第218話 終わりよければすべて良し
「ウヒヒ、これも美味しいわね」
体調回復、元気百倍! もうすっかり魔力切れのだるさはなくなったわ。
名誉回復、汚名返上! お父様と陛下の話し合いの結果、謀反の件も綺麗さっぱり解決したし、心は晴れやか
――というわけで、なんかごたごたは解決した。なのでいつまでもウジウジ引っ張らないために、パーティーが行われている。
もっとも表向きは、グレアム殿下の国王即位記念パーティーってことになっているわ。だって“レンドーンの反乱”なんてものはなく、“反逆者ビアジーニの討伐”が行われただけってことになっていますからね。物は言いよう。内戦ではなく討伐。対外的には。
ま、レンドーン公爵家も無事だし、結果的にビアジーニ一派の陰謀を防げたし、領地の再編が行われてむしろお父様の負担は減ったし、結果オーライ!
「それにしてもお嬢様、食べ過ぎでは?」
「何言ってるのよクラリス。こういう時は食べて元気をつけなくちゃ!」
「そうなのですが……」
マギキンに現れたメアリー・スーことクラリスは、惜しくもディランを止めること敵わなかったらしい。やっぱり乙女ゲーのヒーローって強いわね。でも惜しいところまでいくあたり私の目に狂いはなかった。正直ハインリッヒが黒だと思う前は、チート持ち転生者と疑っていたくらいだしね。
「私の事はいいから、あっちでそわそわしているシリウス先生の所へ行きなさいな」
「それは……、お心遣い感謝いたします」
うん、これでよし。沢山食べようモリモリ食べよう。突き進め、食い倒れへの道!
「あの……レイナ……」
「あら? どうしたんですの皆さんそろって」
そろって現れたのはディラン、ルーク、ライナス、パトリックの攻略対象四人衆。ルークだけのほほんとしているけれど、後の三人は神妙な表情だ。
「謝って済む問題だとは思いませんが、すみませんでした……」
「何をですの、ディラン?」
「何をって……! 僕はあなたに剣を向けて――」
「ストーップ!」
私は人差し指を突きつけて、辛気臭い顔のディランの言葉を制止する。
「あなたは王族として王家に反逆する者を成敗しようとした。でしょ、ディラン?」
「しかし……」
「鹿も馬もありませんことよ。私もあなたもその時やるべきことをしようとした、それでいいでしょう? 私はピンピンしていますし、謝る必要はありませんわ」
無実の罪をはらすためとは言え兵をあげた時点で、まぎれもなくレンドーン家は王家に対する反逆者だった。そりゃディランは敵対して当然だ。
「ライナスとパトリックもです。あーもう、グダグダ悩みすぎですわ。
「レイナも
「ま、そうですわねライナス。オホホ……」
ラステラ伯爵はあえて王家につくことで、西部貴族の一斉排除阻止を狙った。アデル家は下手に騎士団を割って事態が泥沼に突入するのを防ぐために、隙を見せず統率した。それぞれ王国を想ってのことだ。そこに間違いはないわ。ま、全部お父様から聞いたんですけどね。
だいたい一番ド派手に暴れたの誰だ!? 私だ! オーホッホッホッ! 結果オーライ全て良し!
「だいたいそこで関係ない顔しているルークも、最初私に魔法撃ってきましたからね。あの面の皮の厚さは皆さん見習った方がよろしいですよ」
私が指摘すると、ルークはわかりやすくギクッとした反応をし、すまんすまんとジェスチャーをおくってくる。
「あ、そう言えばディランとルークの決闘はどうなったんですか?」
途中で去っていったけれど、結果が気になる。マギキンだとルートに入っているキャラが勝つのよね。
「僕の負けでした」
と、ディラン。ということはルークルート!?
「いいや引き分けだ。ディランは最初からボロボロだったからな。あれであそこまで競られたら、さすがに勝ちは名乗れねえよ」
なるほど、引き分けか。かなりイレギュラーに起きたイベントですし、これでアリシアの行く末はわからないわね。この世界が一筋縄ではいかないことは、もう重々承知している。
「レイナ様!」
「お嬢!」
「エイミー、リオ!」
エメラルドグリーンのドレスに身を包んだエイミー、スカイブルーのドレスをまとったリオだ。目覚めた後に一回会ったけれど、その後は忙しくて話せてなかった。笑顔で駆け寄ってくる二人を私は抱きしめる。二人とも苦しい状況の中よく頑張ってくれたわ。
「げえっ、エイミー……」
「あーらライナス様、ご機嫌麗しゅう」
「お、パイナップル・アデル!」
「それは果物だねえ……。僕はパトリック・アデル」
エイミーとリオはそれぞれライナスとパトリックと戦ったんですっけ? うん、こっちはすっきり仲良さそうね。安心安心。さっきルークも
「さあみんな、この肉詰めピーマンは私が作ってお出ししているのよ。召し上がって」
「はい、いただきます! ……爆発しませんか?」
「大丈夫ですわディラン、爆発するピーマンなんてあるわけないじゃないですか。美味しいですわよ」
「それもそうですね。いただきます!」
ウヒヒ、美味しい飯を食べればみんなハッピー! 万事解決すべてよし!
☆☆☆☆☆
「レイナ殿!」
「あ、モグラのお姉……ユリアーナさん!」
パーティーの途中、声を掛けられて振り返る。声の主はこの前のパーティーでも会った、十六人衆のユリアーナさん。ポニーテールがトレードマークの美人さんだ。その隣には少し年下っぽい見たことない女の子。
「なんだか最近よく会いますね。ドルドゲルスの大使としてですか?」
表向きは即位記念のパーティーだから、外国の大使も参加している。グッドウィン王国は盤石だというアピールでもあるわ。
「そうだ。どうも……大変だったようだな」
「まあいろいろと。……ここだけの話ですが、敵にブルーノがいましたわ」
「ブルーノが!? あいつめ、姿をくらましたと思ったら新しい飼い主を見つけたか。レイナ殿、六大神に誓って言うが、ドルドゲルスは奴とはもう関係ない」
やっぱり知らなかったみたいね。というか今のドルドゲルスにそんな陰謀を企てる余裕はない。それにトラウト家から提出された動向調査によると、周辺諸国で活動していた傭兵の多くがここ最近姿を隠しているらしい。それらの傭兵は姿を消す前、ブルーノから「良い儲け話がある」という誘いを受けていたという目撃情報がある。
クリフ事件の時に相手をした”旋風”イェルドや、今回ピアジーニを護衛していた傭兵連中の名前もリストにあったそうですし、彼らは”傭兵王”と称される傭兵ランキング上位に位置するブルーノがリクルートした連中で間違いないわ。後はその雇い主が誰か……。
「わかっていますわ。疑っていたら話しませんもの。ところでお隣の子は?」
「ああ。新しく十六人衆入りした、ヒルデガルトという。ほらヒルダ、ご挨拶を」
「こんにちは、ヒルデガルトさん」
私はにこやかに手を差しだすけれど、握り返してはくれない。それどころかキッと睨み返してくる。恥ずかしがり屋さんかな?
「あんたが“紅蓮の公爵令嬢”……?」
「いかにもそうですわ」
「フンッ、たいしたことなさそうね!」
そう言ってヒルデガルトはプイっと顔をそむける。おおっと、なんだこのキッズは? 落ち着きなさいレイナ。私は大人。ステイクールよ。
「こらっ、ヒルダ!」
「いいですのよユリアーナさん。私は気にしていませんわ」
「すまないレイナ殿。後できつく叱っておく。それではまた」
「え、ええ」
☆☆☆☆☆
モグラのお姉さんことユリアーナさんと生意気キッズことヒルデガルトの二人と分かれた私は、アリシアを探していた。なんだかんだ言って年下の子に嫌われると私だって傷つく。こういう時はアリシアのヒロインスマイルで癒されたい。
それにしてもユリアーナさんは大使をしたり新人教育をしたりと大変ねえー。リーダー的ポジションの苦悩の相談には乗れないけれど、健闘を祈っています。
「おっと、いたいた。ん? あれは……?」
やっと見つけたアリシア。その隣にはサリアもいる。それともう一人。銀髪のイケメンが一緒にいらっしゃる。ナンパかしら?
「あ、レイナ様!」
こちらに気がついたアリシアが手招きする。あ、話してもいい雰囲気みたいね。
「こんばんはアリシア、サリア。そちらのお方は?」
「あ、この方は――」
「お久しぶりです、レイナ・レンドーンさん」
見た目に反して意外に高めの声だ。もっと低い感じかと思った。お久しぶり? はて、私の記憶にはないわよ?
「あ、失礼。話すのは初めてですね。僕はロマン。バルシア帝国の大使です」
「バルシア……あ、もしかしてレオーノヴァ陛下の護衛の?」
「そうです。憶えてくださいましたか。改めてよろしくお願いします」
そうだ、思い出した。この人は美魔女皇帝の側近の一人だ。私が右腕を失って目が覚めた時、陛下の横にはこの人がいた。
でも確か、あの時は抜き身のナイフみたいな鋭さを感じた。けれど今は感じない。あれは襲撃があった翌日だったから緊張していたのかしら?
「ええ、こちらこそよろしくお願いします」
「ちょうどお二人にレイナさんの事をうかがっていたのです。すごく
「ウヒヒ、そんなことはないと思いますけど、照れますわ」
人気者……は言い過ぎね。まあ、少なくとも二人が慕ってくれていることの証明で嬉しいわ。
「陛下も仰っていましたが、是非バルシアに一度お越しになってください。何分寒い国ですが、精一杯おもてなしさせていただきます。それでは」
なんか初めて見たときとは違って爽やかな印象だ。それこそ攻略対象キャラみたいに……ん? 攻略対象キャラ?
「レイナ様、美味しいデザートが出ているみたいですよ」
「あら本当? それはお料理研究会として見逃せないわね。行きましょうか、アリシア、サリア」
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