに裸一貫で冬の海に飛び込むが如し厳しさよ。
「お嬢様、サイス・レンドーン家の皆さまがご到着されました」
「わかったわクラリス。すぐに行くわ。それと課題で分からなかったところがあったから、後で答えを教えてちょうだい」
「わかりました。解き方をお教えしえさせていただきます」
ちぃ!
☆☆☆☆☆
このグッドウィン王国――というより、この世界では前世日本ほどには新年のお祝いをしない。文化の違いね。けれど私のお家は大貴族だから、傘下の貴族の方々や一族の方々が挨拶に来られる。あとは領民の皆さんにも顔出しをするわ。
「叔父様! ルビー、ルイ! 今年もよろしくお願いいたしますわ」
「こちらこそレイナ。月下の舞踏会の夜はまた随分な活躍だったみたいだね。ルビーもルイもまた助けられたようだ。改めてお礼を言わせてほしい」
「ウヒヒ、みんなが無事ならお礼なんていいのです」
実際逃がしてしまった点でモニャるし、〈ブレイズホークV〉の召喚も一発賭けてみて成功できた感じなので、お礼を言われるほどじゃないと思う。
「お姉様の活躍ほんとすごかったですわ! 私なんて思わず持って来た剣を振るのを止めて、見とれてしまいましたもの!」
待ってルビー、舞踏会には剣はいらないはずよ……? 確かに振っていたけれど、あれ持ってきていたのね……。
「うん、レイナお姉様の活躍すごかったです。敵の魔導機も興味深いものでしたので、思わず持って来た本を読むのを忘れるほどでした!」
待ってルイ、舞踏会には本もいらないはずよ……? 襲撃の前も見ないと思ったら、この二人はいつも通りに過ごしていたわけね……。私が言うのもなんだけれど破天荒ですこと。
「あー! 私にも専用魔導機があれば戦えましたのに!」
「姉さん、あの敵は手練れだったから、仮に僕らが出てもレイナお姉様やパトリック様の足手まといになるだけだったよ」
「そんなことないですことよー!」
ルビーとルイは大貴族出身者相応に魔法の才能がある。実際、先日の期末テストでも一年生の中ではずば抜けた成績を収めていたわ。内戦の時に二人と戦ったルークだって、センスや魔力は悪くないと言っていたし。そう考えると二人がもし専用の魔導機を手にすれば……おっと、いつの間にか私までロボットワールド脳だわ。自重自重っと。
「あんまり危ないことに首を突っ込むのはおよしなさい。私は二人を守れて良かったわ」
「はーい、お姉様……」
「はい、お姉様」
☆☆☆☆☆
明けて翌日。新年二日目のこの日も、朝から来客の対応に追われていた。そんなバタバタとした空気がひと段落を迎えた時、彼女がやって来た。
「あれ? リオ……?」
「今年もよろしく、お嬢」
いつも通り動き易そうな服装のリオだ。一応傘下貴族だけれど、領地が遠いから挨拶はいつも遅めなのよね。お父様もそういうの別に気にしないし、来てくれたのは嬉しいけれど、疑問の方が先に出た。
「えーっと、お父様は書斎にいるわよ。あれ? ミドルトン男爵は?」
「今日は一人だ。新年の挨拶もあるけど、今日はお嬢に用があって来た」
「私に……?」
なんだろう? なんか遊びに行くとは違う雰囲気。いつものリオの雰囲気と違って、若干シリアスなような……?
「私と一緒に来てほしい」
「どこに?」
「エンゼリア王立魔法学院だ」
☆☆☆☆☆
これは冬休み前の話だ。ある生徒が、用事があって夜のエンゼリアの校内を歩いていると、何か影を見かけた。恐る恐る通路の先を見て見ると、何かランプや傘の様な物が宙にが浮いていた!
きっと幽霊だ。恐ろしくなって足がすくんだ生徒の耳に聞こえてきたのは、「ヨコセ……、オマエノカラダヲヨコセ……」という呪詛の声。生徒はもう無我夢中で一目散に逃亡。幸い無事に寮へと帰り着いたそうだ。
「典型的な怪談ですわねえ……。単なる噂話じゃありませんの?」
「そういうわけじゃないみたいなんだよね。その後夜間警備員の人や、教員の中にも見た人がいるって話なんだ。それで生徒会に調査の依頼が回って来たってわけ」
「なるほど……え? というかそれならリオ達の仕事じゃないの。副会長とか書記さんとか、生徒会メンバーに頑張ってもらいなさいよ!?」
「ふふふっ、それは……! 生徒会長の私!」
バンっとポーズをとるリオ。
「科学的な解明アプローチができるエイミー!」
「お、お化けなんて非ィ科学的ですわ……」
がくがく震えるエイミー。
「夜目が効くアリシア!」
「私はお休みにレイナ様とお会いできて嬉しいです!」
夜の学校という不気味な雰囲気すら消し飛ばすヒロインオーラのアリシア。
「なんか暇そうだったサリア!」
「なんか暇そうだった!?」
アリシアがサリアの家にいたので、ついでに連れてこられたらしいサリア。
「お嬢を呼んだらついて来てくれたクラリス!」
「お足元が暗いので、皆さまお気を付けくださいませ」
カンテラを持って先頭に立つクラリスが一礼して答える。
「そして、どんな幽霊も吹き飛ばす火力のお嬢! 本気を出せばどんな敵が出ても勝てる!」
「私が本気を出すと学校ごと吹き飛んじゃうわよ……」
「これが私の集めた対幽霊最強メンバーだ!!!」
迂闊だった。リオが少しアホの子寄りということを失念していたわ……。何が楽しくて新年早々夜の学院で肝試し大会なのかしら。いえ、みんなと集まるのは楽しいんだけれど。というか寒い。冬だし。
「ねえリオ、最強メンバーから早くも脱落者だしそうだけど良いの?」
「お化け怖いお化け怖いお化け怖い……」
私は傍らで震えているエイミーを指さす。そう言えばホラー苦手だったわね。
「大丈夫! エイミーならやれるって私は信じてるよ!」
出たぞ体育会系特有の根拠の無い信頼。ここがスポーツ漫画の世界だったらいけたかもしれないわ。
「お化け怖いお化け怖いお化け怖い……」
無理っぽい。ライナスー、エイミーの弱点ここに転がっているわよー!
「いざ、エンゼリア幽霊撃退女子部隊出発!」
こうして夜の学院を舞台にした、女子六人の肝試しが始まった。
☆☆☆☆☆
「それにしても、不気味ね……」
エンゼリア王立魔法学院は広大な古城を再利用された建物だ。昼間歩くと格式高くゴージャスに感じる学院があら不思議、夜歩くと途端に激怖ホラースポットに早変わり。そう言えば二年生の時、禁書のありかを調べるために侵入したわね。あの時を考えればまだみんながいるだけマシかしら?
「レ、レイナ様……、先日の月下の舞踏会でレイナ様が行使した〈ブレイズホーク〉を呼び出す魔法ですが……」
「エイミー、そんなぶるぶる震えながら無理に喋らなくていいのよ?」
「いえ、話をしていたら気が紛れるので……。あ、あれはどういった魔法だったのでしょうか?」
うーん、どういった魔法と言われてもねえ……? あれはおとぼけ女神の不思議死後空間でやったことを、イチかバチかで再現してみただけだ。やった時は不思議とできるという自信があったけれど、言葉では説明できないわ。
「しいて言えば
「召喚魔法……?」
エイミーはきょとんとする。この世界に召喚魔法は存在しない。召喚獣を出して戦わせたり、武器を召喚して使ったりは出来ないのだ。それっぽいことができる魔法もあるけれど、召喚魔法という魔法体系は存在しない。
「概念的にはわかるのよねえ……。一度マッドン先生に聞いてみようかしら?」
もしかしたら世紀の大発見かもね。
「あ、あそこ! 何か動きました!」
「ヒィッ!?」
アリシアが叫び、エイミーが縮こまる。
「確かなの? ネズミとかじゃなくて?」
「ネズミさんじゃありません。もっと大きなものでした」
夜目の効くアリシアが言うなら確かね。本当に何かこの学院にいるのかしら?
「よし! 確保だ!」
リオが駆け出し、夜目の効くアリシアがそれに続く。
「ちょっと、危ないわよ! ――あれ?」
視界から突然二人が消えた。あれは……落とし穴!?
「お嬢様、上です!」
「――え!?」
クラリスの言葉で上を見る。すると天井が落ちてきてる!? これは……釣り天井? エンゼリアは古城だ。防衛システムのいくつかはそのまま残してある。それが今発動した? 偶然に?
「サリア、こっち! うわっ!?」
間一髪、サリアを連れて逃げる。するとそのまま新しく空いた落とし穴にストン。そのままぐるぐると滑り台のように滑り続けて、見知らぬところに出た。
「いてて……。サリア、大丈夫?」
「はいレイナ様、ありがとうございます」
ここは……たぶん学院の地下ね。みんなとはぐれてしまったわ。
「助けを待つのが得策……だけど、ここはみんなを探しましょうか」
「そうですね。それがいいと思います」
私とサリアは、不気味なエンゼリアの地下の闇へと足を進めた。
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