第192話 お料理は火力が大事

前書き

ルビー視点スタートです

―――――――――――――――――――――――――――――


「ルイ、本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。それに姉さんだってレイナお姉様を助けたいだろう?」

「それはそうだけど……」


 私はさっきまでとは変わって、後をついて行きながら弟に尋ねる。普段頼りない軟弱な感じの弟だけれど、一度スイッチが入ると動きが早い……とくに悪巧みをしている時は。


「あった、ここだ」


 ルイの先導でたどり着いたのは魔導機格納庫だ。運用している数が多いことからも察しはついていたけれど、洞窟の中に作られたアジトにしては中々広大で、設備もしてやがるみたいですわ。でも――、


「一機もないじゃない!」


 格納庫の中はがらんどうだ。見渡す限り一機も魔導機が存在しない。それも当然と言えば当然か。既に戦闘が始まってからかなりの時間が経過している。可能な限り迎撃に出ているだろうし、ここに私たちが来たのに警備がいないってことは、もうここには使える物資は残っていない防衛を放棄された区画だということよ。


 これじゃあルイの言うところの“お土産”は手に入らないし、レイナお姉様を助けることはできない。まったく、無駄骨もいいところですわ。


「ルイ、魔導機がないと作戦も何もないじゃない。どうするのよ!」

「よく見て姉さん、格納庫の隅に一機だけあるじゃないか」

「隅……?」


 言われてみて気がつく。格納庫の片隅に、が存在することに。


は……、魔導機……なの?」


 近寄って確認してみる。これが魔導機であるか少し自信がない。だって見たことのない形だ。手足はある、けれど私の知る魔導機のどれともフォルムが違う。さらに特徴的なのは頭らしきパーツが二つある事だ。


「これ動かせるの?」

「……うん。各部異状ないし、いけるだろうね。姉さん、操縦は大丈夫だよね?」

「ある程度はいけると思うわ」


 レイナお姉さまの活躍に憧れて、お父様にワガママを言って魔導機教本なんかを手に入れてもらった。実機も一度は動かしたことがある。だからたぶん動かせる――いえ、動かしてみせる。


「僕は操縦経験がないからね。魔法力の操作を担当するから、姉さんは操縦に集中して」

「わかったわ。ところでルイはこれがあることを知っていたの?」


 私は起動準備をしながら、気になっていたことを弟に尋ねた。ここに来たのはさらわれてきて初めて。それに推論する材料もないのだから、我ながら馬鹿な質問だと思う。でも、そうであるならなぜここに?


「まさか。けれど予想はついていたよ。姉さんはサイス領を襲った魔導機に違和感はなかったかい?」


 違和感……? あの恐ろしい経験――魔導機に蹂躙される人や街を思い出して身震いする。あの時襲撃をかけてきた魔導機は確か……、


「……形が違った」

「そうだね。魔導機に詳しい姉さんなら気がついたと思うけれど、あの魔導機はどれも正規の機体とは細部が違った。それにいろんな機種が混じっていた。それは書物くらいでしか魔導機を知らない僕にも気がつけた」


 言われてみれば襲撃者は、王国製、ドルドゲルス製、アスレス製、バルシア帝国製などなど各国の魔導機見本市かと思うほどのラインナップだった。それらをどうやって用意することができたのかまるで想像がつかないけれど、そのどれもが私の知る正規の機体とはわずかに違った。


「どこかの勢力の後援を受けても、あれだけの種類をそろえられると思うかい? それに普通軍隊なら、整備の効率化を考えてなるべく機種をそろえた方が都合いいからね」

「そうか。つまり完全に正規品のパーツでそろえることができなくて、代替部品を使用しているってことかしら?」

「さすが姉さん、魔導機の話となると頭が回るね」

「ルイ、それって褒めているの? 貶しているの?」

「ははは、貶している? まっさかー」


 ……やたら棒読みの返答はともかく、その予想は当たっていると思う。だって無理のない話だ。魔導機を運用すれば当然部品は摩耗する。そしてあれだけの機種を運用するのなら、定期的に膨大な種類の部品が必要になるはず。きっと襲撃者は、捜査をかく乱するためにある程度誤認させるためのは重要視したけれど、細部はしかたなく代替部品で済ませているんだ。


「けれど細部は違っても、下賤な賊があれだけの魔導機を用意しているのは事実。それはどういうことですの?」

「そうだね。それに答えてくれたのがさっきのクリフの会話さ」

 

 私は今の今までまったく疑問に思わなかったけれど、考えることが好きな弟は何かに気がついたらしい。


「クリフはこれらの魔導機が“あのお方”という者に提供されたものだと言っていた。つまりこれらの魔導機は、盗まれたり横流しされたりじゃなくて、提供者が製造したレプリカの機体だよ」


 これだけの規模のレプリカ魔導機を!? そんな事ができる勢力なんて一国の――それも大国レベルじゃないと無理じゃ……。


「それに“旋風”とかいう魔導機乗りの斡旋も受けたと言っていたね。魔導機は誰でも乗りこなせるものじゃない。すなわち、提供された魔導機の数と用意できる魔導機乗りの数にはギャップが存在する」

「で、あんたは魔導機が余る方に賭けたってわけね」

「そう、そして賭けに勝ったかな? この機体、頭が二つあるし〈ツーヘッド〉とでも呼ぼうか。魔力準備オーケーだよ姉さん!」

「安直なネーミングでやがりますこと……、でもわかりやすいわ。じゃあ〈ツーヘッド〉発進!」


 初陣だし、魔導機は拾い物だし、緊張どころじゃない。けれど一番信頼できる弟は一緒にいる。それに憧れのレイナお姉様を助けるためだ。私が魔力を込めて操縦グリップを前に押し倒すと、〈ツーヘッド〉は静かに飛行を始めた。



 ☆☆☆☆☆



「〈フレイムピアース〉! 大人しく貫かれなさい《炎熱斬》!」


 ええいっ、魔法が効かないのなら剣よ剣! 私は腰から〈フレイムピアース〉を引き抜くと、〈フウジン〉目掛けて斬りつける。


「無駄だよ。無駄無駄ァ!」


 そんな私をあざ笑うかのように風のバリアを展開し、斬りつけた剣は受けながされる。ああもう、何なら効くのよコイツゥ!?


『お嬢様』

「なによクラリス、私は今取り込み中よ」

『申し訳ございません』


 クラリスは突入部隊を指揮している。何かあったのかしら?


『囚われておりました、ルイ様、ルビー様と合流いたしました』

「合流? 救出ではなくて?」

『聞くところによると、どうやら自力で脱出されたようです』


 やるわねあの子たち! ルビーに無理やり引っ張りまわされているルイが、ありありと目に浮かぶわ。でも、なんだかんだでルイもルビーの事が大好きだからね。


「それで? 叔父様のところに連れて帰ったことの報告かしら?」

『いえ、その後ルイ様のお申し出により別行動をとりまして、私たちは首謀者の捕縛を優先せよと』

「……ハア!? 別行動!? ま、あの子たちなら大丈夫でしょ。引き続き首謀者の拘束を……ってなんで私にこの件を? 総指揮はお父様じゃなくて? ――おっとっと」


 通信の間も敵は待ってくれない。直撃すれば致命傷な極大の竜巻がビュンビュン飛んでくる。


『その通りです。しかし、私がお伝えしたかったのは一つだけ。もう人質はいないということです』

「ああ、なーるほど。じゃ、がんばるわ」

『はいお嬢様、ご武運を』


 はい、通信終わり。風魔法を利用した通信がもっと効率化できれば、電話みたいに気軽に使えるかしらね? ……と、雑念はそこまでにして、こっちを片づけちゃいましょうか。


「さてと、お待たせしましたわね」

「俺との戦闘中に通信とは、舐めてくれるねえ」

「あら、私は美食家ですからなんでもかんでも舐めませんわ。私はただ、をしていただけです」

「……?」

「ええ。私の魔法ってすごい威力ですから、迂闊にフルパワーでいくと人質のいる場所ごと吹き飛ばしかねませんもの」

「……は?」


 は、じゃありませんが。でもまあ理解できないご様子。見せるのが早いかしらね?


「つまり今から最大火力ということですわ。さあ、レイナのお喋りクッキングのお時間よ?」

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