第219話 お嬢様は宴を楽しむ
今日も今日とてパーティーナイト。前世が令和の日本人の私からしたら信じられない頻度ね。今宵の会場はレンドーン公爵領、領主の館。つまるところ私のお家。引くくらいだだっ広い私の実家だ。
集まったのはレンドーン家一門の皆々様。例の襲撃事件に始まって今回の反乱騒動まで、一族総出でトラブルに巻き込まれ続けた。そんな彼ら彼女らと共に祝勝会……というわけではないけれど、まあお疲れ様会みたいなものよ。
「レイナ、改めてよく頑張ってくれた。友人と剣を交えることになって、辛い思いもさせただろうね……」
「いいえお父様、気になさらないでください。お互いに仕方のなかったことだと思っていますわ」
その話は先日済みましたし、むしろ一番ド派手な魔法ぶっ放しましたし、そういうウジウジ路線でやっておりませんので。
結果的に私が放った《紅蓮の太陽砲》一発によって、レンドーン領への侵攻は止まった。すごい。やっぱり火力こそが最も素晴らしい解決手段だ。それに犠牲者が出なかったことも確認している。良かった。
「敵の一部を逃したことが心残りです……」
「そう思い悩む必要は無いよ。これから王国は、より強固な結束をもって不穏分子に対処していく。もう好きにはさせないさ」
逃げ去った紺色の魔導機、及びブルーノと推定ルシアの行方はいまだ知れずだ。けれどグレートグッドウィン島と大陸の間、トランサナ海峡を渡った魔導機は確認されていない。通行する商業船もチェック済みだ。新国王であるグレアム様の命令で厳しく臨検を行っているので、賄賂を使ったすり抜けもないはず。
つまり禁術である転移系の魔法を使わない限り、国外脱出は不可能よね? その転移の類も、ルークのお爺様であるマーティン様が監視しているというし……。
「レイナさん。天下に野心がなくても、女は化粧を忘れてはダメよ」
「はい、お母様」
別に勢力を拡大したいわけではない。権力を掌握したいわけじゃない。今回の一件で身に染みたけれど、自分はそう思っていても他人の謀略によって陥れられることは多々ある。だからいつも自己防衛という名の策略は張り巡らせなければならない。お貴族的な意味のバッドエンド回避ってことね。
つまりお母様の言いたいことは、旦那に野心がなくても妻はしっかりお茶会などを通して他家に牽制をいれるなりしとけってことよね。でもお母様、やりすぎても破滅がまっていますから気をつけてくださいね?
「レイナ、流石の活躍だったようだな」
「ウヒヒ、ありがとうございますテオドーラお姉様」
女傑、テオドーラ・レンドーンお姉様は自ら最前線に立って、数は不利ながらもラステラ伯軍と激戦を繰り広げ、レンドーン領の後方をよく守られたそうだ。
「お姉様が後方を守ってくださったからこそ、私は安心して役目を果たすことができたのです。兵たちが噂していましたよ。テオドーラ様はまるで戦女神のようだと」
他には「やたらスカート短いよなあの人」とか言っていたのも聞いた。年の割にという言葉がカッコつきでついてそうではある。
「そ、そうか? 照れるな……」
こうやって照れる姿は可愛らしいのに、なぜ良い相手がおられないのか。ここは恋愛(ゲーム)マスターの私がお礼に一肌脱ぐ機会かもね。
彼女を始め、レンドーンの一族は良く戦い、よく守った。それも禍根を残さないよう、なるべく敵兵を殺さずようにという条件付きでだ。
南方ではアレクサンダー・アデル将軍率いる無敵の騎士団を、ハンフリー・レンドーン様がのらりくらりとかわしたという。北方を守っていたのはレオナルド叔父様だけど実際に戦いはおこらず、マッドン先生とマーティン様の超級魔法合戦を花火の様に見物していただけらしい。
「レイナお姉様!」
「あら、ルビーにルイ。聞いたわよ。あなたたちルークに手も足も出なかったんですってね」
二人には時間稼ぎをがんばってもらったけれど、ものの見事にルークに抑え込まれたと聞いたわ。というかドヤ顔のルーク本人から聞いたんですけれどね。ま、私は以前ルークとの模擬戦で勝ちましたから。私は勝ちましたから。大事な事なので二度言いました。
「私たちだって専用機があれば勝てていましたわ! ねえルイ!」
「僕はもう少し謙虚に結果を受け止めた方がいいと思うけど……」
良くも悪くも負けず嫌いのルビー。良くも悪くも客観的というか冷めているルイ。相変わらず対照的な兄妹よね。
そう言えば、以前二人が奪った通称〈ツーヘッド〉とかいう魔導機についてエイミーが何か言っていたわね。本来つけられていたであろう正式名称は〈レト〉。なんでも二つの機能を無理やり一機に集約しているから、二つに分けたら上手くいきそうだとかなんとか。
名前が〈レト〉で二つに分けると言ったらこれは……。やっぱり最近湧いて出てくる強力な機体の裏には、私と同郷の方がいらっしゃるみたいですわね。
「そう言えば噂には聞いていましたけれど、あのアリシアとかいう平民なかなかやりますわね!」
「あら、アリシアに会ったの?」
「はい。アリシアさんはこの前の即位記念パーティーでも、僕達がレイナ様に良く似ていると嬉しそうに話しておられました」
なるほどねー。原作だとわずか数行の存在にすぎない二人も、ヒロインであるアリシアと接触したのか。やっぱりマギキン本編終了後ですし、何が起こるかわかりませんわね。
「私とお姉様が似ているなんて、アリシアは中々見どころのある平民――
自分より身分が下の者を軽んじたり、年上を呼び捨てにしたらバッドエンド一直線だ。ここは私が責任をもって教育しましょう。とりあえず今日はほっぺをビヨンビヨン引っ張るだけで勘弁してあげますわ。
☆☆☆☆☆
「はー、今日もお料理が美味しかった」
今日の料理もバッチリ美味しかった。さすがはレンドーン家の料理人。一族のみんなが無事で安心したし、ひとまず紺色の魔導機の事は横に置いて、今晩はいい夢が見られそうだわ。
お腹いっぱいの私は、ベッドインするとあっという間に夢の中。さあ、夢の中でくらい甘々いちゃいちゃな感じでお願いするわよ~。
「……で、なんであんたがいんの? タイミング考えなさいよ」
私の目の前には例によっておとぼけ女神。たぶんここは私の夢の中。お告げというやつだ。
『なによぉ~、せっかく私が来てあげたのに~』
「私はマギキンにない謀反イベントを終えて疲れてるのよ。いい夢を見て癒されたいの!」
『本当にマギキンにはなかったイベントなのぉ~?』
「はあ、あんた何言って――」
『あなた言っていたじゃな~い。レイナ・レンドーンはあらゆるルートで立ち塞がる完全無欠の悪役令嬢だって』
そんなの言われなくても知っている。だから私は死の運命を前に七転八倒四苦八苦したうえ、一回死んでこの世界に帰って来た。
『あなたの知るレイナは、ちんけな嫌がらせで死の運命を迎えたのぉ~?』
「それは……」
ルークルートでのレイナは、邪悪な魔法で暴走した。謀反だ。ライナスルートでのレイナは、伝統のエンゼリアに放火した。かなりグレーだ。パトリックルートでのレイナは、私兵を使って大暴れした。謀反だ。そしてディランルートでのレイナは、とち狂ってアリシアごとディランを襲う。言い逃れのできない謀反だ。
――そういうことだ。
私としたことが失念していた。
「私は……、私は死の運命からまだ逃れられていないの……?」
『それは神である私にすらわかりません。ですがレイナ・レンドーン、人の運命とは複雑に絡み合った糸の様なものです。結び目をほどくこともできれば、また新たな結び目ができる可能性もある』
冗談じゃないわ! そんなポンポン死んでたまるもんですか。
「――あ、そうだ。ファンディスク!」
『そうそう。今回はその情報を持ってきてあげたのよぉ~。なのにあなたときたら……』
「ははー、申し訳ございません女神様ー」
『棒読みねえ。まあいいわ。先日行われた第二回公式生放送、そこで明かされた情報は……!』
「情報は……?」
『新キャラ三人のうち二人は前作キャラの血縁! そして残りの一人は外国からの転校生!』
おおっ、これは有力な情報だ。前作キャラの血縁……例えばグレアム殿下なんかは、本編にもちょい役で出てきたし可能性高いんじゃないかしら?
外国からの転校生……。知り合いで思い当たるのは十六人衆のヴィム君とか? それともアスレス王国のどなたかとか? あ、この前アリシアと話していた、イケメンのロマンさんも怪しいわ!
『まあ、これで反省したのなら次からは私を丁重にもてなしなさ~い』
「うーん、考慮しておくわ。他に何か情報はないの?」
このおとぼけ女神に素直に頭を下げるのは、なんか負けた気がする。そもそも私がレイナとして四苦八苦しているのは、この女神のせいだし。
『そうねえ~、なんか最近魂の総量が合わないのよねえ……』
「それってどういう意味?」
『死んだ人間と、癒すべき魂の数が合わないのよぉ~。まあ微量だから世界に影響ないし、私の気のせいかもしれないけど……』
「……それって私に関係ある案件?」
『いいえ、ないけど』
ただの神様的世間話かい!
「他の神様がちょろまかしてんじゃないの?」
『それはないわ~。神様界には人間世界で言う
「たぶんって。外交特権って、あの外交官は拘束されないとか荷物をチェックされないとかいうやつだっけ?」
『そうよぉ~。良く勉強しているわね~』
そりゃどうも。前世でも耳にしたし、今世でもある制度なのよね。
『前も言ったけれど、一応管理世界の掟はあるんだけどねえ~』
ちょっとだけ神様界の労働環境が気になる。
「まあ頑張って。礼は言っておくわ、ありがとう。それじゃあまた何かわかったら教えなさい」
『はいはい、それじゃあ~お休みグッナイ~』
相変わらず威厳のない女神ですこと。けれど新しい攻略対象の情報は手に入った。そしてゴタゴタは終わったし、エンゼリアに戻らないと。やっと落ち着いて学園生活をおくれるかしら?
☆☆☆☆☆
「いやあ悪いね旦那。助けてもらっちゃってさ」
「軽口を叩くなブルーノ。貴様は金をもらっただけの仕事をしろ」
「へいへいっと」
手品染みた魔導機戦の強さはともかく、相変わらずつれないお人だことで。いやしかし、あの“紅蓮の公爵令嬢”ともう一人のコンビには参った参った。さすがは俺の前雇い主を殺しただけはあるか?
「なあ嬢ちゃん、久しぶりだな」
「黙れ。私はお前なんて知らない」
あらら? この“黒仮面の騎士”とか呼ばれているの、ルシアとかいうガキだよなあ? 仮面を被った私は以前とは違うってやつか? まあ、若い時はいろいろあるさ。
「陛下、ただいま戻りました」
「…………よくぞ戻った」
今回の雇い主は、外面はともかくそれはもう不気味な奴だ。何考えてんのかわかんねえ。ま、金が貰えりゃいいけどよ。
「ブルーノ、汝らしからぬ失態だな」
「申し訳ありません。次は敵の喉笛を食いちぎってみせますよ」
「黒仮面の騎士よ、わらわに従えば汝の復讐必ずや遂げられよう」
「はっ、ありがたき幸せ」
仮面の下から聞こえるのは少女の声。そして俺達に話すのはおどろおどろしい声の雇い主。
「
「……確かに生命力がみなぎる。だが、右腕だけでは足りぬ……」
右腕。右腕ねえ……? 酒は好きだがあれは飲みたくないね。
「神は……、水の女神エリア様はわらわに囁いておる。奴の……、レイナ・レンドーンの魂を捧げよ、さすれば望みは叶うと!」
忠義、復讐、そして金。三者三様だが果たすべきは同じ。さあ、楽しいパーティーはこれからだ!
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