第8章 Rival~激突~

第220話 トップオブエンゼリア

 はーい! 皆様ごきげんよう! わたくし、か弱くていつも可愛いレイナ・レンドーンですわ。ウヒヒ。というわけで前回までのあらすじ!


 なんかディランのパピーによくわからない理由で攻められてもう大変! レイナもエンゼリアからあわあわっと逃避行! けれど推したちと敵味方にわかれてレイナしくしく。まじぴえん。でも友達も助けに来てくれたし、レイナもみんなのためにがんばるもん。がんばりすぎてクレーター製造マシーンになっちゃいました。てへ。


 なんだかんだでルークのお家が味方になって、レイナは王都に向かったのです。そしたらグレアム殿下まで味方になってまじびっくり! 黒幕追跡してたら懐かしの十六人衆が現れてまたびっくり! そこにやばかわヒロインことアリシアまで駆けつけて三度びっくり!


 びっくりし尽くしたと思ったところにルシアと謎紺色まで現れてレイナやばば。でもアリシアとの新しい合体で切り抜けたのでした! でも張り切り過ぎて気絶しちゃったから、敵を逃がしたのは残念。てへ。まあともかく疑いは晴れて、グレアム殿下が新しい王様となったのでした! まる!


 だいたいこんな感じでわかるでしょ? え? わからない? わかるわからない以前に、前世でアラサーまで生きた女の言動じゃない? はあー。女の子はいつまでも夢見る少女よ? だから私も夢見る少女です。だから私も夢見る少女です。大事な事なので二度言いました。


 諸悪の根源こじらせロボヲタことハインリッヒを叩きのめしたのが初夏の話。私がいろいろ異世界ぐるりと巡って、奇跡の生還を遂げたのが夏真っ盛り。レンドーン一族襲撃事件が起きたり、ルビーとルイが誘拐されたのが晩夏。そんで右腕もがれたり、内戦騒動が起きたりなのが秋。


 まあこんなところね。そんな波乱万丈な秋も過ぎ去っていき、私はエンゼリアへと戻って来た。つまり季節は進んで冬。冬には何があるか?決まっているわ。期末テストよ――。


「さあて、ちゃんと順位をキープできているかしらね?」


 不思議なことに、つい先日まで王国に敵対する裏切りもの扱いだった私にも期末テストというものはやってきた。


 エンゼリアでの学籍も一度除名処分にでもなったかというとそうではなく、内戦の混乱が治まると私はすぐに学院へと復帰できたわ。部屋に置きっぱなしだった荷物もそのままだった。もちろん、他のレンドーン家に与したお家の子たちもだ。


 王都の戦勝記念館に飾られていたライナス作私の巨大肖像画も、処分されるわけでもなく取り外されていただけって聞くし、そこらへん前王ことディランパパが悩んでいた証明かしらね?


 まあとにもかくにも、学院に復帰した私には期末テストが待っていた。私は待っていなかったけれど、これも麗しの学院生活の一部だしちゃんと受けたわ。それで今日は結果発表。個人情報の保護だとか配慮だとかだった前世日本と違って、このエンゼリアではテスト結果の詳細がドバーっと張り出される。


 当然自分の成績を確認するために毎度黒山の人だかりなわけだけど、私がエイミーやリオとやってきたら、サササ―っと人がはける。――いえ、別にそこまで必死に配慮していただかなくていいのよ? 先だっての戦争とかこの前の内戦とかで、ますます私に対する配慮が加速しているわ。


「えーっと、レイナ・レンドーン、レイナ・レンドーンっと……」


 前世での私も、テスト前はきっちり試験勉強をする程度には真面目だった。地元の公立校に通って、そして地元の地方私大文系に。まあ頭良いわけじゃないけど、そこそこくらいはがんばれたと思う。


 この世界に転生してからは言わずもがな、レンドーン公爵家の人間として恥ずかしくないようにがんばっている。クラリスの教え方も上手だし、私もマメにやっているという自負があるわ。それこそ大陸に遠征している時や、今度の内戦の時も暇を見つけてはちょこちょこしてた。


「――あった! ――!?」


 なんだかんだ自信があったから、総合トップ10のところを探していた。名前はすぐに見つかった。だ。


「実技一位、筆記二位、総合……一位! 総合一位、レイナ・レンドーン!?」

「おめでとうございますレイナ様!」

「一位!? ついにやったなお嬢!」


 一位……? この私が学年首席? どどどどうしよう。嬉しいとかなんとかで今どんな顔をしているかわからないわ!?


「そ、そうだ! ディランやアリシアは!?」


 私は不動のトップディランと、秀才アリシアの名前を探す。アリシアが二位で、ディランが……四位!? ルークより下の順位よ。いったいなにが……?


「レイナ様すごいです! おめでとうございます!」

「ありがとうアリシア。そうだ、ディランを見かけなかった?」

「殿下ならあそこに……」

「あっ、本当だ。ディラン――!?」


 アリシアが指し示した先には、ズーンっと沈み込んでいるディランの姿。マギキンでも見たことがないレベルで落ち込んでいらっしゃる……。私はディランとは対照的にニコニコ笑顔で隣にいる、ルークに話しかけた。


「ねえルーク。ディランったら成績も気分も落ち込み過ぎじゃありませんこと?」

「ああ、こいつなら戦いのどうこうが精神的にきて、まったく勉強できなかったらしい」


 ああ、なるほど……。それはまあもっともな理由ね……。


「ハハハ、まあそう落ち込むなって!」


 バンバンとディランの背中を叩くルーク。そこはそっとしておいて、やめたげてよぉ! でもメンタル的な面でおくれをを取ったという事ね。今度のテストではディランの全力に勝つのを目標にしましょう。


「レイナ、学年一位おめでとうございます……。お花は後でお送りします」

「え、ええ。ありがとうございますわディラン。けれど、お祝いの花は辞退します」


 ディランのことだから馬車五台分くらい送りつけて来るに違いないわ。そんなことになったら、私のお部屋は一気にお花屋さんだ。いえ、それどころか長崎のテーマパーク並のフラワーフェスタよ。


「落ち込まないでくださいな。甘くて美味しいお菓子を作ってあげますわ。食べると元気になりますよ?」

「ありがとうございます。ところでレイナ、今年はもちろん月下のムーンライト舞踏会ダンスパーティーには参加しますよね?」


 月下の舞踏会? ああ、一年の時に参加したやつですわね。二年の時は風邪をこじらせて欠席。三年の時はドルドゲルスが攻めてきて中止。今年はちゃんと出席して、新作スイーツのアイデアを得ないとね。前回もシェフの自信作が並んでいましたし。


「ええ、参加すると思いますわ。風邪には気をつけなくちゃ」

「そうですか! では当日!」


 なぜか一瞬で元気になったディランは、ぴゅーっと走り去ってしまった。そして残されたルークもニコニコ笑顔から一転思案顔。これはまた何かありますかね?



 ☆☆☆☆☆



 やってきました月下の舞踏会当日。舞台は前回と同じロスリグレス城。尖塔が特徴の実にファンタジーなお城!


「レンドーン公爵家ご令嬢、“紅蓮の公爵令嬢”レイナ様のおなーりー」


 着到報告係の、間延びした声がホールに響く。“紅蓮の公爵令嬢”の名は、もはやこういう場面でも言われるのね?


「レイナ様、こんばんは。今日もドレスがよくお似合いですわ」

「お嬢ってそうしているとまさにお姫様って感じだよね」

「ありがとうエイミー、リオ。あなたたちも良く似あっているわ」


 私は新作だけれど色は変わらず深紅のドレス。エイミーは若草色。そしてリオは紺碧のドレスだ。こうしていると普段色気のない会話をしている私たちもきっちり貴族のお嬢様ね。


「レイナ様、舞踏会でなんですけれど、一点だけ」


 エイミーが前置き? ということは……魔導機のことね。


「例の〈フウジン〉とかいう魔導機、そして先日の〈イーゲル改アグニ〉の残骸を調べて、わかったことがあります。彼らの魔導機は、ある一点だけレイナ様並の高出力を出せるようになっていましたわ」


 ある一点だけ? そう言われると心当たりがあるわ。〈フウジン〉の《旋風》は攻防一体ですごい威力だったし、ブルーノは複数種の《爆炎弾》を使い分けていた。


「そして鹵獲した〈ツーヘッド〉――開発ネーム〈レト〉は、二つの力を使いこなそうとして機能不全に陥っていたと。例の紺色の魔導機やルシアらしき黒銀も、一つの力だけ増強された機体かもしれません」


 なるほどね。アリシアと交戦した時の挙動といい、だんだんと紺色の魔導機がわかってきた気がするわ。アリシアの《奈落の魔手》は当たった。あとはあいつが消えるカラクリを絞ることができれば――。


「グッドウィン王国王弟、ディラン殿下のおなーりー」


 今回の月下の舞踏会でも主賓である、ディランが中央の階段からゆっくり降りてくる。主賓であるディランが誰か女性を指名。一曲踊ることによって舞踏会の幕は上がる。ディランの足に迷いはない。誰かを見つけてまっすぐ一直線にやってくる。


 サーっと、まるでモーゼの海割りのように、ホールにいる子弟令嬢たちが割けた。彼ら彼女達も分かっているのだ。ディランが誰と最初に踊りたいかを。もちろん私も分かっている――。


「僕と踊っていただけませんか?」


 私の前までやって来たディランは、恭しく手を差しだす。私はその手にそっと自分の手を重ねた。


「はい、喜んで」


 ここに初代国王の伝説に由来する、月下の舞踏会の幕が上がった。

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